財団と人

#018 嶋田学さん

瀬戸内市民図書館 館長

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  • 2024.03.18

個人の自立を支えるということが公共図書館の大きな役割

「持ち寄り・見つけ・分け合う」広場をめざして2016年に開館した瀬戸内市民図書館。昨年の秋、図書館関連で国内最大のイベント「図書館総合展」でLibrary of the Year (注1)2017の大賞とオーディエンス賞を受賞し、全国から注目されています。準備から開館まで携わってきた館長の嶋田学さんに、図書館の役割について伺ってきました。(聞き手:山川隆之=2012年福武文化奨励賞、財団/和田広子)

「読みたいと思う本を買いなさい」という家で育てられ

和田 本との出会いやエピソードをお聞かせください。

嶋田 父が大の読書家で、本が好きで、いますぐ読めない本も含めて、読みたいと思えば買う、買って家の本棚に詰めて眺めて楽しんでいる人でした。人が寝静まった時間に読むのが一番よく進むんだと、夜中に本をいつも読んでいました。しかし、父からは、この本を読みなさいと言われたことは、一度もありませんでした。月に1回あったかなかったかですが、近所の本屋に連れて行ってもらって、読みたいと思う本を買いなさいと言う、そういう父でした。私は最初、物語よりもいわゆるノンフィクション系の、本当にあった話が好きな子どもでした。

和田 最初に買ってもらった本を覚えていますか?

嶋田 たぶんディズニーの『101わんちゃん』。子どもが目について手に取りやすい本でした。その次に印象に残っているのは、学研から出ていたと思うのですが、事件事故の本です。小学校3年生の頃から、新聞記者というか報道に興味を持ちだして、誰にも頼まれないのに5年生の頃から、クラス新聞を編集して作って印刷して、配っていました。

和田 クラス新聞の内容は何ですか。

嶋田 新聞やニュースから知り得た世の中のことや、クラスで起こった事件ですね。誰々と誰が喧嘩した、けれどこれで仲良くなったとか。町で起こった事件事故は、実際にそこに見に行ってリポートしていました。今思えば、先生はよく了解してくれたと思います。

和田 クラスでの評判よかったですか?

嶋田 どうだったんでしょう、聞いたことないんです。最初は、印刷させてもらって一枚ずつ配っていましたが、そのうち壁新聞に変わって、掲示板に貼らせてもらうスタイルに変わりました。電車が好きだったので、南海電車に新型車両が入ったとか、自分の興味のあるものを新聞にしていました。

和田 ほかの人にも知っていただきたいという気持ちからですか。

嶋田 自分が面白いと思ったことをみんなに知ってもらいたいということでやっていました。本のことと全然違う話に……。でも本と出会わなかったら、たぶん、そんなことしてなかったと思います。自分が記者になった気分でレポートして伝えるという、ごっこ遊びですよね。

将来は国語の教師になって吹奏楽部の顧問にと

和田 中学、高校はどのように過ごされましたか。

嶋田 中学生になってからは、そういう傾向は全然なくなりました。相変わらず、鉄道は好きでしたが。高校は吹奏楽部に入りました。顧問の先生がとっても素晴らしい先生で、将来は先生になろうと決心しました。国語が得意だったので、国語科の教師になって吹奏楽部の顧問になるというライフプランを描きました。大学も文学部国文学科に行き、吹奏楽の方もOBとして母校に指導に行きながら、本当に学生時代は遊ばずに真面目に一生懸命勉強したのですが、残念ながら教員採用試験には2年続けて合格できず、見事に挫折です。

大学を出てから1年目に仕事をしながら桃山学院大学で夜の講習を受けて、5カ月間かけて司書資格を取りました。次の年の夏に豊中市立図書館の採用試験で合格して、公務員として図書館員になれたのはすごくラッキーでしたね。ご縁だと思って図書館司書の道に進んだということですね。

