財団と人

#007 河原彩花さん

NPO法人だっぴ 事務局長

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  • 2023.03.17

一人でやっているときでも一人じゃない
強くなった気がします

働き方に疑問を感じていた頃、“だっぴ”と出会って「もっと自由でいいんだ」とスイッチが入った河原彩花さん。自分と同じようにモヤモヤしている人たちに、その時の衝撃を伝えたいと、”だっぴ”のスタッフとして活動中。昨年から事務局長を任された河原さんに”だっぴ”への思いを伺って来ました。(聞き手:小川隆正〈財団 事務局長〉)

小川 学校を出られてどんなご経歴ですか?

河原 広島の短大を卒業後、京都に行ってフリーターを2年ぐらいしてました。そのときは飲食店をしたいと思っていたので、飲食系のお店でアルバイトをしていました。

小川 もともと岡山の御津の出身ですか?

河原 そうです。

小川 京都から戻られてどうされていたんですか?

河原 倉敷の職業訓練校に1年ぐらい行ってました。ギャラリーカフェをしたかったので、服飾科に行って、モノの作り方とかを勉強して、そのあと、就職しました。

仕事に疲れて余裕がなくなり、
働き方に疑問を感じるように

小川 どのような仕事に?

河原 いつかはギャラリーカフェを開きたいと思っていたので、サービス業のホテルに就職しました。仕事はフロントや事務など。20何時間働いたら20何時間休みで、また20何時間働いてみたいな勤務体系だったので、「畑ができる」と思って、就職したのですが……実際には、仕事に疲れて畑ができるような余裕はなくて、働き方に疑問を感じるようになりました。
友達の先輩だった藤井裕也さん(NPO法人だっぴ 副理事長)のような生き方がいいなと思って相談に行きました。そのときに「“だっぴ”という活動があるよ」と教えていただきました。行ってみようかな、面倒くさいなどうしようかなと、迷いましたが、とりあえず行ってみたら、「こんなに面白い人がいっぱいいるんだ」と、パカッと視界が開けて、もうちょっと自分の人生を考えてみようと思いました。
それから仕事をやめて、「一本松ガーデン」というのを作って、田んぼや畑を始めました。作った野菜やお米をごはんやおやつにして出店したり、アクセサリーを作って売ったりとかを1年ぐらいしていました。

小川 だっぴの活動はいつからお手伝いしているのですか?

河原 2013年頃からです。1回参加してからボランティアスタッフで「だっぴ50×50」いう50人のゲストと50人の若者の出会いの場をみんなで作ってました。

小川 そうですか。事務局長専任になられたのはいつですか?

河原 2015年の1月からです。ちょっとずつ人数が増えてきて、ちゃんと体制を作っていきたいよねというときに、みんなはお勤め先があったんですが、私だけ一人フリーだったんです。

小川 だっぴには、どのような活動がありますか?

河原 50人のゲストと50人の若者の出会いの場“だっぴ50×50”、親や学校の先生以外の大人に高校生が出会える場“高校生だっぴ”、働く人と若者との交流の場“企業だっぴ”、だっぴ50×50を少人数制にした“ぷちだっぴ”などがあります。

小川 今はどんな仕事をされているのか、簡単に教えてもらえますか?

河原 裏方です。だっぴの活動は、大学生の子たちが中心になって実行委員会を作って1つのイベントを作るという形になっています。そのときに、ミーティングのファシリテーターをやったり、スケジュールを作ったり、先方との調整などをしています。

小川 大学生のボランティアスタッフとのかかわりがあるんですね。そのほかには?

河原 昨年は、岡山市の教育委員会から委託事業で学校へヒアリングに行きました。

小川 どういうヒアリングをされているんですか?

河原 キャリア教育の中で“だっぴ”の立ち位置という視点で項目を4つ決めて、中学2年生が実施している職場体験に焦点を当てて、お話を聞いていきました。

小川 中学2年生の職場体験?

河原 学校でどういうキャリア教育をされているのか、そこで先生はどういうことを感じているのかなど、アンケート調査だけではわからないところを直接会ってお話を伺っています。

小川 先生に?

河原 学校によっては校長先生が対応してくれたところもありますし、主任の先生だったり、勤務年数もまちまちだったので、11年間この学校にいるよという先生や今年初めて来たんだよという人先生などいろいろでした。

小川 平成27年度に実施ですか?

