財団と人

#032 沖村舞子さん

一般社団法人moko’a(もこあ)代表理事

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  • 2022.08.12

コミュニティが編むつながりは、まちの活気と経済を生み出す

浅口市金光町大谷の門前町にある「大谷みかげスクエア」。レンタルスペースとして地域の居場所となり、チャレンジショップとしてまちに新たなサービスを生み出しています。経済の循環の種をつくり、地域のつながりのハブとなり、まちの人の協働や学びも生み出すこの場所を運営する沖村さんにお話を伺ってきました。(聞き手:森分志学)

森分 岡山に来る前のお話を教えてください。

沖村 栃木県に生まれて10歳から北海道で育ちました。高校を卒業して建築の勉強を東京の専門学校で2年間学び、その後は、夜間の大学の建築学科に行きました。
その時に、アフリカのコンゴ民主共和国で、現地の材料を使って現地の大工さんと一緒に、現地の技術を使いながら学校建設をする慶応大学のプロジェクトに、私は別の大学でしたが参加しました。
その体験から、日本も伝統工法はあるのに、海外から輸入された外来工法などを使って建ててるということに疑問を持ってしまって……このまま大学で勉強してもそういう勉強しかできないのであれば、いっそのことやめて一人で勉強を始めようと、大学を中退して岐阜県の森林組合で間伐材の勉強から始めました。

森分 学生からフリーランスに。

沖村 23歳でフリーランスとしてmokoデザイン事務所を始めました。図面を描いたり、模型を作ったりしながら、間伐材の勉強をしてました。その頃、今でいう六次化の農商工連携コーディネーター養成講座を受けたことがきっかけで、いろんなものを組み合わせて、何か事業を企画するということに挑戦していました。同時に、古民家再生事業にも取り組みました。
その後、地域おこし協力として浅口市に来て、これまでの活動が今、活きていると感じています。

森分 地域おこし協力隊時代は、どのようなことをされましたか。

沖村 コミュニティが担当の地域創造課というところに所属して、毎日市役所に通って職員の方と一緒にやっていく感じでした。最初のミッションは、住民の方たちの取り組みを発表する「地域チャレンジトーク」を企画することでした。それぞれの地域の人口構成とか今やっている活動はどんな活動なのかということを聞いて、それをスライドや発表資料にまとめていくことをやりました。ここで初めて課題というものを地域の方も私も認識しました。

そこから始まって空き家対策とか、高齢者の支援とか、地域の住民主体で地域の人ができることを一緒に考えていきました。協力隊というのは、その人が何かをやるというのが多いんですが、私は自分がいなくなる可能性も考えて、地域の皆さんがやりたいように、自分たちがどうやったらできるか、継続できるかということを考えて、お手伝いをしてきたという感じです。

森分 moko’aは、いつ立ち上げたんですか。

沖村 協力隊の任期中の2017年に団体を立ち上げました。法人格を持っていた方が地域活動を支援しやすいことがあり、協力隊卒業後も継続して活動ができるようにということで設立しました。

森分 団体の拠点となる「大谷みかげスクエア」は、どういった経緯で。

沖村 金正館という旅館の食堂として使われていました。取り壊しの話が出てきたので、壊すならほしいと言ったんです。ストリートの真ん中で雰囲気もすごく良かったし、ここがなくなったらと考えると、今まで何をやっていたんだという気持ちになった。
持ち主の方が地域の活性化のためになるならいいですよと、寄贈してくれました。

森分 最初に何をされたんですか。

沖村 地域の人と一緒に、どんな使い方をしたらいいかという話し合いをしました。気軽に立ち寄れるカフェとか、みんなで使える場所がほしいね、という声がありました。ここだけで完結するんじゃなくて、大谷とのつながりができて、大谷の発展になるような、ここに誰かが一人でずっといるんじゃなくて……。結果、チャレンジショップとして貸し出しをしようということになって、みんなでワークショップして改装しました。

森分 実際に場所が整備されて、カフェ的な居場所としての機能と、チャレンジショップの機能でここまできた感じですか。

沖村 そうですね。金光町大谷地区の空き店舗を改修したコミュニティ&レンタルスペース「スペース金正館」 (その後、「大谷みかげスクエア」に改名しました)は、2020年8月にプレオープンしたんですが、翌月の9月には映画のクルーの方たちがたまたまこの大谷を見に来られて……この旧金正館の食堂建物が「夕なぎ」だと決まったと聞きました。10月から準備始めて、11月、12月に撮影されるということになって、プレオープンしたんだけど、すぐに休業しますという状況でした。

森分 「大谷みかげスクエア」の再開はいつですか。スタートダッシュは映画の反響が大きかったのでは。

沖村 でも映画のロケがあった後は、映画公開の4月までは情報も公開できなかったので……その頃は、反響はあまりなかったです。
12月にロケが終わって、1月から普通の状態で貸し出しを再開しました。最初はポツポツでしたが、ありがたいことに金光が大好きな方が、OUR COFFEE(アウワ コーヒー)さんご存じですか……その方は、もともとサラリーマンだったけど仕事やめて、この町が好きで、「気軽にコーヒーが飲める場所がほしいよね」「やるわ」となって。空いてるときはいつでも使っていいよという感じで、なるべく開けるようにしてもらいました。

