農業体験も食育も包括した全人教育
エディブル・エデュケーション岡山研究会
助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。エディブル・エデュケーション岡山研究会の田辺綾子(たなべ りょうこ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/高石真梨子)

エディブル・エデュケーション
エディブル・エデュケーションは、〈必修教科+栄養教育+人間形成〉の3つをゴールとした教育プログラムで、全米の公立、私立校で正規の授業として実践されています。
起源は1995年に米国カリフォルニア州バークレー市にある公立中学校で始まった、持続可能な生き方のための菜園学習プログラムであるエディブル・スクールヤード(以下「ESY」と記載)です。
ESYでは、「エディブルガーデン」と名付けられた菜園を活用して自然を敬い、食を心から味わい、エコロジーを学ぶ授業が行われています。指導にはガーデンティーチャーやキッチンティーチャーと呼ばれる専門家が配置され、児童・生徒に「教える」だけではない、体験から生きた学びを引き出して伝えることが特徴です。
エディブル・エデュケーションは、ESYの実践から体系化されたもので、食を通じて学べるすべての教育的可能性が含まれており、各々の学習目的を融合させることを目的に設計されたガーデンとキッチンを活用します。
ガーデンの中心にはみんなで集まる場所(ラマダ)があり、菜園の植生や、そこへ集まる様々な生きものを観察することを通して多様性を学んだり、オーガニックな栽培とその意義を考えたりできる環境が整った場所です。五感を使って子どもたちの興味を引き出せるように、よく手入れされた本格的な道具が揃います。
キッチンは、自分たちで準備から片付けまで行うことができる工夫があり、常に創造的な授業が行われる場所です。児童・生徒たちが野菜をつくり、収穫し、調理し、食卓を囲んで共に食べることを基本に、あらゆる学びが展開されています。
日本でも2014年頃からエディブル・エデュケーションを取り入れる学校が出てきており、少しずつ浸透し始めている教育プログラムです。
参考資料
日本環境教育フォーラム
一般社団法人エディブル・スクールヤード岡山
エディブル・エデュケーション岡山研究会

エディブル・エデュケーション岡山研究会は、岡山県内で初めてエディブル・エデュケーションをはじめた団体です。代表の田辺綾子さんは、エディブル・エデュケーションをいち早く国内へ紹介した一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパンで学んだ実績があります。
主な活動は、小学1年生から6年生までの児童10数名が毎月1回岡山県倉敷市にあるモデルガーデンに集い、ガーデンワーク・キッチンワーク・アート制作・座学など、季節のタイミングにあわせて取り組んでいます。プログラム中は保護者から離れて、子どもとスタッフだけの時間を過ごし、循環する自然の摂理の中で、土に触れ、植物を育て、仲間と対話し、考え、試行錯誤をします。
時には失敗することもありますが、これらすべてのプロセスを通して、「自分はどう感じるのか」「自分はどうしたいのか」という感覚を自ら育てるプログラムになっています。
つまりここでは、保護者同伴にしないことで、子ども自身が自分に向き合う環境が設計されているのです。
モデルガーデン以外にも、学校や幼稚園・保育園・子ども園、学童保育、教育施設などでの出張教室にも対応しています。また、まちづくりの一環として、公園や空き地、屋上を都市農園として利活用したい方へのアドバイス、プロデュースや委託運営など地域との繋がりも大切にしています。
教科を横断しながら子どもたちの“考える力”を育むエディブル・エデュケーション

―エディブル・エデュケーション岡山研究会の設立背景を、教えてください。
田辺(敬称略):エディブル・エデュケーションを始めるまでの私は、肥料・農薬・除草剤を使用しない「自然栽培」の普及活動の傍らで音楽教室の講師をしていました。それらの経験をとおして、自然と子どもたちをつなぐ教育に興味を持ったので、2017年に知り合いのお子さんに声をかけてエディブル教育の活動を始めました。
実際に活動してみると子どもたちの目がキラキラしていて反応が良かったので、その後も単発開催を繰り返すと、同じ子どもが何度も参加するようになりました。そこで、子どもたちが継続的にプログラムに参加できるよう、体系化する過程で2020年に立ち上がったのが、任意団体「エディブル・エデュケーション岡山研究会」です。
―活動内容を教えてください。
田辺:子どもたちは月に一度ガーデンにやってきて、ハーブや野菜を育てたり収穫したものを料理して食べたりする活動をしています。また、エディブル・エデュケーションは主催者の得意分野を生かしたプログラムも展開していて、私の場合は環境教育の講師もしていることから、SDGs と繋ぐことも得意です。菜園と環境をSDGs の観点で考える時間を設けることもあります。
例えば、麦を育てている時には、麦を栽培している国やその国の歴史や時事問題について子どもたちと考えるなど、SDGs の考え方を使いながら教科を横断する学習を意識しています。
活動は子どもたちと私たちエデュケーター(スタッフ)のみで行なっていますが、保護者の方には活動の様子が分かる写真付きのレポートをお渡しして、活動内容を共有しています。

