財団と人

#021 白田好彦さん

文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)館長

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  • 2024.09.09

「ナナメの関係」と「本音の対話」を大切に

ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、子どもたちが主体的に人生を切り拓く学びを届ける認定特定非営利活動法人カタリバが、東京都で展開している中高生の居場所b-lab(ビーラボ)を視察してきました。現在、b-labの館長をしている白田好彦さんに、b-labの役割について伺ってきました。(聞き手:財団/野村泰介・和田広子)

教育と福祉というカテゴリーでなく、若者という概念で

和田 カタリバとの出会いをお聞かせください。

白田 2015年、b-labが開館したタイミングで自治体職員から転職して、カタリバの職員になりました。自治体では児童館で6年間働きました。ゼロから場所を作り出せるというb-labに魅力を感じ、人生経験をと思って転職をしました。放課後の子どもの居場所とか、ユースワークという概念に関心がありました。

2015年に内閣府のプログラムでオーストリアに行ったのですが、欧米に行くと、ユースワークという概念が日本よりはっきりしていて、青少年に対して大人がどういうふうにかかわるのか、青少年のためにではなくて、青少年と共に支えるという概念での支援が進んでいます。

その概念も取り入れながら、b-labを運営しているところです。2017年に副館長、2018年から館長として働いています。

野村 ユースワークの支援とは?

白田 幅広いところではあるんですが、わかりやすいところで言うと、b-labのような若者の拠点施設、ユースセンターというのが自治体ごとにあります。その数は日本よりかなり多いです。他には若者の活動に助成するプログラムがありました。非行支援や就労支援は、欧州でもかなり課題になっているところで、面白かったのはユースセンターの中に就労施設が増設されていて、居場所として利用しながら実際に就労でき、給料もいただけるんです。居場所の中で社会復帰をする取り組みも行っていました。

特徴的なのは、日本では教育とか福祉というところでカテゴライズされがちなものが、ユースワークの概念だと教育と福祉というカテゴリーでなく、若者という概念でくくられるというのが大きいところかなと思います。

和田 では、b-labの運営について教えてください。

白田 b-labがある文京区教育センターの施設の大部分は、文京区の公務員の方が働く教育センターの施設になります。カタリバは、b-labの部分の運営に関して業務委託がされています。

和田 指定管理ではない?

白田 指定管理ではありません。業務委託という形になるので、活動の幅というのは、児童青少年課、行政と協議しながら進めています。行政のビジョンとすり合わせながら運営しています。

b-labという愛称もワークショップの中から

和田 どの段階から関わったのですか?

白田 開設準備の段階から関わっています。開館に向けてのPRや中高生の意見をくみ取った施設作りのためのヒアリングなどワークショップを複数回実施しました。劇作家の平田オリザさんをお招きして、どういう秘密基地を作るかというワークショップを行うなどです。b-labという愛称もワークショップの中で生まれています。

b-labの施設は、おしゃべりしたり、まったりしたり、勉強したりなんでもできる自由な談話スペースをはじめ、演劇、ダンスの練習、発表ができるホール、卓球などのスポーツができる屋内スペース、ハーフサイズのバスケコートがある屋外の運動スペースがあります。

和田 使用料は?

白田 中高生は使用料がかかりません。一般の方は、平日の中高生がやってくる時間まではスタジオ・ホールの利用ができ、有料となります。

和田 稼働率はどうですか?

白田 稼働率は7割から8割くらいです。季節によってバラツキがあります。秋の文化祭の前は多いです。ホールやスタジオの施設もb-labの付加価値の一つですが、実際に勝負すべきはハード面ではなくてソフト面なのかなと思っています。

そもそもカタリバという団体は、高校などへの出張型のキャリア教育の授業を行う団体として2001年に生まれました。中高生に自分は何をやりたいのかということを本気で考える120分間を、創業期より届けております。大事にしているのは、ナナメの関係と本音の対話です。ナナメの関係というのは、学校や先生といったタテの関係でも、友達のようなヨコの関係でもない、ちょっと年上のお兄さんお姉さんたちとの関係です。タテとヨコの関係が人として基盤を築く関係性だとすれば、ナナメの関係はそれらとは違った角度から社会の実相に触れさせる、意欲に火を灯す出会いです。ナナメの関係からから引き出される自分の思いを引き出し、本音の対話を生み出します。

特に本音の対話というのが大切だなと思っています。そういったのが表れているのがこの掲示板になります。今取り組んでいるイベントの一つで、「探究アソビ場」というプログラムの中で毎週土曜日に帯で行っています。これからの教育に求められる、アクティブラーニングやプロジェクトベースラーニングに取り組んでいます。

ここに書かれているのは、学年も学校も異なる子たちと職員たちのそれぞれが考える「好きなこと」です。イベントと言った時に、イベントの仕手と受け手がいる感じが多いと思うのですが、このイベントは、中高生も大人も参加者として、素をさらけ出して共に実施するということを大切にしています。
参加者は自分の好きを言葉にしてみて、その好きな中から生まれた、自分のちょっと偏った、他の人とは違う感性との対話を楽しみます。

和田 この人は釣りが好きなんですか。

白田 魚が好きな子もいれば、食べることが好きな子もいます。この施設は習い事や学校のように来なければいけない場所ではないので、このプログラムに、食いついたなと思っても、次の回には来なかったということも結構あります。ひとつの「きっかけ」として、なにかひっかかればいいかなと思って継続して実施しているプログラムです。

和田 偏愛、偏った愛マップ?

