マリンバと私をつなぐバディ「マレット」
my things 一筆書き vol.3

2025年9月、私はJunko Fukutake Hallで開催された、内山詠美子さん出演のコンサートに足を運びました。そこで奏でられていたマリンバの音色は、優しくてやわらかく、身体全体が包み込まれるようなあたたかさがありました。 演奏中に内山さんが持っていたのは、籐でできた細長い持ち手の先に、白い毛糸で丸い形に巻かれているマレットです。舞台上には、長さや丸の大きさが違う十数本のマレットが用意されています。左右の手で2~3本ずつ持ち、1曲が終わるごとに持ち替えながら演奏していました。
後日、拠点であるオーストリアに戻った内山さんに話を伺うことができました。当日使っていたものだけでなく、所持している約50本のほとんどが、恩師である安部圭子さんモデルのマレットだといいます。マリンバ奏者は色々なメーカーやモデルを何百本と持ち、演奏する曲によって使い分けている人が多いなか、内山さんは大学生時代から同じモデルを使い続けてきました。 「曲調によって、マレットを使い分ける演奏者が多いですが、私はどんな曲でも安部先生モデルのマレットを使っています。マリンバの音色を変えるのは、マレットではなく演奏者の腕だと、安部先生の姿を見て学びました。何より、これ以上ないくらいマレットの音色が素晴らしいんです。何度も修理に出したり買い替えたりしながら大切に使い続けています」 マリンバ奏者として腕を磨いてきた一方で、ここ数年は「マリンバが鳴りたいように鳴らせてあげることも必要」と考えるようになりました。マリンバの声を聴いていると、時折マリンバが勝手に歌っているかのように、気持ちよく演奏できることがあるといいます。 今やマレットは、内山さんとマリンバとの会話をつないでくれる存在。「内山さんにとってマレットとは?」と聞くと、少し考えた末に「バディ!」との回答が。マレットの特性に頼りすぎず、自身の演奏技術を磨いてきた内山さんだからこそ、演奏するための道具を超えた、マレットとの信頼関係を感じました。

〈出典〉ふえき 89号(2026年1月25日)