―活動をとおして、子どもたちにどのような変化が見られましたか?
田辺:虫が大好きな子どもが、学校の理科の授業では意欲的にリーダーシップをとるようになったと保護者から教えてもらいました。
活動では虫を触ってばかりで、リーダー的なふるまいをあまり見たことはありませんでしたが、小学1年生から6年生までが共に活動していて自然にお兄さんお姉さんがロールモデルになってくれているので、その姿をしっかりと見ていたのでしょうね。大人はつい口出しをしてしまいたくなりますが、子どもたち同士のやり取りを見守り続けて良かったなと思いました。
―子どもたち同士のやり取りで印象的だったエピソードがあれば、教えてください。
田辺:先日の活動で、ガーデンのピザ窯を使ってピザを焼いた時のことです。
普段は全員揃ってから昼食をとり始めますが、この日はガーデンのピザ窯が1枚ずつしか焼けないので、子どもたちには焼けた人から食べて良いと伝えました。そうしたら、高学年の女の子たちが「食べるのがゆっくりな子から焼いたらいいんじゃない?」と焼く順番を譲りはじめたんです。
活動をはじめた当初は自分のフォークしか並べなかったような子たちが、自分たちで思い立って提案してくれたこと、自分以外の存在に目を向けはじめたことは、うれしい成長です。これも、異年齢集団での活動の良さだろうと思っています。

―モデルガーデンは子どもたちがガーデンにやってきますが、田辺さんが保育所に訪問して行なうプログラムもあると聞きました。
田辺:現在は倉敷市内にある保育園と認定子ども園の二箇所でエディブル・エデュケーションをしています。どちらの保育園も園内にエディブルガーデンを作っているので、そこに私が通って保育士さんと一緒に活動を進めています。
未就学児のプログラムで意識しているのは、文部科学省や厚生労働省が幼児教育のために策定している『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿』です。ひとつのガーデンで複数の幼児が活動するので、助け合いや思いやりの気持ちが育つような言葉がけや、幼児の主体性を促せるような内容を用意しています。
エディブル・エデュケーションをとおして、普段の保育では見られなかった子どもたちの新たな一面が見られたと、保育者の方々から好評をいただいています。
助成の採用が、活動継続への大きな自信となった
―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けようと思いましたか。
田辺: 教育に関する団体への助成をしている福武教育文化振興財団さんに、当時の私が始めようとしていたエディブル・エデュケーションが「教育」として可能性のあるものなのか、を第三者に審査していただきたいと思ったのが助成の申請をした大きな理由です。
特に初めて採択していただいた2021年度は活動を始めたばかりだったので、申請にあたって自分の活動を言語化して整理することも、福武教育文化振興財団さんのような団体にこれからを認めていただいたことも、大きな糧になりました。

―当財団の助成を受けて、良かったことは何ですか。
田辺:エディブル・エデュケーションを岡山の地に広めていく覚悟を表明した申請だったので、採択していただけて大変うれしかったです。また、審査してくださった教育業界の錚々(そうそう)たる先生方々からエディブル・エデュケーションを教育として認めていただいたことは、活動を続けていく自信につながりました。
また、2023年度から3か年継続助成に選んでいただいた際には、私たちの活動へ福武教育文化振興財団さんから期待していただいている実感を得ました。だからこそ、最終的には助成金に頼らずに自走していく仕組みづくりをせねばと、覚悟を決めたんです。
そこで、2023年度からは活動と並行して任意団体だった「エディブル・エデュケーション岡山研究会」を一般社団法人にするための準備も進め、2026年4月に「一般社団法人エディブル・スクールヤード岡山」として登記するに至りました。
活動の意義を認めてくださったこと、そして今後を期待してくださったことは、いただいた金額以上に大きな財産となっています。

―今後の目標を教えてください。
田辺:団体として自走する準備を整えたので、次は「継承」を意識していくフェーズに入りたいと思っています。一般社団法人になったので、現在は子どもの活動プログラムだけでなく指導者のためのカリキュラム開発も考え始めています。
ガーデンに来ている子どもたちの中には、小学校卒業後もガーデンに通い続けたいと言ってくれる子もいるので、その子たちが帰ってこられる場所を残していくことも私たちの役割です。
どのような形であれ、エディブル・エデュケーションの精神や考え方を広めてくれる人が一人でも増えるような「継承」に繋げていきたいです。
おわりに

岡山で初めてとなるエディブル教育を軌道に乗せていくために、助成を受けはじめたエディブル・エデュケーション岡山研究会は、エディブル教育活動が評価されて、現在は保育所と共同での活動も継続的に行われはじめました。だからこそ「教育事業として応える」覚悟の一つが一般社団法人の立ち上げであったと、田辺さんはいきいきと語ります。
仲間を増やし、倉敷を拠点に岡山県内の家庭や教育現場に広がりつつあるエディブル・エデュケーション。
3か年継続助成を経て一般社団法人としてさらにパワーアップしていくエディブル・スクールヤード岡山の今後に期待が高まるお話でした。
成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_055.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2023_040.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2024_032.html
エディブル・エデュケーション岡山研究会
(2026年4月に「一般社団法人エディブル・スクールヤード岡山」へ移行)
岡山県倉敷市
問い合わせ先
https://and-garden.jimdofree.com/
https://edibleschoolyard-okayama.jimdofree.com/