地域と学校が支える“中学生だっぴ” 世代を超えて語り合う場を未来へつなぐ
岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会
助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会の事務局長の平田由香(ひらた ゆか)さんと、事務局員(助成時は事務局長)の大貫(おおぬき)かすみさんにお話を伺いました。(取材・文/大島 爽)

岡山中央中学校
岡山中央中学校は、岡山市の中心部・北区蕃山町にある公立中学校です。1999年(平成11年)に、丸之内中学校と旭中学校が統合して誕生しました。統合前の両校はいずれも1947年(昭和22年)に創設された歴史ある学校で、校地内には、江戸時代後期に岡山藩の藩学が置かれていた当時の「泮池(はんち)」が今も残されています。
岡山中央中学校は、2019年(令和元年)に開校20周年を迎えました。
旧岡山藩藩学跡(国指定史跡)
旧岡山藩藩学 岡山世界遺産登録を目指して
旧岡山藩の藩学|岡山市
岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会

岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会は、2020年に設立され、委員長の森山幸治(もりやま こうじ)さんを筆頭に、現在は21人のメンバーで運営しています。メンバーは主に、現役のPTA、卒業生、卒業生の保護者で構成されています。
「だっぴ」とは、NPO法人だっぴが掲げる、「一人ひとりの若者が、人とのつながりの中で自分らしく生きられる社会へ」というビジョンのもとおこなっている、主に中学校や高等学校で実施されている対話型の教育プログラムです。
地域の大人との対話を通して、生徒が多様な価値観に触れながら意欲を高め、自分で自分の生き方を選び取る力を育むことを目的としています。
岡山市立岡山中央中学校では、このプログラムを中学2年次の授業カリキュラムの一つとして導入し、岡山中央中学校だっぴ実行委員会がその運営とサポートを担っています。
生徒だけでなく、参加者全員が実感する「対話の力」
―団体を立ち上げたきっかけを教えてください。
平田:きっかけは、「中学生だっぴ」を長く続けていくための運営体制を整えたいと思ったことです。
それまでは、NPO法人だっぴと学校とが協力して実施していましたが、毎回、地域の大人ゲストを集めるのが本当に大変でした。
そこで、「地域をよく知っている保護者が運営に加われば、日頃のつながりを生かして声かけができるので、大人ゲストを集めやすくなるのではないか」と考えるようになりました。さらに、生徒の卒業とともにPTAを離れていく保護者にも、岡山中央中学校の“応援団”として関わり続けられる場をつくりたいという思いもあります。
ちょうどその頃、2019年10月に岡山中央中学校の創立20周年記念事業がおこなわれました。学校・PTA・同窓会の三者でやり遂げたことで、地域と学校のつながりが深まり、“何かを始める”機運も高まっていたと思います。その流れを受け、2019年度の終わり頃から準備を進め、翌2020年度に「岡山中央中学校だっぴ実行委員会」を正式に立ち上げました。
―委員会を立ち上げ後、NPO法人だっぴとの関係性はどうなりましたか。
平田:活動は私たちで行いますが、定期的にアドバイスをもらっています。コンサルタント的な立場として関わっていただいています。
―これまでの活動内容を教えてください。
平田:2020年度に実行委員会を立ち上げて、今年で6年目になりますが、2020年度から2022年度までは、新型コロナウイルス感染症の影響で開催を中止せざるを得ませんでした。
その間、活動の再開に向けて、「中学生だっぴ」を知ってもらうための広報活動を中心に取り組んでいました。参加してくれる大学生キャストや大人ゲストの募集を続け、大学を訪問して直接お話ししたり、事務局メンバーが知り合いに声をかけたり。また、地域とのつながりづくりとして、町内会に寄付のお願いに伺った際、私たちの活動の目的をお伝えし、理解を深めてもらうよう努めました。
大貫:2022年度には、福武さんの助成を受けて「夏だっぴ※」を、新型コロナウイルス感染症対策で、開催が叶わなかった学年の希望者を対象に実施しました。保護者の方から「子どもが参加してとても良かったです」とお声もいただき、大人数を集められなくても続けることの大切さを実感しました。
そして、新型コロナウイルス感染症が5類に移行した2023年度以降、毎年2年生を対象に「岡山中央中学生だっぴ」を実施できるようになりました。生徒、大学生、大人を合わせて約200名が参加しています。
※夏だっぴ…授業のカリキュラムの「だっぴ」ではない、少人数で希望者のみで行った臨時開催の「だっぴ」

