国吉康雄 A to Z

Picnic

ピクニック

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  • 2023.03.17

国吉や作品にまつわるコラムをA to Z形式で更新します。

1919年 | 油彩 | 76.5cm×91.5cm | 福武コレクション蔵

この絵が描かれた1919年。国吉は『アート・ステューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク』(以降、リーグ)に在籍していた。

国吉がリーグに入ったのは、1916年。いくつかの美術学校を渡り歩いた国吉は、4年間、ここで絵を学ぶ。国吉が指導を受けたケネス・ヘイズ・ミラー(1876-1952)は写実主義の画家で、ヨーロッパの巨匠たちが遺した名画に詳しく、ドローイングの大切さやルネッサンス絵画の解釈など、先人の技術を学ぶことを生徒たちに教えた。メトロポリタン美術館に生徒たちを連れ出し、実際に、歴史的名画に触れる機会の重要性を説き、自身はそういった伝統的な技法と現代のアーティストが取り組むべき「テーマ」の融合を目指し、ニューヨーク市民の日常を描いていた。国吉は、「彼(ミラー)は、私の芸術に対する認識を変え、それまで何の意識も持たなかった私は、ひとつの方針と主題を持つようになったのである」と語っていて、1年遅れてリーグに入学した清水登之は、「国吉はいつもミラーのクラスに居残って勉強していた」と、国吉が帰国した際の新聞記事に書いている。一方で同じくリーグに通っていた北川民治は、のちに国吉の妻となるキャサリン・シュミットらと、セザンヌやルノアールについて議論したと証言していて、印象派などの美術動向に関しても画学生たちが関心を持っていたことがうかがえる。

こうしたリーグの環境や仲間との議論、ミラーの教えや創作に対する姿勢といった、当時の国吉の興味や気分を如実に現しているのが、この作品、『ピクニック』ではないだろうか。

陽光のなか、若い男女がくつろいでいる。国吉たちはよくピクニックに行ったらしい。国吉にとっては日常を描いたものなのかもしれないが、国吉らが研究していた技法の成果が画面からは溢れている。そしてどこか師のミラーの作品のような神秘的で、宗教画のような荘厳な印象も受ける。ただ、これほど暖かく、優しさに溢れた絵を、この先の国吉作品で見ることはない。そういった意味でも、岡山の国吉康雄コレクションで重要な作品だといえる。

更新日:2016.11.30
執筆者:才士真司