助成先を訪ね歩く(取材日:2023年7月18日)

コミュニケーションが本を買う楽しさを生む

瀬戸内ブッククルーズ実行委員会 代表 根木慶太郎

  • 知る
  • 2023.09.14

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、岡山大学の津島キャンパス構内にあるJunko Fukutake Terraceで活動を始めた「瀬戸内ブッククルーズ実行委員会」代表の根木慶太郎(ねき けいたろう)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

Junko Fukutake Terrace

Junko Fukutake Terrace(以下、J Terrace)は、福武教育文化振興財団の前代表理事理事長を務めていた福武純子(ふくたけ じゅんこ)さんが、岡山大学に寄贈した建物です。「人が集まり、対話が生まれる場所」として設立されました。

建物を手掛けたのは、妹島和世(せじま かずよ)さんと西沢立衛(にしざわ りゅうえ)さんによる建築家ユニット「SANAA」(サナア)です。雲のような柔らかい曲線の特徴的な屋根の下、不規則に配された無数の柱が経つ空間、木立の間を散策しているかのような開放的なガラス張りの建物にすることで、地域に開かれた大学であるという岡山大学のメッセージを伝えています。

2016年度には、良好な景観形成や地域の魅力あるまちづくりに寄与した建築物などを表彰する「2016年度 岡山市景観まちづくり賞」に選ばれました。学生や教職員、地域の人々が集い、気軽に関わりあえる交流の場として、また大学と地域を繋ぐ架け橋として重要な役割を担っています。

瀬戸内ブッククルーズ実行委員会

写真提供:瀬戸内ブッククルーズ実行委員会

瀬戸内ブッククルーズ実行委員会は、本を通じた様々な楽しみ方を広げ、交流する各種イベントを企画・運営しています。瀬戸内エリアを中心とした小さな書店や本を愛する有志により、2016年に発足しました。

2016年の「イチョウ並木の本まつり」を皮切りに、2017年~2019年は年に一度「小さな春の本まつり」「小さな春の本だんぎ」などを開催してきました。イベントでは、来場者が本屋や図書館のスタッフ・出版社・作家などとコミュニケーションを取れる場をつくっています。

2023年2月25日〜3月12日には「おかやま文学フェスティバル2023」を実施し、約1ヶ月かけて本にまつわる様々なイベントを行いました。最後の2日間は、旧内山下小学校にて「おかやま文芸小学校」を開催。本の展示販売はもちろん、出版社などによるブックトークやワークショップ、出張朗読会、映画上映などを行い、2日間で約1,100名が来場しました。

代表の根木慶太郎さんに、これまでの歩みを伺います。

本を介したコミュニケーションが、本を買う楽しみに

根木慶太郎さん

―瀬戸内ブッククルーズ実行委員会が始まったきっかけを教えてください。

根木(敬称略):J Terraceを運営している酒井政徳(さかい まさのり)さんから、2016年に「J Terraceをさらに地域に開かれた場を運営するに、イベントをしてくれないか」と相談されたのが始まりでした。

ちょうどその頃、「もう一度本のイベントを企画してみようか」と思っていたタイミングだったんです。実は酒井さんから声がかかる少し前、他の本屋のオーナーとイベントを行なったのですが、なかなかうまくできなくて。

酒井さんのご協力があって、2016年春にJ Terraceで「小さな春の本めぐり」を開催しました。それが今に繋がっています。

J Terraceにて(写真提供:瀬戸内ブッククルーズ実行委員会)

―今では「おかやま文学フェスティバル2023」を開催するなど、活動が広がっていますよね。

根木:活動を続けられている理由の一つは、岡山市と関わるようになったことだと思います。

「小さな春の本めぐり」で岡山市と繋がりまして。ご縁あって2017年度から岡山市より補助金をいただくようになり、イベントは継続して開催できるようになりました。

そもそも岡山市は、僕たちが関わる前から「坪田譲治文学賞」を実施するなど、「“文学のまち”として岡山市を盛り上げたい」との思いがあったようです。2022年には「文学創造都市岡山」と謳い、2023年にはユネスコ創造都市ネットワークへの新規加盟申請都市として、岡山市(文学分野)が、日本ユネスコ国内委員会の承認を経てユネスコへ申請することが決まりました。

「おかやま文学フェスティバル2023」は、ユネスコ創造都市ネットワーク登録に向けて機運を高める意味で開催していたんです。最後の2日間で開催した「おかやま文芸小学校」には、来場者目標500名のところ約1,100名という想定以上のお客様に来ていただけて、よかったなと思っています。

―瀬戸内ブッククルーズ実行委員会が開催するイベントでは、どのようなことを大切にして運営していますか?