和田 中学生、高校生の時代も、本は読まれていましたか。

嶋田 量を読む方ではなくて、気に入ったものをじっくり時間をかけて読むタイプでした。高校生の頃もやはり、文学よりはルポルタージュ、本当にあったことが好きでした。友達の影響で夏目漱石を読んだり、近代文学を少しずつ読み始めました。そういう意味では、著名な本を読み始めたのは遅かったです。

1年目は移動図書館の配属
図書館の原点だと思いました

和田 豊中市立図書館での初仕事とは何でしたか。

嶋田 1年目は移動図書館の配属、係になりました。私も子どもの頃、生まれ育った町に図書館がなかったので、大阪府立図書館から移動図書館車が来ていました。バスの中の限られたスペースに、大人の本も子どもの本もいろいろな本が並んでいる景色は、小宇宙のようなワクワク感がありました。自分が仕事をする立場になってみて、図書館の原点だと思いました。本を求める人のところに、こちらから出かけて行って、本を提供すると、お客さんとの距離感がすごく近くて、リラックスしていらして、次はこんな本を持ってきてほしいとか、読んだ本の感想を気さくに、その場でやりとりできるというのが楽しかったですね。

和田 そして、人口6500人の図書館のない町に図書館を創るという仕事に魅力を感じて、1998年に滋賀県旧永源寺町図書館準備室に転職でしょうか。

嶋田 はい。図書館の勤務経験のある職員を全国公募していたのでチャレンジしました。いちから図書館を作っていくということに、すごく大きな関心があって、思い切って飛び込んでみました。

新しく作る図書館の準備の仕事と共に8千冊の図書室と23カ所の移動図書館の仕事をするなかで、自分たちがこの程度でいいとあきらめるのか、もっとサービスを高めるのか、図書館員としての姿勢を問われる大きな節目となりました。

和田 新しく図書館を作るためのノウハウは、どこで勉強されましたか。

嶋田 1980年、前川恒雄さん(注2)が滋賀県立図書館の館長に就任されました。それまで県民一人当たりの貸出冊数が下から2番目だったのが、2002年には、県民貸出冊数が日本一になったんです。それまでは長い期間東京都が一番でした。図書館のキャリアのある方に準備段階から携わってもらい館長に就任してもらうというのが、滋賀県の図書館施策の大きな特長でした。東京、北海道、大阪、九州、各地から元気な図書館員が来て、新しい図書館を作っていました。

和田 そこで受けた刺激は、大きかったですか。

嶋田 思いも技術も一流の人たちが来て、どんどん新しい図書館ができていって、切磋琢磨という言葉が合う、ほかの町に負けないような図書館を作ろうという、お互い、よい意味で競い合っていた時代が80年代後半から90年代にかけてのことでした。象徴的なのが85年に開館した八日市市や草津市の図書館で、市町村の図書館が元気になってくるきっかけでした。市の図書館が整備されてきて、次は町立だということで、永源寺町は比較的後発組でしたが、町にもきちんとした図書館を作ろうということで、滋賀県の図書館振興策で建物や図書購入費をサポートとしてもらいました。

町づくりに図書館がどう関われるか、役立つべきか

和田 施策の勉強も必要ですね。

嶋田 はい。図書館の専門的な事以外で自治体政策を意識したのは、市町村合併というのが契機でしたね。今まで小さな町で独自の町づくりをしてきたのに、国の施策の流れで、合併した町が、どういうアイデンティティで新しい町を作っていくのか。自分たちの地域の文化や歴史を前面に出しすぎると、地域エゴと言われるし、でも新市の名称はまだ馴染みがなくまち全体の具体的なイメージがわからない。どういう思いをそこに込めればいいのかということが本当に切実でした。

図書館では、文科省の社会教育活性化21世紀プランという助成金を活用して、現代的な地域の課題を解決するような講演会や施設見学を町の人と一緒に企画した時期がありました。職員の私たちは、合併の研修で政策系の大学の先生の指導を受けて、政策形成の勉強を一生懸命やらされたというか、やりました。私は初めて、町づくりに図書館がどう関われるか、どのように役立つべきか、地域でこれからどういうことが課題になるのか、それに対してきちんと資料を提供していくことも公共図書館として大事だという意識になったのも、合併が契機でした。

