助成先を訪ね歩く(取材日:2023年11月28日)

一生青春ダンシング! 支えてくれた地元の愛と仲間たちに感謝

ズンチャチャ主宰 須原由光

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  • 2024.01.19

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、岡山県倉敷市を拠点に活動するダンスパフォーマンス集団「ズンチャチャ」の主宰、須原由光(すはら よしみ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/大島 爽)

コンテンポラリーダンス

コンテンポラリーダンスとは、決まった振りつけや型がなく、一人ひとりのダンサーが身体を自由に使って表現をするダンスです。バレエ、ジャズ、ヒップホップなどのダンスではステップやテクニックに名前がありますが、コンテンポラリーダンスにはないと言われています。現代舞踊とも呼ばれ、映像・音響・照明など、さまざまな手法を組み合わせて構成する独創的で抽象的な世界観は、見る者を引き込む芸術作品とも捉えられています。

ダンスパフォーマンス集団「ズンチャチャ」

25周年記念公演「BIRDS」(写真提供:ズンチャチャ)

「ズンチャチャ」は1996年に旗揚げされた、倉敷市出身の須原由光さん率いるダンスパフォーマンス集団です。2022年4月には、岡山県天神山文化プラザで25周年記念公演『BIRDS』が行われました。同年11月には長年に渡る活動実績と、岡山県のコンテンポラリーダンスの普及啓発、振興への貢献が評価され、当財団の「2022年度福武教育文化賞」を受賞しました。

自身の公演活動や映像作品制作への継続的な取り組みはもちろん、倉敷・岡山を拠点に地域に根ざした活動にも精力的に携わっています。イベント出演や他団体との共同作品創作、ダンスワークショップ開催のほか、ダンスクラスも開講しています。現在、ズンチャチャに在籍する人数は11人、旗揚げ当初から在籍するメンバーに新たなメンバーも迎え入れながら、常時10人前後で活動してきました。

主宰の須原さんはダンサーでありながら、各作品の構成、演出、振付指導から、音づくりや映像編集まで手がけています。抽象的な作品から、個々人の魅力や特徴を引き出す演出、時に笑いを誘うコミカルな作品など幅広い作風で、さまざまな世代を魅了してきました。

「プロにならなくても踊ろう!」ひたすら続けてきた

―須原さんがズンチャチャを旗揚げした経緯を教えてください。

須原(敬称略):大きなきっかけとなったのは、中学生のときにテレビで見た、モーリス・ベジャールという世界的な振付師のバレエ作品に衝撃を受けたことです。この道に進むことを志し、東京の大学に進学しました。ベジャール・バレエ団が日本に来たら、花を持って行き、立ち見でもいいからとお金のやりくりをしながら公演期間中は通い詰めました。大学生活と並行してバレエ教室にも熱心に通っていましたが、ある時、自分のレベルを痛感するような大きな挫折にあいまして……。自分はプロになる実力がないと判断して一回やめたんです。

岡山に帰ってきて、しばらくダンスから離れて家業を手伝っていたのですが、仕事中に「そういえば私、楽しくて大好きだから踊っていたんだ」ということが頭の中をよぎりました。「プロにならなくても踊ろう!」と再びレッスンに通い始め、そのうちふつふつと、何か作品をつくるような人になりたいという思いが湧き上がってきました。

20代後半、創作の修業をするためにアメリカに渡ることを決意。それまで、ダンサーは技術的にすごく長けていて、骨格や身体的にも恵まれていないと輝けないと思っていました。でも、アメリカでコンテンポラリーダンスの先生から「あなたのその素の状態が素晴らしいのよ!」と言っていただいて……。指導を受ける環境や演出次第で、自分自身の発揮できる力が変わることに気づいたんです。型にはめられていない自由度の高いダンス表現に触れて「私はこういうのをやりたいんだ」と確信しました。

