助成先を訪ね歩く(取材日:2023年12月8日)

若者が自分のなりたい理想を持ち、それに向かって行動できる社会へ

NPO法人だっぴ

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  • 2024.03.08

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、岡山市を拠点に活動するNPO法人だっぴ代表理事、森分志学(もりわけ しがく)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/大島 爽)

学校教育と社会教育

学校教育は、人間形成の基礎として必要なもの(学問の知識・技能等)を共通に修得させるとともに、社会生活を営む上で必要な基本的態度や情緒を育てます。一方、社会教育は「学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーション活動を含む)」(社会教育法第2条)を指すものです。社会教育の機能は、①学校教育の補足 ②学校教育の拡張 ③学校教育以外の教育的要求の大きく3つで、学校教育と相補関係にあります。学校教育と社会教育の連携によって、柔軟な学びの環境を提供し、個人の成長と地域コミュニティの活性化を図っています。

参考:学校教育(特に義務教育)に関する主な提言事項
参考:社会教育
参考:新しい時代の社会教育
参考:学校・家庭・地域の連携協力における社会教育の役割について

NPO法人だっぴ

「一人ひとりの若者が人とのつながりの中で自分らしく生きられる社会へ」をビジョンに掲げ、主に中学生・高校生を中心とした若者を教育支援する活動をしています。

現在の活動は大きく3つで、1つ目は活動の中心となる「中学生・高校生だっぴ」の実施です。このプログラムの目的は、一人ひとりが自信や自己効力感(自分の能力や努力が、目標の達成につながると信じる心の状態)を培い、意欲を高めて自分で自分の生き方を自己決定できるようになることです。自分のなりたい像をつくるには、前提として様々な事例を知って選択肢を増やすことが必要です。多様な価値観に触れられる機会創出の場として、“未来を模索する若者”と“地域の魅力的な大人”をつないで、対話を促すワークショップを各学校で開催しています。

2つ目は、若者向けキャリア探究Webメディア「生き方百科」の運営です。高校生や大学生がインタビュアーとなり、岡山の魅力的な大人の働き方や生き方を深掘りして紹介するコンテンツです。「中学生・高校生だっぴ」実施後の次のステップとして、自分の将来をモデリングするためのツールとしての活用を目指しています。

3つ目は、やってみたいことや興味のあることを、スタッフとのコミュニケーションを通して、具体的な行動へ促し応援する「放課後キャリア探究」です。高校の中に“学校とは違う場所”を一時的につくって開放し、一緒にやってくれる人や、常に背中を押してくれる人がそばにいるような環境づくりをしています。

このような既存の学校だけでは提供が難しい教育機会を設け、学校の中から変えていく取り組みをしています。また、中高生に開かれた場として公民館を活用できるようにする支援や、ユースセンター※の立ち上げなど、学校の外でも仕組みづくりを行っています。

※ユースセンター:中高生にとって居場所であり社会と繋がる活動拠点。だっぴとしては、現在二つの市町村でパートナーシップを結ぶ団体と協力して、ユースセンターを立ち上げています。

だっぴには人間らしさを実感できるプロセスがある

―だっぴが今の活動を始めた経緯を教えてください。

森分(敬称略):発端は初代代表の柏原が、だっぴの前身となる活動で若者たちと勉強交流会をしていた2009年頃に遡ります。当時出会った大学生の中には、自分はこのまま企業に就職するだけでいいのだろうかと、モヤモヤしている子たちが多かったそうです。エネルギーはあるのにエネルギーを持て余しているというか……。一方、柏原本人を含む、周りの大人はチャレンジしながら意欲的に生きている人が多く、世代間のギャップを感じたんですね。じゃあその両者を繋げたらおもしろいんじゃないかと、交流会をすることにしました。徐々に体系化されて実績を重ね、2013年にNPO法人化しました。

―森分さんが代表になられたのは2020年ですが、それまでどのような関わりがあったのでしょうか。

森分:大学院生だった2014年から関わっていて、柏原と一緒に、現在の「中学生・高校生だっぴ」の元となる高校生対象の対話型のワークショップをつくりました。大学院を修了後、大阪の教育系広告代理店に就職しましたが、柏原から「だっぴの活動を強化するために力を貸してくれないか」と声がかかりました。Uターンして2017年にだっぴの職員となり、2020年から現職に至ります。

―活動を続けてきて、良かったこと、達成したことはなんですか?

森分:やっぱり仲間が増えたことですね。岡山の教育関連のネットワークは、基本的に“ゆるく繋がろう”という精神性があります。そんな柔軟な風土に「だっぴ」という存在がインストールできたことが大きいと思っています。

だっぴの事務所にはスタッフが10人いますが、フルコミットだと3人分ぐらいで、このぐらいのリソースだとできることがすごく少ないんです。それが今、僕たちが主体にならずとも、県内に9つの実行委員会と16市町村の中学校で、だっぴのプログラムを覚えて企画運営してくれる仲間ができました。“一緒にしよう”と同じ志を持つ人が今100人弱ぐらいいて、その力はすごく大きくて、本当に嬉しく思っています。

