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財団と人

#27
黒澤伸さん | 金沢21世紀美術館 副館長
木村健さん | 金沢21世紀美術館 エデュケーター
2019.10.25

子どもが美術館にいることは、当たり前の風景になった

2018年度の入館者数が258万人と過去最高となった金沢21世紀美術館が取り組んでいる金沢市内の全小学4年生を招待するプログラム「ミュージアム・クルーズ」について、金沢21世紀美術館副館長の黒澤伸さん、エデュケーターの木村健さんに、経緯や成果、課題について伺ってきました。(聞き手:松浦俊明理事長)

ドーナツ化する都市に
新しい文化の創造する場

松浦 金沢21世紀美術館は、2004年10月に開館していますが、その経緯を教えてください。

黒澤 ここはもともと、金沢大学の附属幼稚園、小中学校でしたが、1995年に移転しました。かつ、この道路挟んだ向かい側が石川県庁でしたが、その県庁も駅の反対側に2003年に移転してしまう。そうすると、この街の中心街から昼間人口で4000人が減る。いわゆるドーナツ化と言われる現象ですが、決して都市にとっていいことではない。それでどうにかしないといけないというのが、一つの大きな課題でした。
もう一つの大きなテーマは新しい文化創造でした。金沢は、江戸期からの工芸や能などの伝統的なものはよく残っています。半面なかなかイノベーティブな新しいことは起きにくい。つまり伝統というものが、トラディションとしての伝統も大事ですが、一方でコンサバティヴな感覚にも結びついてしまう。ただただ同じことの繰り返しになっていってしまうと、都市として新しい発展は起こりませんよね。それをどうにかしないといけないというのが、テーマとしての新しい文化創造でした。それで極端な、ある種古い街に極端なほどのコンテンポラリーな現代美術館が持ち込まれました。

松浦 なるほど。「ミュージアム・クルーズ」プロジェクトは、そのような中、どのような役割だったのでしょうか。

黒澤 子どもたちのくったくのない、素直な感性がコンテンポラリーアートと相性がいいと考えたことと、多くの市民の皆さんに新しい美術館に来てもらいかたったので、2004年の開館時に記念事業として開催しました。初年度は、小学校1年生から中学校3年生全員、小学校63校、中学校30校、半年間で40,000名くらいを受け入れました。

松浦 それは、大変ですね。受け入れにはご苦労されたのでは。

黒澤 学校まるごとの移動になるので日程調整から、バスを止める場所から、ほかの来館者にとっては大迷惑ですし、現実問題、ものすごく大変でした。特に全学年が同時に行くということに対して学校現場は難色を示されましたし、どうしたら実現できるか、全学校に説明しに行って、ヒアリングもしました。いろいろとご指摘をいただきましたが、やりたい気持ちはわかるが無理だと言う方もおられた。600人規模の学校が来たら何が起こるのか、シミュレーションも繰り返し、最終的には金沢市全庁を挙げて協力していただく中で、教育委員会とともに実現していくというスタンスがなければ、できなかったと思います。

松浦 美術館側は、どのような受け入れ体制だったのですか。

黒澤 組織としては学芸課と交流課があります。学芸課は収蔵作品の収蔵、コンテンツを作り出したり、メンテナンスをしていったり、展覧会を作るという、キュレイトリアルな仕事です。交流課は、美術館の新しいテーマの一つ「芸術交流」を担っています。ワークショップをしたり、シアターやホールの活用を通して人が集まったり、市民同士が交流する場を提供するプログラムを考え、運営します。ミュージアム・クルーズは組織横断的な体制で、アルバイトを含めたチーム編成で対応しています。

松浦 10年続けて、どのような変化を感じますか。

黒澤 子どもが美術館にいることは、当たり前の風景になったことは確かで、保育園、幼稚園も遠足で来てくれるようになりました。当時、子どもたちが美術館に来るという常識がなく、美術館の外の門外漢でした。しかし、「そうか、子どもでも行っていんだ」と思われるようになって、さらには障害のある人や若い世代の家族、外国人など多様性を担保することにも繋がってきています。子どもたちが風穴を開けてくれた訳です。