自ら学ぼうという人が増えると、町は元気になる、活気づく

和田 図書館の役割を一言で言うと。

嶋田 個人の自立を支えるということが公共図書館の大きな役割、まずこれがベースです。人はひとりで生きいているのではなくて、地域社会の中で、お互い助け合いながら生きています。地域社会の課題についても図書館がしっかりと、必要な情報提供をしていく、動機付けも含めてやっていくことが必要だと思います。

個人に対していかに資料提供するか、図書館の使命はそれ以上でもそれ以下でもないという方もいますが、でもその結果何が生まれてきたかというと、図書館で本を貸し出すだけなら、公務員でなくても、ある程度民間でできるんじゃないかという誤解です。貸出とはあくまで手段であって、図書館はどのような役割を果たせるか、具体的にアピールする努力が足りなかったと思います。

和田 機械で貸し出しはできますよね。

嶋田 図書館の特色は、総合性だと思っています。

私たちの先輩、私も含めてですが、何を図書館の指標にしてきたかというと、貸出冊数オンリーでした。それだと地域のいろんな所に周って、コストをかけて全域にサービスをしなくても、一点豪華で、駐車場が広い、ショッピングモールのような図書館を建てて、うちの町って貸し出し数がすごいんですよ、言っていればいいわけです。でも私たちが思うのは、いったい住民のうち、どれくらいの割合が図書館を使っているか、あるいは地域差はどうなのかとか、年齢差によって、そういう差ができるだけ大きくないかとか、そういう総合的に判断していく必要があると思っています。それは、移動図書館から入ったということが色濃く影響していると思います。まず、そういう図書館の遠隔地からサービスをして、全体にサービスを行き渡らせるということが、公共サービスの大事なところだということですよね。

和田 難しいですよね。

嶋田 公共の価値というのは、単純な計量であまり勝負しすぎないことが大事だと思います。私たちがやっているサービスは、こういうような意味があるんだということを丁寧に説明することを手放さないようにしたいですね。

和田 評価を数字で測ってしまいがちです。

嶋田 数字も大事ですが、それだけではなくて、図書館の行事にどの程度市民が参画しているか、行政施策との連携が有機的に展開されているかなど、総合的に判断していって、それをうまくプレゼンしていくのが私たちの公務現場に求められていることです。しかし、残念ながら公共施設のアウトソーシングされていくことだけでなく、企画部門をもアウトソーシングされてきています。

和田 政策もアウトソーシングしているということですか。

嶋田 例えば、図書館作りについても、今まで少なくとも設計者を決める際のプロポーザル手続きなど、調達のデザインは公務員がやっていました。今はプロポーザルの発注自体をデザインしてくれるコンサルタントに頼むという、そういう時代になっています。そのコンサルを選ぶプロポーザルの仕組みぐらいはギリギリやっていますが、そこはちょっと危うい感じがします。

少なくとも私たちは設計者を決めるとか、政策、図書館の基本計画は自前で作って、市民の皆さんとワークショップを行いながら、キャッチボールをして作ってきたというプロセスを経ましたが、今はそういう市民ワークショップを代行してくれるコンサルティングがあります。図書館自体を、何々株式会社さんにお願いしますというふうになっていると、もっと厳しいですよね。

