助成先を訪ね歩く(取材日:2023年6月8日)

地域を知り、自分たちが一番楽しむ

きび工房 主宰 森光康恵

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  • 2023.07.18

助成を受けた団体や活動が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、総社市で活動する「きび工房」の共同代表であり、その拠点として構えている「きび工房『結』」を主宰する森光康恵(もりみつ やすえ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

総社市

総社市は古代吉備国の中心地域でした。分国後には備中国の国府が置かれたことから、いかに重要な場所として認識されていたかが伺えます。国府の近く、備中国内三百二十四社の神社を勧請しお祀りした備中国総社宮は、今も残る歴史ある神社です。

また総社市といえば、桃太郎伝説のモデルとなった吉備津彦命と鬼神である温羅との伝説、通称「温羅伝説」が残るまちとしても知られています。有形・無形問わず、歴史や文化が大切に継承されてきた地です。

きび工房

きび工房『結』

きび工房は、2002年に森光さんと平田勉(ひらた つとむ)さんの2名で設立されました。「吉備の國で心豊かに暮らす」をモットーに、総社を中心に講演会や山野草を食べる会、温羅伝説を辿って総社のまちを歩く会などを開催。「大人の遊び場」として活動しています。

2008年には、活動拠点として「きび工房『結』」を構えました。イベントで使われた商店街の空き家を仲間とともにリフォームし、ギャラリーカフェとして土日を中心にオープン。ライブや映画の上映会、展覧会などを実施してきました。

森光さんは、現在「きび工房『結』」ほか、備中聞き書き実行委員会の事務局や、そうじゃ ぼっけえ造形の会事務局など様々な活動に携わっています。これまでの歩みを伺いました。

暮らしの中のひとコマとして

森光康恵さん

―市民活動に携わるようになったきっかけを教えてください。

森光(敬称略):高梁川流域の「森と水と暮らしを考えるイベント『グリーンデイ』」に携わったのが始まりでした。知人に誘われて参加したのですが、市民活動はそれまで縁がなく……。子育て中の主婦でしたから、家から一歩外に出て世界が広がり始めました。

その後グリーンデイを通して、笠岡市市民活動支援センターが発足することを知り応募。職員になり、地域で活動している方と一緒に催し物を企画するようになりました。市民活動に携わるうちに「総社のことを何も知らなかったな」と気が付いたんです。「自分たちが住む地域のことを知ること、地域の人と活動することで、もっと暮らしが楽しくなるはず」と感じ、笠岡市市民活動支援センターを退職。きび工房「結」の活動へと移行しました。

―長年活動を続けてきて、変化したことはありますか?

森光:主催事業はあえてやらないと決めたことです。「結」ができた時はがんばって、カフェと主催イベントをしていました。しかし、今はご縁のあった方と、不定期のイベントで、「結」を活用していただくようにしています。

活動を始めたばかりの頃は、何もかも一生懸命でした。そういう時期はもちろん必要ですが、がんばりすぎて燃え尽きてしまったら、活動は続けられないですよね。

今は暮らしの中のひとコマとして、活動している感覚です。無理のない範囲で行うこと。そして一人ではなく、仲間と活動すること。これらを意識するようになったから、今でも続けられているのだろうと思います。

―森光さんはきび工房以外にも活動を広げられていますが、大切にしている思いはありますか?

森光:自分たちが一番楽しむことですよね。どの活動にも同じことが言えると思います。

例えば「聞き書き」は、今では私のライフワークです。楽しいからやめられない。話し手の経験を直接聞けるのも、書いてもらっている学生と触れ合えるのも、全部楽しくて。「結」では聞き書きのOBOG会や打ち合わせも行うのですが、打ち合わせ以前に、みんなで飲んだり食べたりするのが楽しいんです。

どの活動も、続けるうえでは自分たちが一番楽しまなくっちゃ!と思います。大人が楽しんでいる姿を見て、若者に「私たちもこうなりたい」と思ってもらえたら嬉しいです。

「聞き書き」参加者と(写真提供:きび工房)

助成金はギフト

―福武教育文化振興財団の助成を受けた理由を教えてください。

森光:2011年度~2013年度に、本の出版やグッズ制作、朗読会の実施などのために助成を受けました。きび工房「結」ができて数年の頃で、一生懸命に色々な企画を行っていた時です。

総社に受け継がれる「温羅伝説」を、より知ってもらう機会を作りたいと思っていました。おかげで「鬼の涙」という絵本の出版や朗読会、鬼にまつわるグッズ制作などが実現。特に朗読会は総社だけでなく、岡山や倉敷、高梁でも開催できました。想像以上に活動が広がり、感謝しています。

―助成を受けてよかったと思うことは何ですか?

森光:ひとつは、「聞き書き」で今この瞬間しか残せないものを残せたことです。地域の歴史や人の思いなどは、時間が経てば経つほど忘れてしまうもの。総社や備中地域のことをよく知る方がご高齢になっている今は、なおさらです。

福武教育文化振興財団さんは、幅広い市民活動に助成してくださっています。特に、芸術・教育・文化活動のように、収益性が無く、費用対効果がすぐ出ない活動にとっては、活動の節目に「応募してみよう」と思える制度があるのは、本当にありがたいです。

もうひとつは、申請書や報告書を書いたことです。「何のために活動しているのか」を書く欄があり、立ち止まって考え直す機会をいただきました。過去を振り返り、今後どのような活動をしたいかを言葉にすることで、成長できたなと思います。

助成金は、ギフトですよね。次回は「聞き書き」が20周年の時に申請したいなと思っています。

「聞き書き」の様子(写真提供:きび工房)

おわりに

自分たちが楽しむことを何よりも大切にしている森光さん。取材中も森光さんは、チャーミングな笑顔をたくさん見せてくださいました。誰よりも楽しんでいる森光さんの姿が、仲間を集め、活動を前へ進めているのだろうと感じます。

活動当初からほとんど変わらない思いがある一方で、変わっていくこともある。そのひとつが「主催事業はしない」という選択だったのだと思います。変化すること・しないこと。その両方を認識することが、地域活動を持続可能にする第一歩なのかもしれません。

手前:和田広子財団職員

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