白田 「偏愛マップ」は教育学者の齋藤孝さんが著書を出されていますが、これはその偏愛マップを元にした、「マンダラート」です。例えば「音楽」が好きだとします。3×3のマスの真ん中に「音楽」と置いた上で、では音楽の何が好きなのかというのを周囲のマスに書いていきます。また「かっこいい」というのがあったら、「かっこいい」とはどんな要素なのか、というふうに、自分の好きを掘り下げていきます。

施設に係るすべての人がナビゲーター

和田 ナビゲーターは誰ですか?

白田 中高生たちの「やってみる」ということをとても大切にしている空気感を作っている存在の一人が大学生です。例えば、ニュースを題材としたイベントがあるのですが、このイベントは職員が提案しているのではなくて、大学生が、実際に中高生とかかわった中で、話しているうちに、ちょっとこういう突っ込んだイベントをやってみようと提案が上がってきて、彼ら自身がチラシを作ってイベントを実施しています。

施設に係るすべての人がナビゲーターであり、施設全体で何かやってみるということを応援するというのがコンセプトとしてあります。

野村 大学生はインターンですか?

白田 大学生は、運営にコミットするインターンもいれば、ボランティアもいます。ボランティアについては、1学期2学期3学期という区切りで募集をしています。文京区は大学が多い自治体です。19くらい大学があるので、そうした資源も活かしています。

野村 無償ですか?

白田 インターンは活動支援金が出ます。ボランティア自身にも成長のはしごが必要だと思っています。彼らのミッション、普段かかわる時のミッションは居場所支援です。要は中高生と対話をしたり、やってみたいことに背中を押すとか、そこで自信を身に付けた子たちが今度は自分自身がプロジェクトを推進する側に回りたいとなってインターンになる。そういった縦の循環の中で施設運営を回していきたいと思っています。

和田 イベントがない時は何を?

白田 イベントがない時は、館内を巡って、何やっているの?と中高生に話しかけます。そこで関係ができてくると、中高生から「ねえねえ聞いてよ」みたいなやりとりが生まれてくる。関係性が成熟してくると、一緒になにかやってみるという動きが生まれる。すなわち、イベントがない時間は、主体性が生まれるための関係の質を高める取り組みを行っています。現実として職員には事務の仕事があったりするので、日常的な中高生との関わりの部分の多くは学生が担っています。

野村 募集はどのように?

白田 カタリバの強みを最大限に活かして、WEBやSNSで公募をしています。

和田 直接、大学に行って呼びかけるのではなくて。

白田 もちろん、それも行っています。それはそれで効果はありますが、同時にボランティアコミュニティの運営というのは団体の強みかなと思います。ボランティアがボランティアを呼んでくる流れみたいなところがあります。

東北から始まったマイプロジェクトは全国に広がり

和田 『「カタリバ」という授業』を読ませていただました。

白田 ありがとうございます。本では「カタリ場」が生まれるまでの話だと思いますが、今はその上で、様々な活動を展開しています。2011年の東日本大震災をきっかけに被災地の子どもたちが放課後に安心して過ごし、学ぶことができる場「コラボ・スクール」を始めました。そこに通ってきていた子どもたちの中から、支援を受けるばかりでなく、自分たちも故郷のために行動したいという気持ちが芽生え、「マイプロジェクト」という取り組みがスタートしました。東北から始まったマイプロジェクトは、今では全国に広がり、社会課題に対して当事者意識をもって行動する高校生が全国各地から集う大会「全国マイプロジェクトアワード」も行なっています。岡山の高校生の活動も、応援させてもらっています。

また同時に、高校生が主体的に活動できる場が地方だけでなく都心にも作りたいという思いをもって、私たちはb-labにチャレンジさせていただいております。なので居場所を作りたいという思いとともに、中高生がチャレンジできる場所があったらよいのではという文脈でb-labにチャレンジしているところがあります。

2015年、時を同じくしてチャレンジしているのが、島根県雲南市の「おんせんキャンパス」です。最初は不登校支援から始まった同自治体との連携は、現在、高校に教育支援コーディネーターを置き、学校と密接に連携した形でのキャリア支援教育も行っています。地域魅力化の動きも重なり、島根県全般の社会教育事業に仕事の幅を広げているところになります。

