助成先を訪ね歩く(取材日:2023年11月28日)

岡山県No.1インターンシップ・プログラムを目指して

D-Internship

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  • 2024.03.13

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、D-Internship(ディー インターンシップ)実行委員会の事務局長を務める、久保田正彦(くぼた まさひこ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/大島 爽)

インターンシップとは

インターンシップとは、おもに大学生が在学中に一定期間、企業で実際の就業体験を行うことです。日本では大学2年生〜3年生を対象にしたプログラムが多く、各大学と企業との連携(産学協働)において実施されています。

長期インターンの場合は社員の一員として、会社の利益に関わる業務を遂行することを求められており、マニュアルに従うアルバイトとは大きく違います。

“大学等での学修と社会での経験を結びつけることで、学修の深化や学習意欲の喚起、職業意識の醸成などにつながるものであり、その教育的効果や学生のインターンシップを始めとするキャリア形成支援における効果が十分に期待できる重要な取組である。”(「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方(文部科学省)」より引用)

学生にとっては、自主性や発想力、コミュニケーション能力を鍛えることにつながり、企業は次世代への自社のPRと共に、社会貢献としての役割を担えます。

D-Internship(ディー インターンシップ)実行委員会

D-Internshipは、毎年9月に倉敷アイビースクエア内のアイビー学館で開催される「龍の仕事展」を、大学生の人材育成として活用したインターンシップ・プログラムです。

龍の仕事展は、「第25回国民文化祭・おかやま2010 」への出展から始まりました。高梁川流域のものづくり企業約30社が集い、企業文化や地域のPRを通して自社商品の販売を行っています。

現在、D-Internshipのプログラムは大きく3つに分かれています。
①事前研修
②PDCA実践
③事後研修
6月末に事前研修がスタートし、12月初めに行う一般公開の最終成果発表会までの、約半年間の長期インターンシップです。

時間数による取得単位数のボリュームは、事前研修で1単位、PDCA実践で2単位、事後研修で1単位、全部参加すると4単位が修得できます。

写真提供:D-Internship

龍の仕事展の企業だけでなく、他社へのインターンシップに参加する学生が、事前研修と事後研修だけを受けることも可能としています。既に実績として、2022年にくらしき作陽大学の学生が、他社のインターンシップへ参加する際、D-Internshipの事前研修と事後研修を受けたそうです。

参加企業からのD-Internshipの印象として、「仕事に取り組む姿勢やビジネスマナー、それに付随した数多くの研修機会もあり、学生にとって大変価値のある取り組みではないか」「やる気のある学生さんが多く、学生目線ならではのアイディアを出してくれるので、こちらも勉強になることが多い」などの声がありました。(D-Internship参加者18人のレポートによる「8年間の成果とその事業価値※」より抜粋)

※D-Internship作成のパンフレット

D-Internshipのプログラムに参加している主要大学の倉敷芸術科学大学・岡山県立大学・吉備国際大学の3大学は、それぞれ3単位の単位互換を行っています。

●倉敷芸術科学大学
D-Internship参加によって単位認定される2科目は「まちづくりインターンシップ」2単位、「地域貢献実践」1単位の合計3単位です。2科目とも全学部共通科目である教養科目です。

●岡山県立大学
副専攻「岡山創成学」の3年次演習として、デザイン学部の3年を対象とした「デザインプロジェクト演習」4単位において、D-Internship参加によって単位認定されます。

●吉備国際大学
吉備国際大学では「インターンシップⅠ」2単位、「インターンシップⅡ」1単位の2科目合わせて3単位の取得が可能となっています。

2014年からD-Internshipの事務局長を務める久保田さんに、10年目を迎えたD-Internshipのこれまでの活動や、未来に向けた展望などをお聞きしました。

8年をかけ、オリジナルプログラムが完成

写真提供:D-Internship

―D-Internshipを始めた経緯を教えてください。

久保田(敬称略):始まりは文部科学省が掲げた「産業界等との連携による中国・四国地域人材育成事業」に参加したことにあります。中四国18の大学が地元の企業と協力して、大学生に求めるべきインターンシップの内容についての協議・実践・研究を2012年から3年間に渡り実施しました。

事業の研究成果として、中国・四国地域は社員が100人以下の中小企業が多く、その企業が大学生に求めるものは、大学で学んだ専門性よりも「自己啓発力」と「自己教育力」であるというものでした。

ちょうど2011年〜2013年の龍の仕事展の会場運営に、ボランティアとして大学生に入ってもらっていました。そのことも一つのきっかけとなって、大学のインターンシップに応用する企画が持ち上がり、2014年にD-Internshipを立ち上げました。最初の4年間は備中県民局の提案型協働事業として実施し、その後は自走できるよう努めて現在に至ります。

―D-Internshipの募集要項やプログラムテキストを拝見すると、突き詰められたメソッドであったり、徹底したサポートであったり、指導する側の想いや強いメッセージ性をとても感じました。

久保田:中小企業は大学生に「自己啓発力」と「自己教育力」を求めています。でも大学はアカデミックな場所なので、どちらかといえば人材教育は得意な方ではないと思うのです。そういった大学側の課題に対応しているのが、D-Internshipのプログラムです。

写真提供:D-Internship

学生をインターンシップで企業に送り出す前に、動機づけをちゃんとしておかないと無駄な時間になりかねません。参加し終わって帰ってきてもフォローがないと、ただ「コミュニケーション能力が身につきました」と見せかけの成果報告で終わってしまう。