根木:本を介してコミュニケーションを取ること。その体験自体が、本を買う楽しみになったらいいなと思いながら活動しています。

僕は、本好きな方にだけイベントに来てほしいとは思っていないんです。普段あまり本を読まない人に対しても、本と出会える機会をつくりたい。それは僕がやっている本屋「451ブックス」も同じ思いです。

451ブックス

イベント出店者には「背もたれがある椅子は持ち込まない」「なるべくお客さんに話しかける」など、お客様とコミュニケーションを取るための一定のルールをお伝えしています。

あと大切にしているのは、イベント会場の導線ですね。事前準備では、必ず会場の平面図をいただいて導線を考えています。イベントでは、半日〜1日という長い時間楽しんでほしいから。そのためにもお客様の導線をきちんと設計して、居心地がいい会場をつくろうとしています。僕自身が一級建築士なので、平面図から会場の導線をつくろうとするのは自然な考えなんです。

助成を受けて、運営体制の礎を築く

おかやま文学フェスティバル(写真提供:瀬戸内ブッククルーズ実行委員会)

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けようと思いましたか?

根木:2016年の「小さな春の本まつり」に、福武教育文化振興財団の和田さんが来てくださったんです。「イベントをやっていくなら、うちの助成金を申請してみたら?」と勧めてくださったのがきっかけでした。

和田さんから紹介を受ける以前も助成金があることは知っていたのですが、正直申請が面倒だろうな……と思っていて。でもせっかく声をかけていただいたので、思い切って申請してみたら2017年から3か年継続助成でお世話になりました。

―助成を受けてよかったことは何ですか?

根木:イベント運営費の足しにできたのがよかったです。出店者にはボランティアで参加いただいていたので……。交通費をお渡しできたことで、言葉だけではなく形でも出店者にお礼をお伝えできました。

本のイベントは、出店者がいないと成り立たないですから。今も多くの方の協力があってイベントが続けられていると思うと、運営体制の礎を築けたのは、福武教育文化振興財団さんの助成を受けていたからかもしれません。

写真提供:瀬戸内ブッククルーズ実行委員会

―今後の目標を教えてください。

根木:これからも変わらず、本を介したコミュニケーションが取れる場をつくって、「この体験こそが、本の楽しみ方なんですよ」と伝えていきたいです。

2023年で活動は8年目になりますが、本の楽しみ方が分かるお客様が少しずつ増えているように思います。「出版社さんや本屋さんと話せるのが楽しい」という感想を、実際にいただけるようになったので。
そして、本を読む人が一人でも多くなるといいですね。本を読むと、人の気持ちが分かるようになるから。想像力を持って、コミュニケーションを取ったり情報収集したりできる人が、本を通して増えていくことを願っています。

おわりに

手前:和田広子財団職員

「おかやま文学フェスティバル2023」には、筆者も足を運んでいました。作家さんや出版社さんとのコミュニケーションを、私自身が楽しめたのはもちろん、周囲の来場者も同様に楽しんでいたのが印象的でした。岡山には本を楽しんでいる人が多くいることに、勝手ながら嬉しくなったのを覚えています。

「コミュニケーションそのものが、本の楽しみ方だから」と、取材中に何度も話していた根木さん。8年続けてきて、本の楽しみ方が分かる人が少しずつ増えてきた背景には、根木さんの「本を楽しんでほしい」という一貫した思いが仲間やお客さんの心を動かしてきたのだろうと感じました。

瀬戸内ブッククルーズ実行委員会
岡山県玉野市八浜町見石1607-5(451ブックス)
問合せ先:
0863-51-2920
neki@451books.com
Webサイト:
https://www.facebook.com/setobc