レポート

高梁川流域マルシェand Fフェス参加レポート

岡山の教育と文化のアクティビストたちが集まるイベント

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  • 2022.09.29

地域活動や社会貢献活動と聞くと、遠い存在のように感じる人がいるかもしれません。実は、私たちが住む岡山には、岡山の教育と文化の発展のために、社会課題を解決するために、熱い想いを持って活動している人たちが大勢います。2022年9月4日に開催された「高梁川流域マルシェandFフェス」は、公益財団法人福武教育文化振興財団が主催する地域振興や社会課題に取り組む団体が集まるフェスイベントです。同財団の助成対象団体だけでなく、高梁川流域で活躍している団体が、岡山に住む人たちに向けてワークショップやステージパフォーマンスを行いました。地域活動団体が集まる新しい形のフェスイベント高梁川マルシェandFフェスのようすを紹介します。(取材・文 後藤寛人)

高梁川流域マルシェand F フェスを紹介します

高梁川流域マルシェand F フェスはどんなイベント?

2022年9月4日、高梁川流域マルシェandFフェス(以下、andFフェス)が開催されました。場所は、倉敷市芸文館広場とイベントホールのアイシアター。andFフェスを主催する福武教育文化振興財団(以下、財団)の助成対象団体だけでなく、高梁川流域で地域振興や社会課題に取り組む団体が屋外にブースを並べ、それぞれの団体の活動に関わる展示やワークショップを行いました。アイシアターでは、来場者も一緒に参加できるダンスパフォーマンスが開催されています。また、子ども向けの積み木のおもちゃが並んだ遊び場も設置されていました。

さらに、岡山県内で移動販売を行う飲食店が出店するマルシェイベントも同時に開催。会場には、地域団体と飲食店のブースが建ち並び、飲食を楽しみにながら、岡山県内の地域活動や社会課題に取り組む団体の活動について学べるという新たな形式のフェスイベントとなりました。

高梁川流域マルシェand Fフェスは誰のためのイベント?

高梁川流域マルシェand Fフェスの目的の1つは、参加団体間の交流です。財団では、助成対象団体の交流を目的に、関係者らが数百人規模で集まる成果報告会を開催してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した2020年以降は、オンラインでの成果報告会となり、交流の場を十分に提供できない状態が続いています。また、パフォーマンスなど、実演することを成果として報告する団体にとっては、オンラインによるプレゼンテーションでは魅力を十分に発信できません。そこで、団体の関係者たちが交流する場所として発案されたのがフェスイベントです。

もう1つの目的は、財団と直接的な関わりを持たない人たちへの情報発信。従来の成果報告会では、助成対象団体のみの交流に限られてしまい、岡山に住む多くの人に向けて地域団体の活躍を発信できずにいました。フェスイベントであれば、誰に対しても開けた場所であるため、会場を訪れた人に地域団体の活動を伝えられます。多くの人が足を運ぶきっかけを作るために、マルシェイベントも同時に開催されました。地域振興や社会課題に取り組む団体の交流、そして財団の外へ向けた情報発信を目的に、フェスイベントとマルシェイベントが融合したand F フェスが誕生したのです。

イベント会場は地域団体の交流の場所

高梁川流域の地域文化の振興活動に取り組む一般社団法人高梁川流域学校の協力もあり、備中エリアの地域団体も参加しました。財団の関連団体だけでなく、エリアや組織、活動内容によらず様々な地域団体が集まるイベントとなっています。会場では、出店団体の関係者たちが、他団体のブースを訪れ、笑顔で話をするようすが見られました。お互いの団体の存在を気にかけていながら、直接顔を合わせる機会がなく、andFフェスが出会いのきかっけになったという人もいたようです。岡山県内で活躍する団体が交わることで、新たな取り組みや、新たな価値が創出される予感がしました。

