オリジナル切手を制作する太田三郎さんの相棒「ポンチ」
my things 一筆書き vol.1

まるで本物のような、オリジナル切手の作品を制作している太田さん。津山市にある仕事場で、その作品づくりに欠かせないものを見せてもらいました。それが、切手の切り取り線として穴を空ける道具「ポンチ」です。1991年頃から使い始め、現在は3代目。表紙には1代目のイラストが描かれていて、歯が欠けたり錆びたりすると代替わりします。等間隔・縦一列に複数の穴を一度で空けられる、作品のための特注品です。浅草にあるポンチ製作所へ、太田さんが直接依頼して作ってもらっていました。鉄製のため、文鎮のような重さがあります。
作品のルーツは「版画」にありました。1980年代に太田さんが初めて行った個展では、肖像画を発表しましたが、その後に画廊周りをするうち、現代美術がもつ表現の幅広さに驚きます。「絵を描いている場合ではない。もっと自分なりの自由な作品をつくりたい」と、現代美術の道に進みました。
とはいえ、何から始めれば良いか分からず、まずは勤めていたデザイン会社の後輩が通っていた、版画の研究所へ。版画の技法は習得できたものの、「つくりたい」と思える何かは思い浮かびませんでした。それ以降「日常のなかでの版画のようなもの」を思案するなかで、「切手や消印も版画のひとつ」という解釈に辿り着きます。
太田さんは、「どこにでもあるものを使って、誰も見たことがない作品をつくりたい」と話していました。たしかに「切手」という意味では馴染みがありますが、大きさや形が作品ごとに異なります。また、作品のモチーフは植物や落ちていたトランプ、太田さんが感染したO25のウイルス、戦争の遺族の写真、虐待されて亡くなった子どもたちなど、見たことがないものばかり。太田さんの作品は、茶目っ気たっぷりなものも、メッセージ性が強いものも、鑑賞者が自分事として感じられます。鉄製のポンチは、そうした作品を生み出す太田さんの相棒なのかもしれません。

〈出典〉ふえき 87号(2025年5月25日)