助成先を訪ね歩く(取材日:2023年10月25日)

新たな挑戦と、無理なくできることの両輪で取り組む地域づくり

宇治学園地域連携研究会 大塚智子

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  • 2024.01.12

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、宇治学園地域連携研究会に所属する、岡山県高梁市立宇治高等学校 教頭の大塚智子(おおつか ともこ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

岡山県高梁市立宇治高等学校

岡山県高梁市立宇治高等学校(以下、宇治高等学校)は、高梁市宇治町にある、全校生徒数20名ほどの小さな学校です。生徒は宇治町外の高梁市内や新見市、総社市、吉備中央町などから通っています。

遠方から通う生徒のために、2020年度から下宿事業をスタートし、2023年度から実際に生徒を受け入れています。下宿先や食事のサポートなど、宇治地域の方々の協力のもと運営しています。

また同じ敷地内には岡山県高梁市立宇治小学校があります。「宇治学園」として小学校と連携することも少なくありません。花を植えたり、作物を育てたり、合同で運動会や文化祭を行ったりと、学校生活や行事は可能な限り、一緒に取り組んでいます。

宇治学園地域連携研究会

写真提供:宇治学園地域連携研究会

宇治学園地域連携研究会は宇治学園のコミュニティ・スクールを運営する団体として、2020年に設立されました。宇治地区の地域住民14名、宇治高等学校・小学校の校長、教頭それぞれ1名ずつ、計18名で構成されています(2023年10月現在)。

コミュニティ・スクールでは、「地域とともにある学校づくり」をめざし、社会に開かれた教育課程の実現に向け、講師を地域住民に依頼し、学びの場を設けています。宇治地域で栽培されているもち麦について学ぶなかで、実際に種を蒔いて麦踏みをしたり、もち麦を使ったスイーツ等を考案する際にアドバイスをもらったりしています。また毎年12月には「地域ふれあいデー」があり、地域住民に正月飾りの作り方を教えていただくなど、住民と子どもたちが直接交流することを大切にしています。

「地域で働く」ことを学ぶ機会があるのも特徴です。「地域の方へインタビューする」企画では、宇治地域市民センター(以下、市民センター)の職員を学校に招いて話を伺ったり、職場体験では生徒自ら市民センターや郵便局、地域の飲食店等に行き、働くことを経験したりしています。これらはキャリア教育の一環で行われています。

人の温かさや繋がりを感じられる高校生活を

―宇治学園地域連携研究会が設立された経緯を教えてください。

大塚(敬称略):そもそも宇治地域には「居住歴や年齢関係なく、みんなで元気に生活していこう」という思いがあり、地域住民同士の交流が盛んな場所です。なかでも「一般社団法人 宇治雑穀研究会」では、宇治で育てているもち麦を地域の特産品にするため、栽培や加工に力を入れていました。

一方で過疎化と高齢化が進み、新しいことをやろうと思っても若い人がおらず、実現が難しいこともあったそうです。そこで地域と学校が連携し、住民と子どもたちが関わりながら宇治地域を盛り上げることを目的に、コミュニティ・スクール運営がスタートしました。

私が赴任したのは、宇治学園地域連携研究会設立後の2021年です。赴任する前、宇治雑穀研究会が週に一度オープンしている「カフェ麦」に連れて行ってもらった時のことをよく覚えています。そこには、宇治で地域活動をしている方のほとんどがいらっしゃいました。前任が地域コミュニティに馴染んでいる姿を見て、「本当に地域に助けていただいている学校なんだな」と思った記憶があります。

―小学校と連携してコミュニティ・スクールを運営している高校は、珍しいと思います。

大塚:小学校と同じ敷地内に高校がありますので、連携しながら活動しています。高校生にとって小学生は、可愛い存在みたいですよ。「困っていたら助けてあげたい」「教えるなら丁寧に教えたい」という気持ちが、高校生の姿から滲み出ています。実際、高校生は小学生一人ひとりの様子を見ながら丁寧に声をかけてくれているので、小学校の先生には感謝されることが多いです。

反対に、小学生にとって高校生は「一番身近な大人」。ロールモデルのような存在ではないでしょうか。

教員同士も連携して学校を運営しています。子どもの数もそうですが、教員の数も少ないですから、お互いアイデアを出し合って助け合っている状態です。子どもたちも教員も、他の学校ではできない経験をさせていただいているなと感じます。

写真提供:宇治学園地域連携研究会

―2020年から活動を続けるなかで、変化したことはありますか?