高梁川流域マルシェand Fフェスの出店団体を紹介します

and F フェスには、15の地域活動団体が参加しています。岡山に貢献する地域振興や社会課題に取り組む団体が一同の集まっているのがandFフェスの特徴です。普段はそれぞれの分野で活動している団体が、顔の見える近い距離で集まることはほとんどありません。and F フェスに足を運び、それぞれの団体のブースに立ち寄れば、熱い想いもって、社会課題に取り組む姿が見えてきます。どのような人が、どのような想いを持って岡山の社会を支えているかを感じ取れる場所が、高梁川流域マルシェand Fフェスなのです。andFフェスに参加した団体の一覧を以下に示します。

団体名内容
NATURE TALK自然保護・動物保護に関する新聞の展示
エディブル・エデュケーション岡山研究会バードコールの製作
一般社団法人にいみ木のおもちゃ会積み木のおもちゃの体験
MSB30防災に関するワークショップ
一般社団法人やかげ小中高こども連合(YKG60)かき氷の販売
一般社団法人 大江戸玉すだれ岡山社中竹風会大江戸玉すだれのパフォーマンス
Fukiya design竹笛の製作
一般社団法人コノヒトカン空き缶を使ったタイムカプセルの製作
ノートルダム清心女子大学みんなの商店街プロジェクトチーム空き家活用の事例の紹介
星の郷 美星マイスター&星空案内人®︎(準ソムリエ)松島彩井原市美星町オリジナルグッズの販売
美星町や天文情報の紹介
こけしマルシェ主にアクセサリーの販売
Jam tumアフリカ産の衣類の販売
NPO法人吉備たくみ会お弁当の販売
高梁川流域学校飲み物の販売

岡山で人気の飲食店が並ぶマルシェイベント

マルシェイベントも、and F フェスの注目すべきポイントです。岡山県内のマルシェイベントを賑わせている7つの飲食店が出店しました。会場には、飲食スペースも用意されていて、地域活動を学びつつ、人気店の飲み物や料理を楽しみえるのもand F フェスの魅力。以下が、andFフェスに出店した飲食店の一覧です。

店舗名内容
ツチヤコーラクラフトコーラの販売
倉敷チーズ工房ハルパルチーズの販売
ナッシュカリーアメリカンカレーの販売
パン喫茶アトリエパンの販売
Kitchen 森のくまさんハンバーガーの販売
焼き鳥なっちゃんやきとりの販売
ルヴェール洋菓子の販売

地域活動の大切さを感じる展示・販売ブース

矢掛町のマスコットやかっぴーかき氷

一般社団法人やかげ小中高こども連合、通称YKG60が提供していたのは、小田郡矢掛町のマスコットキャラクター「やかっぴー」をモチーフにしたかき氷。やかっぴーの特徴である胴体の緑をメロンもしくは抹茶で、クチバシをポテトチップスで表現しています。かき氷の販売を担当する高校生の佐藤史弥(さとう ふみや)さんは、YKG60を通じて矢掛町の地域づくりに参加してきました。YKG60では、矢掛町の学校に通学する小中高校生が一体となって、自らが発案したイベントを運営しています。and Fフェスが開催された日は、汗が吹き出るような真夏日。天気の手助けもあり、やかっぴーかき氷は飛ぶように売れ、かき氷の完売とともに販売担当の学生たちからは歓喜の声が上がっていました。

中学生が発行する動物保護の新聞

自然・野生動物の保護に関する新聞を手がけているNATURE TALK(ネイチャートーク)。気候変動や密猟などが野生動物に与える影響について、中学生の沖メイ子(おきめいこ)さんが文章やイラストを作成し、解説しています。ブースには、自作の新聞が並べられており、沖さんから直接、絶滅の危機に瀕しているトラやゾウ、サイなどの野生動物の実態について聞くことができました。また、トラの模様を描くワークショプも実施。台紙には、トラの頭数の推移が記載されており、絶滅に瀕しているトラの実情を学ぶことのできるワークショップになっていました。

Iroiroの商店街の空き家活動

ノートルダム清心女子大学のゼミに所属する大学生が運営するiroiro(イロイロ)は、倉敷えびす通商店街にある空き家を活用して生まれたフリースペース。若い世代の人が地域に関われる場所を作ろうと、2021年夏頃にiroiroが企画されました。代表の大倉莉子(おおくらりこ)さんは、「倉敷は観光地として賑わう一方で、まちづくりの主役である地域住民が置き去りにされ、人の繋がりが希薄になっている」と商店街の課題を教えてくれました。ブースでは、これまでにゼミに所属する大学生たちが手がけてきた活動を、写真とともに紹介しています。