河原 もう終わって今まとめをしています。

小川 それは何かに発表されるんですか?

河原 発表は資料をPDFにして岡山市のホームページに掲載すると思います。

保護者と先生、互いの理解が深まれば
もっと子どものために変わっていける

小川 やってみて、気が付いたことはありますか?

河原 私たち法人だけではとうてい解決できないことだと感じました。
学校の中と普通の社会、言葉がみつからないんですが……全然違うなと感じました。学校の中で挨拶をしなくても特に問題ないけれども、実際に社会に出てみたらそうじゃなくて。関係性を作る一歩ができないことは、とても大きなことだと思うんです。それを学校の中で気づくことが難しいなら、地域のつながりの中でできるのではないかと思いました。保護者の方も先生も一生懸命なんです。そこにお互いの理解がもうちょっと深まったりとか、お互いに大事にできたら、もっと子どものためにいろいろ変わっていけるんじゃないかと思っています。
もう少しフラットに大人同士がつながれたらと、みんなで子どもを育てていけるのになと。

小川 職場体験は何日間ですか?

河原 岡山市で長いところで4日間、短いところで2日間だったり、4日間受け入れが難しところは2日間やってあとは学校で対応したりとか、まちまちだそうです。

小川 “だっぴ”の活動では、どのような手ごたえを感じてますか?

河原 顔が変わる瞬間があるんです。中学生だっぴのときも、最初は緊張して固い表情なんですが、ワントーク、ふたトーク終わると前のめりになって、前のめりになって人の話を聞く姿勢になってきます。

小川 写真では僕らも見せてもらってます。

河原 そのときが、とてもうれしいです。

小川 だっぴの話を聞いていつも思うのは、自己肯定感、自分自身がこれでいいんだと思ったり、地域に対する理解が深まるとか、その瞬間ですよね。

周りに頼れる人がいることを知っていたら、絶望しなくてすむのかなと思っています。

河原 じわじわ高まっていくような感じです。最後にまとめのトークをするんですが、進んでいくんだなと思うと、またうれしいです。
個人的に中学時代が一番しんどくて、ずっと大人なんてみたいなことを思っていました。でも大人になってみたら、親も先生も子どものことをこんなに一生懸命考えてたんだとわかりました。
いろいろ揺れるだろう中学生時代に周りの人が自分のことをこんなに考えてくれていて、もし学校がだめでも、周りに頼れる人がいるんだということを一つでも知っていたら、絶望しなくてすむのかなと思っています。
小学校の頃からいじめられていたんです。田舎なのでうわさはずくに広がるし、この子は小学校の時はこんな感じなんだよと言われて、知らない人に指さされて、いきなり笑われたりとか。行き場所がなくて、どこかに行きたいとずっと思ってました。
もうちょっと何か知ってたりとかしたら、全然違うんだろうなという思いがあって、「中学生でやりたい」と、それをやっと実現できたなという感じです。

小川 自分の原体験から。

河原 でも全然中学生だっぴ届けられていないのであせります。人数も少ないし。だっぴをするスタッフも卒業していくので、スタッフが少なく受け入れ体制が整ってないのが現状です。早く届けなきゃ、届かない子がいるのにとあせります。

小川 継続や拡大については、どのように考えていますか?

河原 受け入れる体制-だっぴのような場をつくる人を育てないといけないと思っています。そのためには、事務所も必要になってくるし、定期的に説明会やフォローアップ講習、ファシリテーターの教育をしっかりしていこうと考えています。

小川 オリジナルのプログラムをだっぴが作る?

河原 はい、プログラムをパッケージ化したいんです。これを使ったら、どこでも誰にでも、できるというものを。今は依頼がきてからどうするとか、時期をいつにするとか、いくらで受けるとか、そんな対応なので。
もっと早く質を保ちながら広げていくというのも課題です。

小川 企業との連携は?

河原 企業との話も少しですがあります。ゆくゆくは中学生だっぴに企業の人が企業研修として来てくれたら面白いのになと思っています。行政と連携するときは、ある一定の企業と絡むのはNGというのもあるので、丁寧にしていかないといけないところです。

小川 大学生の組織化は?