大塚:下宿事業ができ、宇治学園地域連携研究会から派生して「宇治高校下宿管理運営委員会」が設立され、運営が始まったことです。

下宿事業のきっかけは、福武教育文化振興財団さんの助成を受けたことでした。島根県隠岐郡海士町(あまちょう)から学校と地域が連携したまちづくりについての研修会のために、講師をお招きしました。地域の方から「宇治でも下宿生を受け入れてみたい」と声が挙がったのが始まりです。

海士町から講話に来てもらった理由は、宇治にとってロールモデルのような取り組みをしていたからだと聞いています。島根県立隠岐島前高等学校では「島留学」といって、全国から生徒を募集しており、高校生をまち全体で受け入れることで地域活性化に繋げているんです。その取り組みについてお話を伺うことで、宇治にとっても何か参考になるのではと考えていました。

研修後は、地域の方含めて下宿生の受け入れに可能性を感じたため、2022年度に中学生を対象とした下宿体験会の開催に至りました。準備に時間がかかったものの、体験会に参加された親御さんからは「宇治の方が子どもに丁寧に接してくれた」との感想をいただき、2023年度に1名の下宿生を受け入れることとなりました。宇治で元気に過ごしながら学校生活を送ってくれているので、よかったなと思います。

宇治地域のみなさんは、「下宿しているのはあの子かな?」と教員に聞いてくださったり、町内で下宿生を見かけたら手を振ってくださったりしていて、本当に気にかけていただいています。学校方針を知ったうえで多くの協力をいただいているので、本当にありがたいです。

写真提供:宇治学園地域連携研究会

―先生は異動があるなかで、活動を発展させながら続けていくのは難しい場合もあると思います。宇治学園地域連携研究会が、活動を続けられている理由は何でしょうか。

大塚:私が心がけているのは、会議などで地域の方からいただいた意見やアイデアを他の先生方に広く共有することです。コミュニティ・スクールだけでなく、授業で活かせるようなご意見もあるので、広く繋いでいくことは重要だと思っています。

また、その時々の状況に合わせた活動をするようにしています。例えば、宇治ふるさと物産まつりや運動会など地域の方と学校が一緒に活動する催し物があるのですが、その年によって「何を・どのような方法でやるか」は擦り合わせているんです。

特に新型コロナウイルス感染症の流行前と流行後では、できることが変わってきました。地域の方も学校も無理せず、今自分たちができる範囲のことをやっていくのが、継続には必要なのではと思っています。

おかげで、こんなに地域に愛されている高校生はいないのでは、と思うくらいです。宇治は一見不便な場所ですが、人の温かさや繋がりを感じながら高校生活を過ごせる場所であることを様々な方に知っていただきたいと思っています。そして、子どもたちの元気が、地域の元気にも繋がったら嬉しいです。

地域の未来にワクワクした

写真提供:宇治学園地域連携研究会

―福武教育文化振興財団の助成を受けたきっかけを教えてください。

大塚:宇治学園地域連携研究会を設立した2020年は、新型コロナウイルス感染症拡大対策のため、学校が臨時休校になったり、地域の行事などは中止を余儀なくされたりしました。

ただ、地域と学校が連携して宇治の魅力向上や活性化に向けた方策を検討するなかで、先進的な取り組みを行っている地域の事例を参考にしたいと思い、視察や研修会を実施したいと考えたそうです。その資金に充てるために申請させていただきました。

―本財団の助成を受けてよかったことは何ですか?

大塚:前述の通り、島根県隠岐郡海士町のまちづくりに関する講話を通じて、海士町外から子どもたちや子育て世代が移住して生徒数が増えたことで、まち全体が元気になった事例を知りました。その様子を見て「宇治もがんばろう」「こんなことができるのではないか」と、宇治の未来をワクワクしながら話せるようになったと聞いています。

そのひとつが下宿事業です。子どもがほとんどいない宇治地域に、希望を見出す可能性を見つけられたのは、福武教育文化振興財団さんが応援してくださったからだと思います。スタートダッシュを後押ししてくださったことに、感謝でいっぱいです。

現在は高梁市から助成を受けながら活動しています。これまでの取り組みを認めていただけたのかなと思うと嬉しい反面、今後もがんばっていきたいなと身が引き締まる思いです。

―今後の目標を教えてください。

大塚:実は、宇治小学校は宇治小学校区再編のため、近い将来、閉校することになりました。小学校、高校と地域の三者が良い関係で活動できていたので、非常に残念に思っています。地域とともにある小学校の閉校後は、地域における宇治高等学校の役割は、さらに大きくなると思っています。そのような状況のなかで、宇治地域全体が「学びの場」になったらいいなと思います。宇治で学ぶ高校生と、宇治で一緒に学んでいた小学生や地域の方が一緒に活動する場所や交流できる場所を、今以上に増やしたいと思っています。

そのためには、地域の教育資源を発掘するのも必要な仕事だと思います。地域の方のご意見を聞くだけでなく、学校側からも地域を知ること・地域に求めていくことが大事なんだなと考えるようになりました。

もっと多くの方に宇治地域で高校生活を過ごすことの魅力を伝えるためにも、宇治全体を「学びの場」として捉えて、活動を続けていきたいです。

左:和田広子財団職員

おわりに

宇治高等学校は、小学校や地域との連携など、多方面と協力しながら学校やコミュニティ・スクールを運営していることが分かりました。下宿事業という、宇治地域では新しい取り組みを行う一方で、「今できる範囲のことを行う」といった、無理のない活動も意識されています。その塩梅を見極めながら、多くの人を巻き込むのは簡単ではありません。宇治学園地域連携研究会の取り組みは、持続的な地域活動のヒントがたくさんあった気がしました。

宇治学園地域連携研究会
高梁市宇治町宇治1681-2
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