社会課題について学ぶワークショップ

缶詰のタイムカプセル

フードロスや貧困問題に取り組む一般社団法人コノヒトカンは、5年後や10年後の未来に送る手紙を書くワークショップを行いました。手紙を渡したい相手へのメッセージを用意された紙に記入し、その後、紙を空き缶の中に入れて製缶。タイムカプセルになった缶を、友人や家族に渡す、あるいは自分で保管するというワークショップです。コノヒトカンでは、飲食店などで廃棄される食材を長期保存できる缶詰にし、児童養護施設や子ども食堂へ配給しています。代表は、倉敷市でネイリストとして活躍する三好千尋(みよし ちひろ)さん。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、息苦しさを感じる世の中の雰囲気をよくしたいという想いからコノヒトカンのプロジェクトを立ち上げました。

農業を学びにつなげるエディブルエデュケーション

エディブルエデュケーション岡山研究会のブースでは、鳥のさえずりを再現するバードコールを製作するワークショップを開催していました。剪定された木の枝にドリルで穴を開けて、ネジの付いた金具を取り付けるというワークショップ。金具部分を回転させることで発生する摩擦音によって、鳥のさえずりを再現します。エディブルエデュケーションとは、農業という人の営みを学校の教科学習につなげる教育。例えば、茶という農作物について、世界地図を広げて原産国を調べたり、起源をたどって歴史を調べたりすることで、身近なものが教科に紐づいていきます。エディブルエデュケーション岡山研究会の代表の田辺綾子(たなべ りょうこ)さんは、ただの農業体験ではなく、人の営みを通じて学科への理解を深め、食べ物の尊さを学ぶための学習プログラムを小学校の教育現場に提供しています。

被災の記憶を実践に変える防災活動

MSD30は、平成30年7月豪雨で被災した真備町の復興支援のために、現地の中学生たちが立ち上げた団体。被災地を盛り上げるためにお祭りなどのイベントを開催してきましたが、2019年からは防災について学ぶイベント「まびっこカエルキャラバン」を運営しています。これまで、水消火器を用いた的当てゲームなど、楽しみながら実践で役立つ防災知識を身につけるイベントを企画してきました。andFフェスでは、段ボールスツールを製作するワークショップと、防災知識を身につけるカードゲーム「シャッフル」を実施。担当の高校生 野口貴生(のぐち たかお)さんは、平成30年7月豪雨で被災し、避難所の体育館で長時間床に座ることの過酷さを実感したそうです。支援物資とともに運ばれてくる段ボールを活用して、即席で製作できる段ボールスツールの有用性を、野口さんの実体験とともに教えてくれました。

竹笛製作で子ども時代を思い出す

竹笛を製作するワークショップを開催していたのは、岡山県内で秘密基地体験プログラムを企画するFukiya design。直径1センチメートル、長さ15センチメートルほどの竹にドリルで穴を開けて、音階を変えられる竹笛を製作します。音の出し方が分からずに、思い切り肺から空気を竹笛に送り込むと「ビー」という大きな音が鳴りました。Fukiya designでは、代表の那須啓文(なす ひろぶみ)さんが少年時代に体験した秘密基地遊びに基づき、子どもたちを対象に秘密基地で過ごす体験イベントを提供しています。過去には、岡山市犬島の犬島精錬所美術館の近くにある廃屋で一晩過ごすプログラムを実施。あえて不便な状況のなかに身を置いて、どのように過ごすかを子どもたちと一緒に考えることで、知恵が育まれていくと教えてくれました。

