国吉康雄 A to Z

Izushicho

出石町(いずしちょう)

  • 読む
  • 2023.03.03

国吉や作品にまつわるコラムをA to Z形式で更新します。

岡山県岡山市北区出石町は国吉康雄が生まれ、16歳までを過ごした町だ。国吉の父はここで人力車夫の組頭をしていたと言われているが、それはこの町が日本三名園の一つに数えられる後楽園を中心とした観光名所を橋一本で繋いだ門前町であり、交通の要所でもあったからだろう。今でも週末になると大勢の人が、後楽園や国吉と同時代に活躍したアーティスト・竹久夢二の画業を伝える竹久夢二郷土美術館を目指し橋を渡る。

出石とは「出る石」と書くが、その由来は江戸時代に起源があるらしい。当時、商業流通というものは河川を使うのが主流で、旭川の川上からも相当数の川舟が常時下ってきた。そういう荷船の発着を容易にする石の足場が、出石の辺りに多く設置され、そこから出石と呼ばれるようになったと教えてくれたのは、もう4年目となった月に一度の「出石国吉康雄勉強会」の代表で郷土史を研究する御仁だ。そう、この町は岡山の、いや、日本の国吉康雄研究の発信地でもあるのだ。1945年の岡山空襲の被害を逃れた町である出石には、明治や大正、昭和といった様々な時代の建物が町内各所に残り、「そういえば親父が『ヤス(国吉康雄の愛称)が、ヤスが』と話していたのを覚えている」というような話を町の方から聞いたりすると、ここにいると少し、国吉のいた頃を感じられたりする。そんな出石は、「岡山の文化芸術文のへそ」でもある。前述のレトロ建築は、古着屋や昭和モダンな小物店やカフェに代わり、若者文化の発信地となっている一方で、「岡山カルチャーゾーン」と名付けられた文化施設が集まる地区の中心地点が出石なのだ。出石の周辺には前述した後楽園や竹久夢二郷土美術館のほか、黒い外壁から“烏城”と親しまれる岡山城。刀剣の至宝を収める県立博物館。雪舟など日本画の名品が揃う県立美術館があり、当代一級の古代オリエントの遺物を鑑賞できる岡山オリエント美術館や国宝を多数有する林原美術館などもある。

国吉から始まる出石町とその周辺の探索というのも、オススメだったりするわけだ。

クレジット:2013年国吉康雄フラッグ第1弾
更新日:2016.10.17
執筆者:才士真司/取材:伊藤駿