私たちは学生たちに「それの何が良かったの?」「どう変わったの?」「今後どう生かしていくの?」と“なぜ?”を繰り返します。それらを言語化できないなら、何も身についていないということです。

時間をかけて自分自身を掘り起こし、未来の自分にどう落とし込んでいけるのか、徹底的に向き合える環境をつくること。そうすることで、「自己啓発力」や「自己教育力」が少しずつ身についてくるのです。

また、人は他者と関わり合うことで成長します。お互いが頑張っている姿を見て頑張ろうとするし、隣で変わっていく姿を見て自分も変わりたいと思うものです。インターンシップを通じて仲間と共有する時間はかけがえのないものです。

事前・事後研修での手厚いコーチングによる、精神的アプローチがベースにあるからこそ、現場でのPDCA実践が現実味を増し、本物の力が養われるのではないでしょうか。

写真提供:D-Internship

―活動を続けてきて、団体として達成したことはありますか?

久保田:2021年にようやくインターンシップ・プログラムのアウトラインが完成。学生18人のレポートによる「8年間の成果とその事業価値」のパンフレットを作成し、広く配布できました。

これを基に、翌年2022年の大学教育学会のラウンドテーブルで、倉敷芸術科学大学 名誉教授 小山先生による「インターンシップの新機軸」という発表がありました。

「学生の自己教育としてのインターンシップ」というタイトルで、D-Internshipのプログラムが学生の「自己啓発力」と「自己教育力」を育てていることを、学術的に実証していただいたのは大きな成果だと思います。これにより全国の大学の方々からも、プログラムの完成度が高いことを、認知・評価していただけました。

また備中県民局からは、龍の仕事展実行員会とD-Internship実行委員会の連名で、備中地域の産業文化PRと人材育成の融合という成果で、2021年に「地域づくり推進賞」をいただきました。

―10年を経て、久保田さんが講師の立場として嬉しいことはどんなことですか?

久保田:まず、年々大学からの評価が高くなっており、プログラムに参加した学生が変わったと報告されることです。彼らはいろいろな面で自信がつき、誰とでも積極的に対話ができるようになったり、それまで研究室に寄りつかなかった学生がまめに通い出すようになったりするそうです。

学生からは本インターシップを通して、「これまで持っていたコミュニケーションの概念を覆す体験ができた」「自分の考えに固執せず他者の考えも素直に受け止めることが大切だと思った」「大きな達成感を経験し、さらに挑戦したくなった」など、多くの前向きな声を聞くことができました。

講師という立場としては、学生から様々な学びを得られます。共に学び、共に考えることで、対学生とのコミュニケーション・スキルは年々向上してきました。若い世代の価値観や世界観をリアルタイムにインストールして、自分の視点をアップデートできるところも面白いと感じています。

―今後、新たな展開の予定はありますか?

久保田:D-Internshipのプログラムを、吉備国際大学の正式な授業として検討していただける運びになりました。これまで、D-Internshipの委員長を倉敷芸術科学大学の小山(こやま)名誉教授に務めていただいていましたが、2024年度からは、吉備国際大学 外国語学部 外国学科長 畝(たんぼ)先生にお願いする予定です。

教育に完成はない、ブラッシュアップをし続ける

写真提供:D-Internship

―なぜ、福武教育文化振興財団の助成金を申請しようと思ったのですか?

久保田:2014年〜2017年は備中県民局の提案型協働事業として実施しましたが、駆け出しの4年間ではプログラムが未熟でした。継続的な試行錯誤のためにも助成金が必要だと考え、2018年〜2020年の3年間、福武教育文化活動助成金を毎年申請し助成を受けました。

―当財団の助成を受けてよかったことは何ですか?

久保田:学生18人によるレポート「8年間の成果とその事業価値」のパンフレットを作成できたことです。また、コロナ禍においても大学側からの強い要望により、参加企業が少ない中でも毎年欠かさず開催し、今年で10年目のD-internshipを迎えられました。継続できたことはもちろん、福武教育文化振興財団さんからのサポートを受けられたことは今後への自信にもつながりました。

―これからの運営プランや、目標はありますか。

久保田:D-Internshipは龍の仕事展との連携で運営されています。龍の仕事展への出展企業を増やすことが、企業と連携して学生が活躍できる場面を増やすことにつながると考えています。

また、教育プログラムに完成はありません。毎年、至らぬ点があれば更新を繰り返し、より時代に則したテキストを作成する必要があります。プログラムのブラッシュアップを繰り返しながら、引き続き、D-Internshipプログラムの大学コンソーシアム岡山への乗り入れ授業化を目指してまいります。

これからも地元企業と学生たちを結び、一人でも多くの若い学生たちが岡山や倉敷で働きたいと思ってもらえるような、魅力ある機会を増やしていくことが目標です。

おわりに

右:和田広子財団職員

D-Internshipの募集要項や学生が実際に使用するテキストを見ると、久保田さんの地元愛あふれる熱い想いがギッシリと詰め込まれており圧倒されます。インタビューの間も、形式だけではなく本気で学生たちを導きたい、この活動に身を捧げる覚悟すらも感じました。「岡山県No.1インターンシップ・プログラム」の標榜に相応しく、今後ますます、地元企業・大学・学生の三者を結び、力強くサポートする団体として活躍していかれる予感がしました。

D-Internship 実行委員会
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