会場を盛り上げるパフォーマンスイベント

変幻自在のすだれによる大道芸

一般社団法人 大江戸玉すだれは、1枚のすだれをさまざまな形状に変化させながら、音楽に合わせて踊る大道芸を芸文館広場で披露していました。円弧を描く橋のような形状、角張った門のような形状など、シンプルなすだれからは想像できない形へと変化させるパフォーマンスは目を見張ります。ブースを取りまとめる一般社団法人 大江戸玉すだれの副理事長 佃川まつ風(つくだがわ まつかぜ)さんは、自彊術(じきょうじゅつ)という健康体操の元講師。体操の成果として体を使ったパフォーマンスするために、大江戸玉すだれを学びました。2021年に倉敷市真備町で行われたイベントで、大江戸玉すだれを披露したところ、倉敷市社会福祉協議会の真備エリアでの地域活性化に役立てないかと相談を受けたそうです。その後、22人のメンバーとともに倉敷市を中心に、敬老会や子ども会で大江戸玉すだれのパフォーマンスを続けています。

ダンスの魅力をすべての人に

ダンスパフォーマンス集団ズンチャチャは、来場者も一緒に踊れるパフォーマンスをアイシアターで行いました。ズンチャチャの代表の須原由光(すはらよしみ)さんによる数十分間のレッスンが行われ、ズンチャチャのメンバーとともに、子どもも大人も混ざり合いダンスを楽しみました。ズンチャチャは、1996年に岡山県倉敷市で結成されたダンスグループ。自由な表現方法でパフォーマンスを行うコンテンポラリーと呼ばれるジャンルのダンスで、社会人を中心としたメンバーが活動しています。須原さんはダンスの修業のためにアメリカに渡り、そこで、多くの人を巻き込みながら即興でダンスをするスタイルに魅了されたそうです。ズンチャチャを通じて、ダンスの魅力を伝える活動を伝えています。

andFフェスに参加した人たちの感想を聞いてみました

財団担当者 和田広子さんの感想

財団の担当者としてandFフェスを取りまとめた和田広子(わだひろこ)さんに、andFフェスを終えた感想を聞きました。andFフェスでは、財団の助成対象団体だけでなく、高梁川流域で活動する地域団体や飲食店が参加しており、エリア、分野の垣根を越えたイベントとなっています。これまで、財団の助成対象団体が集まるステージ発表やポスターセッションは、過去に開催したことがありましたが、助成対象以外の団体も同じ場所に集まって開催するイベントは初めてのこと。一般社団法人 高梁川流域学校の協力もあり、これまでに一同に集まることは考えられなかった活動家たちが顔を合わせ、交流する機会が作れたそうです。お互いに親和性のあるテーマを掲げている団体に対して、出会いの場を提供できないことに、和田さんは問題意識を持っていました。andFフェスを通じて、地域の垣根を越えて地域団体が関わる場所を作れたことが成果の1つだと話します。「さまざまな想いを持つ人たちが一同に集まった会場が笑顔で溢れていて感慨深く思う」と感想を教えてくれました。

参加団体の高校生の声

YKG60に所属する高校生に、andFフェスに出店した感想を聞きました。小学生や中学生には地域活動に参加する機会は少なく、YKG60の活動が地域づくりへの参加が、学生が地域団体や大人と関わるきかっけになっているそうです。今回、やかっぴーをモチーフにしたかき氷を矢掛町以外の場所で販売するのは初めて。仲間たちと一緒に矢掛町の外へ出かけて、かき氷を販売したことは楽しい思い出になったようです。また、岡山県内の活動団体を知る良い機会にもなったと教えてくれました。

高梁川流域マルシェandFフェスに足を運んで

実は、私たちの住む岡山には、身近なところに地域の文化を守り、社会課題の解決に取り組む頼もしい人たちがいます。熱い想いを持って事業に取り組んでいることは間違いなのですが、決して遠い存在ではなく、私たちの生活を豊かにしようと、社会に寄り添いながら活動している人たちです。高梁川流域マルシェandFフェスに足を運べば、地域の活動家たちと顔を合わせて話すことができます。岡山をもっと楽しく、もっと豊かにしようとそれぞれの分野で活躍する人たちから直接話を聞くことのできるフェスイベント、それが高梁川流域マルシェandFフェスです。ブースに足を運び、どんな想いを持って活動しているかを聞けば、岡山のことがもっと好きになると思います。