―平田さんと大貫さんは、立ち上げ当初からメンバーだったのですか?
大貫:当時、平田さんと私は現役PTAとして、他の保護者も含めて学校から「一緒に参加してもらえませんか」と声がかかったことがきっかけでした。私自身、以前大人ゲストとして「だっぴ」に参加したことがあって、その時の内容が本当にすばらしかったんです。生徒たちの反応や場の雰囲気を体感して、「これはぜひ続けていくべき活動だ」という思いで関わるようになりました。
―内容のどういった点に良さを実感していますか?
大貫:やっぱり家庭以外で子どもを認めてあげられる場があるというのは大きいと思います。
親から言われる言葉と、家族以外の大人から「頑張っているね」「君の考え方、すごくわかるよ」と肯定してもらえる、その言葉の重みはまったく違うみたいです。実際に生徒が、「自分の言ったことを、大人が「わかる」って言ってくれたのがすごく嬉しかった」と話してくれ、その言葉を聞いたときに、実感しました。
平田:だっぴのプログラムは本当に良くできているんです。最初は、知らない者同士が一堂に会して、まずはジェスチャーゲームで少しずつ距離を縮めていきます。そのあとに、自分の経験を話しやすいシンプルなテーマをもとに、お互い自然と自分のことを言葉にできるようになる。そうしているうちに「この雰囲気なら、今日はここまで話せそうだな」っていう感覚が生まれるんです。そこから、価値観を共有するようなテーマへと進んでいって、段階を踏みながら参加者同士の距離がぐっと縮まっていくんですよ。

―生徒さん以外の参加者、大人や大学生の様子にはどんな印象がありますか?
大貫:2024年度に参加された大人ゲストの方が、終わったあとに「最初、無表情だった子が、自分の言葉に“うわあ”って反応して、表情がパッと変わったんです!」と、興奮気味に話してくださったんです。
平田:「その瞬間に立ち会えて、本当に感動しました」と言われていて、こちらまで嬉しくなりました。中学生と話すことで、社会での自分の役割を実感する方もいると思います。
大学生も、中学生と話すことで自分の中学時代を思い出したり、これまでの歩みを振り返ったりできるようです。さらに、大人の方々と話すことで、新たな目標を考えたり、自分を見つめ直したりする時間になったという感想も多く寄せられました。
参加者それぞれに得るものがあるプログラムだと実感しています。
―平田さんと大貫さんが、この活動に積極的に関わっている原動力は何ですか。
平田:これまでお世話になった中学校に、恩返しをしたいという気持ちがあります。子どもが卒業したら縁が切れるのではなく、ゆるやかにつながっていられるのは、自分にとって、もう一つの居場所があるように感じられるんです。そうしてかかわり続けられることが、中学校や、生徒たちのためになるのなら、という思いがあります。
大貫:この行事を絶やしたくないという気持ちが一番大きいです。もしこの実行委員会がなくなってしまったら……という不安もありますし、やっぱり多くの子どもたちに「中学生だっぴ」の経験をしてほしいと願っています。
やがて生徒たちは高校生になり、大人になっていきます。社会の中である時、ふと、「そういえば“だっぴ”で大人と話したな」「あのとき話せたじゃないか」と思い出してもらえたらと。ほんの小さな経験かもしれませんが、迷ったときにその記憶が背中を押すこともあると思うんです。だからこそ、この“だっぴ”の場を続けていきたいという強い思いを持っています。