―だっぴさんのプログラムに賛同してやってみたいと思う学校が年々増えているんですね。その理由となる、“だっぴの魅力”とは何でしょうか。

森分:「だっぴ」には、“人間らしさを実感できるプロセス”があると思うんです。「だっぴ」の中で起こっていることって、自分自身と相手とのぶつかり合いというか、相互作用によって、学びが生まれてくるところがあります。「私はこうだけど、あなたはどう思ってるの」「あなたはそうだけど、私はこう考えているよ」と。世代を超えてお互いがフラットに耳を傾け合えて、自分が自分としていられる場を提供しているんじゃないかと思うんです。

写真提供:NPO法人だっぴ

―だっぴさんの活動が多くの学校に広がることで、どうなると思いますか。

森分:教育が良くなっていくと思います。教育が良くなるには基本的にオペレーション問題が大きく関わっていると考えています。「一人ひとりに最適な〜」「個性を生かして〜」など、どんなに素晴らしい理念を掲げても、35人1人担任制では対応できないですよね。学校が、学校だけで変わっていくのは難しいと感じています。

学校教育と社会教育って基本的に補完し合う関係性だと思っています。でも今の社会教育がどうなっているかというと、そもそも地域コミュニティが少なくなっていますよね。これまで地域コミュニティに支えられていた、市民活動としての社会教育の場がなくなってきている時代です。それを現代版に再構成、再編集していかなきゃいけないと思うんですけど。前述した9つの実行委員会で「だっぴ」というプログラムをまわせるようになったことは、現代版の市民活動をつくっていくプロセスに乗れたのかなと思います。まだ完成じゃないですけど、今後につながる基盤ができたので、さらに広げていきたいです。

―だっぴさんのプログラムを他県でやることは考えていますか?

森分:隣県では既に動き始めていて、鳥取に関してはまだ1校だけですが鳥取支部ができました。香川、広島の一部の自治体からは「何か一緒にできませんか」と声がかかっています。

中高生の活躍の場をもっと増やしていきたい

写真提供:NPO法人だっぴ

―当財団からの助成は2016年と、森分さんが代表となった2020年です。どんなことに活用されたのでしょうか。

森分:2016年は「中学生だっぴ」です。プログラム運営の主体者ではなくファシリテーターの立場としての実施になります。2020年は、若者向けキャリア探究Webメディア「生き方百科」の立ち上げに際し、仕組みづくりと構築を行いました。

―2016年には教育文化活動助成金とは別に、当財団の教育賞の一つ「谷口澄夫(たにぐち すみお)教育奨励賞※」を受賞されています。助成や受賞を受けたことで、良かったことはありますか。

※谷口澄夫教育奨励賞:岡山県の教育界に大きく貢献し、当財団の初代理事長にご就任いただいた谷口澄夫氏の教育に対する情熱を受け継いでいただきたいと、平成13年から継続している賞です。

森分:「谷口澄夫教育奨励賞」をいただけたことは、団体にとって一番大きな恩恵を受けていると感じました。おかげで「中学生だっぴ」が教育活動として認知され、社会的に信頼されるきっかけになったと思います。受賞翌年の2017年から「中学生だっぴ」を実施する自治体が増えたことにも、影響しているのではないかと考えています。

―今後の目標を教えてください。

森分:具体的には、まず「中学生だっぴ」に関して、2030年を目途に県内全ての中学校で実施できる仕組みをつくることです。今は全体の20%ぐらいでまだまだですね。あとは、学校教育の現場を変えていくためには、モデル校が必要だと思っていて、だっぴのプログラムを長期間実施している中学校をつくろうと挑戦しています。

これは目標というか希望になりますが、中高生の活躍の舞台を増やしていきたいです。例えば、学校の探究学習で取り組んだ内容を競うコンテストなどはありますが、全員に最適化されているわけじゃないですよね。自分の得意なことが活かせる活躍の舞台は、いくつかの種類があった方がよいと思っています。その舞台は学校だけでなく学校の外にも用意する必要があり、そこに若者たちを送り込んでいく、背中を押す存在が必要です。その役割をユースワーカー※が担えたらと。しんどさを抱える子がいたらケアをして、ちゃんと社会と繋がるようにサポートし、さらに活躍できる場をつくっていく。一人ひとりのペースは違うので、ちゃんとケアする期間と、ちゃんと滑走できる期間を見極めながら、段階的に対応することが必要です。難しいかもしれませんが、こういったことも視野に入れながら、取り組んでいきたいと思っています。

※ユースワーカー:若者の成長をサポートする専門スタッフ。家庭や学校、職場以外での安心できる居場所づくりや、若者と社会を繋ぐ活動を行います。

おわりに

左:和田広子財団職員

「だっぴとしては、登山に例えるなら2〜3合目です。大変だけどこの先も何かもっとあるはずだし、僕たちの役割としてやるべき事が、あと80%ぐらいあるんじゃないかと」森分さんはだっぴの現在地をそう表現しました。常に客観的視点で語られるその内容から、一筋縄ではいかない、“教育”を取り巻く様々な事情を少しだけ知ることができました。それでも未来を見据えながら、果敢に、地道に、ご本人の言葉を借りれば “泥臭く” チャレンジを続ける、そのひたむきな姿勢に心を打たれました。

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