帰国した当時、地元の倉敷ではコンテンポラリーダンスの教室はおそらくなかったので、作れたらいいなとその頃から思っていました。昼間は仕事をして、アフターファイブにがんばる部活みたいな感じで、仲間と共に活動を始めたのが1996年の11月、ここがズンチャチャのスタートです。

スタジオで練習の様子(写真提供:ズンチャチャ)

―須原さんの「プロにならなくても踊ろう」というところからダンスを再スタートして、やがてお客さまを呼べる活動にまで成長していったんですね。

須原:活動を続けるモチベーションとして、いずれは自分たちで1本公演を打てるようになろうとみんなで決めました。ひとつの作品をつくり上げる間、1年ぐらいずっとリハーサルをします。みんなのスキルも上がって、準備を通していろいろな経験ができて、すごくいい刺激になります。

スタートから3年後、1時間作品での初の単独公演で150人ぐらいのお客さまが来てくださいました。ものすごい達成感でした。次は倉敷市芸文館でやることを目標にして、2年後の5周年公演で800人以上のお客さまが来てくださいました。

やろうって決めてコツコツと準備して、大変なこともたくさんあるんですけど、ひたすら続けていると、気づいたらお客さまが来てくださるようになったんです。仲間たち一人ひとりの頑張りもありますが、何よりも周囲からの愛情をすごく感じられました。

「私たちにもできるんだ」と自信がついた5周年公演は、ズンチャチャがダンスカンパニー※としてやっていけるかなというターニングポイントだったと思います。それまでは根無し草で、今週はここのスタジオ、来週はどこどこの公民館と転々としていましたが、覚悟を決めてこのタイミングで拠点となるスタジオをつくりました。

※ズンチャチャの活動体制(呼称)は大きく二つあります。一つは、今回ご紹介のダンスパフォーマンス集団としてのズンチャチャを指す「カンパニー」。もう一つは須原さんのダンスクラスを受講している方々を指す「ファミリー」です。

―活動を続けてきた中で印象的なできごとや良かったことを教えてください。

須原:昼間に働きながらズンチャチャの活動を続け、ダンスクラスの講師もしていた頃、体調を崩して倒れてしまったことがあります。生活のために仕事はやらなければならない、でも踊りは続けたい、だけど働いたらまた迷惑がかかるかもしれない……。数ヶ月間絶望の中、自分はどうすべきかめちゃくちゃ葛藤したのち、意を決して昼間の仕事を辞める選択をしました。そうしたら、ダンスクラスの生徒さんがものすごく増えたんです。びっくりしました。人生ってわかんないなって。方向を振り切ったら、踊り手、指導者として生活を送れるようになってきました。ここ13年ぐらいの話です。

スタジオで練習の様子 写真提供:ズンチャチャ

あと、みんなにいつも支えてもらっていることが大きな財産です。家族以外の繋がり、自分の人生にとっての家族というか。踊ることを通して作品を生み出すこと、みんなと一緒に何かをやることが自分の人生なのかなって、迷いながらも生きてきました。仲間がいなかったら絶対に続けられなかったですし、家族とはまた違う強い絆、みんなからもらったものに、今ここに自分がい続けられている理由があると思います。

―今後、新たな展開の予定はありますか?

新しい大きな取り組みとして、海外の映画祭の芸術映像部門への出品にチャレンジします。志を持ったプロのカメラマンさんとクリエイターの方に偶然出会い、一緒に映像作品をつくることになりました。それぞれに“つくる力”があって、純粋にいいものをつくりたい想いがある三者の集まりなので、とても楽しみです。既に舞台となる場所でのロケハンを終え、これから本格的に制作に取り掛かります。これまで、映像作品はいつも自分で撮っていましたが、撮ってくれるプロの人がいたら自分も踊れますし、心強いです。タイミング良く、福武教育文化振興財団さんの福武教育文化賞受賞者フォロー助成※にも申請できたので活用させていただく予定です。

※福武教育文化賞の受賞者に対して、受賞後も継続して質の向上と人づくり・地域づくりの活動を行うことを促すため、受賞後3ヵ年申請に基づき助成するプログラム。

「楽しむ」と「突き詰める」の両輪でやっていきたい

映像作品をつくる舞台となる予定の鳥取砂丘でのロケハン(写真提供:ズンチャチャ)

―当財団の助成を受けて良かったことは何ですか?