森分 チャレンジショップの一環ですね。

沖村 OUR COFFEEさんを目掛けてお客さんが来てくれるようになって、それを見てた人たちが私もやりたいと手を上げてくれるようになって、いろんな方たちが使ってくれるようになりました。コロナでだめな時もあったんですが、月によってはほぼ埋まっているような状況です。
大谷の他の空き店舗や空き家を借りて出店したいなという話にもなってくれて、効果があったと思ったのですが……。

森分 実際の出店はこれからですか。

沖村 いい物件はあるのですが、なかなか借りるとか、使えるというところまでには至ってない状況です。そこをもうちょっと意識づけしていこうよという話を、昨日大谷の地域の人たちと話し合ったばかりです。

自分たちが手を入れ整備することで循環が生まれ活性化の拠点に

森分 町の人は「大谷みかげスクエア」をチャレンジショップの場として認識している感じですか。

沖村 認識してくれていると思います。一方で、地元の人もけっこう使ってくれていて、青年団よりちょっと上の人たちが焼きそばを作って販売したり、趣味のプロレス鑑賞会兼ちょっと食べられるみたいなイベントを自分たちで企画して使ってくれる人もいます。

森分 チャレンジショップとして使う人もいれば、レンタルスペースとして使う人もいる。

沖村 地元以外の方も講座とかワークショップ的なイベントで使ってくれています。

森分 今はその機能が両輪で回っていっているという感じですね。
チャレンジショップとしては、新しいサービスが生まれる場であり、町の人にとっては、自分が楽しむ場となっている。この2つの場はお互いに良い影響を与え合っていそうですね。

沖村 空き家活用の一つの事例としては、いいモデルになったんじゃないかと思っています。自分たちで手を入れて整備することで、循環が生まれ活性化する拠点ができた。誰かがお店をやると、もちろんお客さんが来るんだけれども、そこで一つの循環が終わるというか……。でも、いろんな人が関わり、いろんな人が使えると、それでまた他の所に出店が飛んでいく。来てくれた人が地域の人と仲良くなるとか、その地域の商品を紹介してくれるとか、いろんなつながりがある、ハブ的な要素にもなっているのが、一つの事例のモデルになっているのは良かったと思っています。

森分 チャレンジショップ目的の人は、どっちかというと外部の人の方が多いですか。

沖村 そうですね。レンタルスペースとして使っているのは、大谷の人が多いです。会合とか飲み会で使ったり、『小料理夕なぎ』限定居酒屋イベントしたときも地域の人が来てくれました。チャレンジショップのときには、お客さんとして何度も足を運んでくれています。

森分 地元の人からすれば、ちょっと刺激をもらう場所でもある。

沖村 そうなのかもしれないですね。

森分 外部と言えば、映画「とんび」の影響はどのくらいあった感じですか。

沖村 撮影が行われた時に、昔の町並みを再現しているんですが、活気が蘇った感じで、地域の人たちもめちゃくちゃ喜んでいました。この町の価値というのが住んでいたらわからないし、お店閉めようかなとか、どうせこんな所……というふうになっていたのが、そこから、お花が増え、町がきれいになった気がします。
まず撮影が来たことで、町並みに対する意識が変わったし、公開に対する期待感がありました。映画が公開されたら、外からお客さんがたくさん来てくれるという期待感。実際に、ここ一週間のことですが、撮影の時にこんなことがあったんだよという話ができるのが嬉しいし、それをここに聞きに来てくれるのも嬉しいと町の人は言っています。ちょうどロケ地マップでは一人一人の店主の顔が見えるようなマップになっていて、この人に会ったらこういう話が聞けるよとか、来てくれた方とのコミュニケーションが生まれています。
映画が来たことで町の価値も認識できたし、生きがいもでてきて、もうちょっと頑張ろうという気持ちにみんながなっていると思います。

森分 「大谷みかげスクエア」という場所と「とんび」という映画がお互いに相乗効果があった。

沖村 私の口で言うのもなんですが、この建物があったからこの映画の話が来たんですよね。建物を壊して更地になっていたら、小料理屋「夕なぎ」はなかった。ここの建物を残したことで映画の話が来て、昔の町並みが再現できた。地域の人も、「あの時頑張ったからだよね」と言ってくれるので、「大谷みかげスクエア」の場所としての価値は、ただ残っているだけであるのかなと思います。

森分 映画の公開が終わった後は町並みの再現が終わるとのことですが、これからの課題は何でしょう。

沖村 正直、町並みの再現と言っても、看板を付けてるだけなんですよ。そもそも古い町並みで、そこに価値を見出してくれたのが、映画『とんび』だとすれば、街並みを再現してなくても価値はあると思うんですね。この部分を引き続き活かしていけばいいのかなと思っています。

森分 これからの話、「大谷みかげスクエア」のこれからこうしていきたいみたいなのは。

沖村 「大谷みかげスクエア」としては、今の形でレンタルスペースは続けていきながら、一方で人材育成みたいな感じで、もう少しこの場所で展開してくれる人たちを増やしていきたいです。
外の部分では、地域の中での物件とか場所を掘り起こして、もっと点を増やしていくのはやっていかないといけないかなと思っています。
あとは2階の活用法として、高校のコーディネートもやっているので、そういう教育の場、子どもたちもチャレンジできるような場にしたい。上で子どもたちが勉強して、自分たちで何かしたいと思ったら下で出店できるような……。そういう経験ができるような場所にしていきたいと思っています。今は私の余裕もないし、お金もないしで、できてないのですが。なので、寄附金募集中です!