和田 図書館をつくるプロセスも大切ですが、できてからは、もっと大切だと思います。瀬戸内市民図書館のこれからの運営について教えてください。

嶋田 私が来てから5年2ヵ月、開館までかかっています。長い期間をかけて市民の皆さんとやりとりをしてきました。開館まで12回ぐらいのワークショップと記念講演を開催しました。今は、市民の皆さんからこういう催しをしないかとか、イベントの手伝いましょうかとか、そういう方々が出てこられて、図書館の友の会みたいなのを作ったらどうでしょうという発案もいただいています。実際に2017年に図書館友の会について集まりませんかとの発信に26名からスタートして、現在87名です。賛助会員でお金だけ出して応援してくれる方も含まれます。毎月、運営委員さんが12名集まって例会をしています。まだ始まったばかりなので、細々ではありますが、図書館が好きとか、本が好きとか、そういう人たちがだんだん集まって、友の会で一つの大きなことをするのではなくて、いろいろその中でやりたいことがある人が集まって、何となく友の会ということでつながるといいなあという感じでやり始めているところです。

一人ひとりの人生に向き合うというのが本の力

和田 こうなっていけばいいなという理想像は、ありますか。

嶋田 やはり、少しでも多く住民の方に使っていただきたいというのが一つですし、図書館というのが、まだまだ読書=文学というイメージが強いので、参照読書も含めて、何か困ったことがあったら図書館に行けば本、雑誌、司書という情報ナビゲーターから何かしらヒントが得られるんじゃないかというふうに思ってもらえる人を一人でも増やしたいということです。

それと、自分が主体的に生きる、自ら学ぼうという人が一人でも増えると、町は元気になる、活気づくというか、そのために図書館というのはとっても大事だと市長が思ってくれているというのは、図書館を預かる身としてはありがたいです。

和田 移動図書館は、されていますか。

嶋田 やっています。今、市内で15カ所、保育園、幼稚園に毎月、図書館員が2名乗って行って、本の貸し出しとお話し会をしています。また、ご希望のあった15カ所の高齢者施設。デイケアもあれば、特養のような入所施設もありますが、同じように毎月2人で行って、大きな活字の本とか、録音図書、趣味や園芸手芸の本や、昔なつかしい男優さん女優さんの写真集を持って行っています。

介護士の方から聞いたエピソードを一つ。入所して犬との生活ができなくなって、ものすごくふさぎこんでいたおばあさんが、犬の写真集を1ページ1ページめでて、そのうち思い出話をして泣き出したが、最後はものすごく満足げにその本を閉じた話を教えてくれました。移動図書館の貸出冊数は半日で200冊ぐらいです。時間当たりの貸出冊数は、固定施設としての図書館の方が多いですから、貸出冊数のみを追うのであれば、人を出さない方が合理的との見方もできます。でもそういうことではなく、サービスを求めている人々の元にきちんと届けていくこと、量では多寡では図れない、一人ひとりの人生に向き合うというのが図書館の果たすべき役割だと思います。

山川 瀬戸内市民図書館の、市立ではなく市民の意味は何ですか。

嶋田 市民の皆さんの図書館、市民が主役だということです。牛窓も長船も邑久含めて瀬戸内市民の拠点の図書館ですよというイメージが伝わりやすいかなと。

山川 図書館の中でやりたいことはありますか。

嶋田 認知症にやさしい図書館というのを標ぼうしています。地域包括支援センターとも連携して、認知症サポート養成講座をやったり、認知症カフェをやろうとか、病院事業部ともつながって、健康医療情報セミナーを実際に医療者の方に来ていただいて、そういうお話をしていただくことなどを考えています。

図書館はあくまで縁の下の力持ちというか、黒子という意識があるので、皆さんが上手に図書館を使っている姿が前面に出るというのが、私たちの理想です。館長がどうとか職員がどうとかではなくて、図書館友の会の会長が前面に出るとか、市民の皆さんがグループを組んでこんな勉強を図書館でやっているんですという、そういう方々が多くなってくれたら嬉しいです。

(対談日:2017.11.02)

注1:「Library of the Year」(LoYは、これからの図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている 機関に対して、NPO法人 知的資源イニシアティブ(IRI)が毎年授与する賞

注2:前川恒雄 1930年石川県生まれ。図書館学者。65年東京都日野市立図書館長に就任、日野市助役を務めたのち、滋賀県立図書館長、甲南大学文学部教授を務める。著書に『われらの図書館』ほか