須原:「私たちはこういう思いでこういう作品をつくります」という活動内容を申請して、採択されると活動前に助成金が支給されるところです。ズンチャチャを信頼してプロジェクトのスタートから寄り添ってくれることは、活動の大きなモチベーションです。

また申請書や報告書を書くことで、自分たちの活動への決意がどんどん固まっていくことを感じています。言葉にすることでやりたいこと、やるべきことが明確になります。自然と「福武教育文化振興財団さんにも誇りを持っていただける良い作品にしたい!」という思いが強くなるので、助成してもらうだけではない双方向の関係性が築けているのではないでしょうか。

―現在、運営はどのような状況でしょうか。

須原:新型コロナウイルス感染症の影響でかなり減収していましたが、少しずつ戻ってきています。コロナ禍明けの2回の公演では、大きいホールではないですけど、ちゃんと満席だったんです。今は資金のことをめちゃくちゃ心配しなくても、作品づくりに向き合えるようになってきました。

ズンチャチャ&ズンチャチャファミリーによる作品「大家族のYOU(2019年)」(写真提供:ズンチャチャ)

―これからの目標を教えてください。

須原:ダンスカンパニーとして作品をつくり続けていくことはもちろんですが、「ダンスを楽しむ」を、自分たちの活動の軸にしたい思いがあります。コンテンポラリーダンスは難易度が高いと思われる方が多いですが、私たちがやっているのはテクニックやスキルが求められるものだけではありません。誰もがシンプルに楽しめて、誰もがおもしろいと感じる、自分の魅力を表現できる、そんな場を提供していくことが目標です。

今ダンスクラスには、公演に出たいわけじゃないけど、“ズンチャチャテイスト”を楽しみたい方が来てくださっています。そこではダンスの楽しさを一番にお伝えするようにしています。ほかにも、地域のイベントでダンスワークショップをしたり、小学校にダンスを教えに行かせていただいたり、それらも活動の一つとして大事にしていきたいところです。

同時に、公演に出ることやプロを目指したい人も応援しています。やりたいことを突き詰める人はそれが人生になっていきます。幾分私にもその気質があるのですが、一人でぐーっと稽古に没頭するのが好きだったり、かと思えばみんなと一緒に踊るのも大好きだったり。やっぱり、突き詰める人たちがいるからこそ芸術は生まれると思うので、その気持ちは大切にしてほしいと伝えていきたいです。

これからもより一層、「楽しむ」と「突き詰める」の両輪でやっていこうと思っています。

おわりに

左:和田広子財団職員

「今、奇跡的に幸せでありがたい状態なんです」と笑顔で語る須原さん。試行錯誤を重ねてきた25年間の長い長いストーリー。ここでは伝えきれなかったドラマチックで印象的なエピソードがまだまだたくさんありました。お話を聞きながら頭に浮かんだのは、かの松下幸之助氏の言葉「辞めなければ成功する」(出典によって表現の違いは多数あり)。成功の定義はともかく、須原さんこそ体現しているのではないでしょうか。改めて、継続することの偉大さ・難しさを考えさせられた時間になりました。

ズンチャチャ ZUNCHACHA 
倉敷市中央2-18-3 CHIMI STUDIO
問合せ先:
TEL/FAX 086-425-0737 
携帯 090-9063-1512 
zunchachachimi@gmail.com
http://www3.kct.ne.jp/~zunchachachimi/menu.html
https://www.youtube.com/@TheZunchacha