松浦 なるほど・・・

黒澤 全員が美術館に来なきゃいけない、美術館に行くような人間にならなきゃいけないとは思ってないですよ。思ってないけど、知らないまま育たなくてもいいんじゃないかと。どういう時に消防車を呼んだらいいか、どういう時に警察署に駆け込んだらいいか、どういう時に病院に行ったらいいか、みんなが知っています。せめて消防署の役割、警察署の役割、病院の役割と同じ程度には美術館の役割も知ってほしいなと思っています。

“旅の仲間”として子どもたちと
一緒にアートとの出会いを

松浦 木村さんには、「ミュージアム・クルーズ」について、もう少し詳しくお伺いしたいと思います。具体的には、どのようなプログラムですか。

木村 現在は小学4年生を学校ごとに全員招待しています。子どもたちは所蔵作品を中心とした作品鑑賞や、美術館という空間体験の中で、グループで見て感じたことをお互いに伝えあって過ごします。ミュージアム・クルーズは、子どもたちが美術館、現代アート、また地域の大人たちによる鑑賞ボランティア・メンバーの「クルーズ・クルー」との出会いを通して、彼らの世界を拡大していくプログラムです。

オラファー・エリアソン【color activity house】

松浦 クルーズ・クルーの役割は何ですか。

木村 みなさんには、“旅の仲間”として子どもたちと一緒にアートに出会いましょう、きっとわくわくしますよ、発見がありますよと、呼びかけています。アートの知識やボランティア経験は問いません。アート作品の解説のためではなく、子どもたちとともに作品に出会うことがご自身の生涯学習のプログラムでもあるとらえてもらえれば嬉しいです。

松浦 クルーズ・クルーは、何人ぐらいいますか。

木村 今年度は約65名です。このプログラムも毎年続けていると、中には私も小学生の時に参加しましたという大学生も出てきますし、金沢に引っ越して来たばかりですが、面白そうなので来ましたという方もいます。

松浦 小学4年生を対象にした理由は何ですか。

木村 先生方との相談の中では発達段階として、作品に出会って自分が思い付いたことを誰かと話したり、誰かが話すことを聞いたり、面白がってできるのは、ちょうど4年生ぐらいがよいのではというご意見をいただきました。さらに5年生や6年生になると知識は増えるし、自分の考えも話しながら他者の気持ちも想像できるようになるけれども、一方で何か間違えてしまうのが恥ずかしくて自由に話さなくなる面もある、とのことでした。

松浦 何の授業で来られるのですか。

木村 どのような時間として活用されるかは学校にお任せしています。図工の授業として行きますというのもあれば、公共施設でのマナーを身につける時間として位置づけることもあるようです。

金氏徹平【Endless,Nameless #1】

松浦 これからの課題を教えてください。

木村 特別支援学校なども含め、市内の学校は網羅しようとしてきました。そういう意味では小学4年生をほぼ全員呼べているとも思っていましたが、この2,3年間はまだ呼べていない子どもたちがいるのではないかということで、地域のフリースクールや不登校の子どもたちについても様子を調べたり、どのようにすれば美術館に来てもらえるかを探るなどしています。

Profile

黒澤 伸

黒澤伸 
SHIN Kurosawa

金沢21世紀美術館 副館長

1959年東京都生まれ。東京造形大学絵画科卒業後、東京芸術大学大学院美術研究科に進学。89年「水戸芸術館現代美術センター(茨城県水戸市)」の立ち上げに参画。99年より準備室時代から金沢21世紀美術館の学芸員として設計やコミッションワークの誘致、コレクションの形成などに関わる。

木村 健

木村健 
TAKESHI Kimura

金沢21世紀美術館 エデュケーター

1972年岡山県生まれ。岡山大学大学院修士課程修了(美術史)。2000年より金沢市現代美術館建設事務局に勤務、金沢21世紀美術館開館後は教育普及プログラム担当としてキッズスタジオを中心とした子供を対象とする活動、学校連携活動等に携わる。