河原 キャストを大学生に絞って今までは登録していたたんですが、大人でもありだなと検討中です。

小川 おじさんみたいな人も?

河原 30歳までの社会人だったらいけるんじゃないかと。
参加するおとなに関しても、他の地域の大人と会って視界を広げてほしいという学校やPTAからの依頼があったりするので、おとなキャスト登録も取り組んでいるところです。

小川 代表の柏原さんも、自分らで全部やる気はある意味ないと。いろんな協力者とか部外者とかいて、全然違う人がやってくれていいと言われてますよね。

地域の人たちが一緒に子どもを育てるんだ
そんな意識ができてくるのが一番いいな……

河原 幼少中の教頭先生、校長先生と地域の人が集まって話す地域協働学校というのが岡山市で数校あるようですが、団体だけはできたけれども、機能しなかったり、何をしていいかわからなかったり、そもそも会議をどうやって進めていいかわからなくて停滞してたり、という課題もあるそうです。それがもったいなと感じていて、中学生だっぴを各機関の連携や地域とのつながりづくりにも利用してもらえたらいいんじゃないかなと。
地域にだっぴのしくみが残るようになっていったら、法人はキャストを派遣するだけで対応ができます。そこで地域の人たちが一緒に子どもを育てるんだという意識ができてくるのが一番いいなと思っています。学校と地域、そこを最初だけつなぐことができたら、何かもっとスピードアップするような気がします。

小川 だっぴにかかわって自分自身が変わったことは?

河原 人とやるのが苦手なんです。割と個人行動派だったんですが、みんなでやると一人じゃできないことができることに気が付きました。一人でやっているときでも一人じゃない感じがして、強くなった気がします。

小川 いろんな人と接して、いろいろ啓発されているんでしょうね。

河原 ハッとさせられたり、すごいなということに気付いたり、その半面、自分の中での気づきもたくさんあって、自分にこういうところがあるんだなあと思ったり、自分のこういうところはいやだな、どうしようかなと思ったり。自分を認めてくれる仲間と一緒に活動しているから、安心感を持ちながら一緒に成長していきたいなという気持ちです。可能性は広がりました。一人でできることもあるし、みんなでできることもあるし。楽しいです。

小川 だっぴにかかわって、河原さん自身が自己肯定を…

河原 していると思います。
このあいだ学生の報告会があったんです。かかわったメンバーのほとんどが言っていたのは、「自分が認められるようになった」という言葉を、言葉は違えども言っていました。自分の弱いところも認めて、ほかの人のことも認めて、一緒にかかわっていく…ほかの人も同じようなことを感じているみたいです。

小川 参加している子どもたちも自己肯定してくるし、参加した大人たちも?

河原 大人たちもです。話してみたら真剣に聞いてくれて、相手が持っている意見も教えてくれて、お互いに理解しあう中で、信頼関係が高まって、そこが居場所になっていくみたいな感じなのかもしれないです。地域で起こったらどんな感じなんでしょうか。気になりますね。

いろいろな大人に出会って選択肢を見つけて それができるともっと社会はたのしくなる

小川 河原さん自体もだっぴの大人として参加したことがあるんですか?

河原 ないです。ずっと外にいるので、入ったらどんな感じなんでしょうか、体験したいですね。

小川 だっぴの活動を始めてよかったですか?

河原 良かったです。

小川 子どもたちが笑顔になる瞬間、顔が変わる瞬間が、やりがいがあるとさっき言われたけど、それを見た時に河原さんはどういう気持ちになるのかな?

河原 泣きそうになります。安心というのか、今気づいてくれたから大丈夫だろうなと、親ごころかもしれないです。社会って面白いですね、いろんな人がいていろんなことが積み重なっていろんなことが起きているなと思ったら。これからも変わっていくんだろうなと思ったら、とても楽しみです。
今は視界がどんどん広がっている感じです。学校の中で関係性ばかり気にしていた学生のときとは、すごく視界が狭かったんだと実感します。だから、だっぴに参加する学生や子どもたちには、今自分がどういう社会で生きているのか、もうちょっと広い目線で知ってもらいたし、いろいろな大人たちに出会って選択肢を見つけてほしい。それができると、もっと社会はたのしくなると思ってます。

対談日:2016.4.4