「自分たちの活動をもっと広めたい」という思いが強まった
―当財団の助成制度に応募しようと思ったのはなぜですか。
大貫:実行委員会を立ち上げて一番初めに壁にぶつかったのが、資金源でした。それまでは、NPO法人だっぴさんが用意してくださったものを、こちらで配ったり、使わせてもらったりしていました。ちょっとした備品、サインペンやノート、またイベントを告知するチラシなど、実行委員会として、一から揃えなくてはいけないというところからのスタートだったんです。そこで、「ぜひこの制度を活用したい」と委員会で話し合いました。
―助成を受けて良かったことはなんですか?
大貫:まずは「夏だっぴ」を実施できたことです。少人数での開催となりましたが、実行委員会としての初めての運営で、無事にやり遂げられたことが大きな達成感につながりました。
また、この制度で特に良かったのは、福武教育文化振興財団さんがオンラインの学習会などを用意してくださり、地域の活性化や子どもたちのために活動している団体が数多くあることを知る機会があったことです。「自分たちの活動をもっと多くの人に知ってもらいたい」という思いが強まり、大きな励みになりました。
そして、助成をいただいている1年間は、福武教育文化振興財団さんから私たちの取り組みを応援してもらっている実感を持ちながら活動できて、とても心強く感じました。

―現在の活動資金など、運営状況はどうなりますか?
平田:運営費を見直してスリム化し、PTAと同窓会からの助成、加えて今年度は中学校区にある5つの連合町内会から寄付をいただきました。地域と学校の支えで活動しています。
大貫:金銭的な支援ではなく、応援の気持ちで関わってくださる「だっぴファンクラブ」というのもあります。ファンクラブに登録していただくと、参加の有無にかかわらず、毎年自動的に開催案内や活動報告を受け取ることができます。2024年度は2名の方が新たに登録してくださり、少しずつ増えていることがとても嬉しいです。
―これからの課題や目標を教えてください。
平田:大学生の参加を増やすことは今後の課題のひとつです。以前は、教職を目指す学生さんに絞って、教育学部や教育支援室などに案内を出していました。今は対象を広げて、地域とのかかわりに関心を持つ学生さんにも声をかけるようにしています。
そもそも、中学校側が実施しやすい日程と、大学生の都合がなかなか合いにくいという現状もあります。それなら、大学生が少なくてもできる形を考えていく必要があるとも感じています。
先日、委員長の森山さんが、例えとして、「お金を払ってでも行きたいと思えるイベントになればいいよね」とぽろっと言われたんです。その言葉を聞いて、ああ、なるほどと思いました。そんな風に、毎年この時期になったら「行こうかな」と思ってもらえる行事に育てていけるといいのかもしれません。
大貫:PTAを離れたあとの方々にも、もっと気軽に参加してもらいたいです。「だっぴ」に関わることで、生徒たちをより身近に感じてもらえると思っています。一緒のプログラムに参加していなくても、街で同じ制服を見かけたときに「岡山中央中学校の生徒だな」と思い出してもらえるだけで、自然と子どもたちを見守る存在になってくださる。そんなあたたかなつながりが広がっていく場になればいいなと思っています。
今後は、中学校やPTA、同窓会だけでなく、地域の方々とも連携を深めていくことを目標にしています。
おわりに
「だっぴ」実施後のアンケートでは「もっと話したかった」という回答も多くあるようです。また、ファシリテーター役のはずの大学生がつい語ってしまったり、大人も話すこと・聞くことが楽しくなって帰りがたくなってしまったり。そんな様子を聞くと、人は、素直に受け止めてくれる人がいれば、本当はもっと話したいし、もっと聞きたいんだと改めて感じました。
日々、一方的に発信される動画から学べることもあるけれど、同じ空間を共有してこそ伝わるぬくもりや、ふとした笑顔、一瞬の言葉にならない表情に出会うことがあります。子どもにとっても大人にとっても、「だっぴ」はそんな“人とのつながりの原点”を思い出させてくれる貴重な場なのかもしれません。

成果報告書も合わせてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2022_083.html
岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会
岡山市北区蕃山町6-10 岡山市立岡山中央中学校
問合せ先:
okayamachuo.dappi@gmail.com
HP:岡山市立岡山中央中学校だっぴ実行委員会