和田 雲南市の視察も検討しました。

白田 行政連携、教育委員会連携という話でいうと、かなり密なパートナーシップを結び実施している事例になると思います。

和田 貧困世帯の子どもの支援もされているんですね。

白田 2016年より東京都足立区にて「アダチベース」という事業を立ち上げました。「未来へつなぐあだちプロジェクト」に取り組む東京都足立区から委託を受け運営を始めました。学習支援や体験学習を通じて、困難を抱える子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりを行っていきます。

白田 やりたいことを実現するためのネックとして、活動資金が出てくるかなと思います。その上で、そもそもカタリバの活動資金がどういった流れで運用されているのかを簡単にご紹介できる範囲でお話しします。

野村 気になるところです。

白田 カタリバの収入は、ご寄付などの割合が全体の約50%、行政委託費などが約35%、事業収入は約15%です。

ありがたいことに全国各地のたくさんの方からご寄付をいただいています。しかし、海外や歴史ある団体に比べて、まだまだ不安定な財政基盤です。教育活動は受益者負担の難しい分野です。きちんと活動の価値を社会に発信し、賛同してくれる方を増やしていくかが重要だと考えています。

活動をエビデンスとストーリーで語る

和田 確かに教育や文化では事業収入が得にくいです。その中でどうやって活動していくかという…。

白田 大変難しいですよね。私たちも試行錯誤をしているところではありますが、これから目指さなければいけないと考えていることは、活動をエビデンスとストーリーで語ることです。

エビデンスというのはわかりやすく成果を数字や状態で示すことです。教育は、こちら側の働きかけとその結果、子どもたちにどのような良い結果が生まれたのか、因果関係を実証することは非常に難しいのですが、多くの方にご理解をいただき活動を持続させていくには、取り組まねばならないことです。また同時に、個別の関わりや対話の中にも大切な要素がたくさんあります。それをストーリーで伝えていけたらと思っています。特定の誰かが、職員とかかわったことで、こういう行動変容が生まれたよという、個人の何気ない変化、みたいなことも、実際にあった話として、多くの方にご理解いただくきっかけになるのではないかと思います。

和田 収支のバランスは?

白田 職員がアルバイトをしながら活動していた創業期の頃と比べれば少しずつ安定してきました。社会課題を社会に発信することで、寄付で支援くださる仲間が増えてきました。今年度からはマイプロジェクト事業につきましても「マイプロ基金」というのを始めまして、こちらも寄付を募りながら運営していこうとしているところです。

未来を切り拓く創造性をすべての10代に届けたい

和田 当財団の助成対象者、備中志事人が始めたマイプロジェクトですね。

白田 マイプロジェクトは、身近な社会課題に対して自分ができることは何かを考えて実際にアクションしてみる活動です。

中学生高校生がより主体的に学ぶアクティブラーニングというのは、更に推進していく必要があると思っています。その機運を第三者の立場で高めるためにも、この事業はいろんな人の力を借りながら続けていきたいと思っています。規模としても少しずつ成長していまして、全国から200ぐらいのプロジェクトの申し込みがあります。文部科学省の後援も頂いております。

和田 マイプロジェクトアワードですね。

白田 はい。マイプロジェクト事業の年間プロセスとしては3つの場面があります。1つはスタートアップ合宿。それを先日、井原で開催したところです。やってみたいことを一緒に考える場を作ります。その上で2つ目の場面として、フォローアップの場を設けています。それは中高生にとってもそうですし、大人の伴走者向けにもそういった場を作れたらなと思っています。最終的には2月から3月に、いわゆる報告会を実施して、あくまで競うことが目的ではなく、相互に刺激を受け高めあう学びの場として、アワードを実施しています。

和田 これは学校単位でやるということですか?

白田 今は学校部門と個人部門の2つを設けています。学校部門だとボランティア部などからの応募が多いです。

野村 マイプロジェクトの応募者に地域性はありますか?

白田 過去は東北が比較的多かったです。最近は各地域に広がりをみせており、島根、北海道、九州、関西、関東など全国各地で実施しています。高校に対して支援していく形も生まれ始めています。

野村 行政連携のポイントは何でしょうか。

白田 行政連携について言うと、キーマンを見つけることかなと思います。雲南市のケースにしてもb-labのケースにしても、人との出会いをきっかけに物事が動き出していると思います。キーマンと出会った時に、それを逃さないというのが大事なところかなと思います。一人の人から変わることは、すごくあるなと実感しています

野村 5年後の目標は何ですか?

白田 今まさにロードマップを作っているところになります。どんな環境に生まれ育っても未来を創り出す力を育める社会を作るべく、前を向く意欲と、自ら工夫しながら未来を切り拓く創造性をすべての10代に届けていきたいです。

(2018.06.26)