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財団と人

#26 三井文博さん | 特定非営利活動法人アーキペラゴ 代表理事
2019.7.3

子どもたちの無限の可能性を信じ、
感性と創造力を引き出す手助けを

アートならではの方法で子どもたちの成長によりそうプログラムを実践し、注目されている芸術士®派遣事業。全国で初めて行政と一緒に取り組み、10年目を迎えた活動について特定非営利活動法人アーキペラゴの三井文博代表理事に、伺ってきました。(聞き手:松浦俊明理事長)

一人のアーティストの仕事ではなく、
参加関係者との協働のブランド

松浦 芸術士®という®(アールマーク)には、こだわりが感じられますが、どのような経緯で決まっていったのか聞かせてください。

三井 始まって数年すると、芸術士®️活動に興味を持っていただいた行政や施設から、うちでもやりたい!という相談が増えてきました。2009年から活動を始め、2013年に高松市から商標登録しましょう、とご提案いただき、アーキペラゴの団体名で申請しました。その後、島根県津和野町の教育長から、地域おこし協力隊の事業で、芸術士®️活動をしたいという相談があり、ワークショップや研修を行って、始まる際に活動名を芸術士®️とする旨で、公式に津和野町から高松市窓口に申し出ていただき、了解を得て、事業名を使ってもらうことになりました。

松浦 芸術士®は、事業名ということですか。

三井 10年間の試行錯誤と、参加してくれている芸術士®️、更には、派遣先の保育園や幼稚園の現場でのOJT( on-the-job training)で、ブラッシュアップしている活動です。芸術士®️は、一人のアーティストの仕事ではなく、参加してくれている全ての関係者との協働のブランドだと思っています。
また、高松市も創造都市推進の1丁目1番地の活動として、芸術士®️という呼び名で全国にPRしています。

松浦 芸術士®派遣事業の内容を教えてください。

三井 絵画・彫刻・パフォーマンス・デザイン・工芸など、様々な分野で表現活動するアーティストを芸術士®として週に1回程度、1年間を通して保育園や幼稚園に派遣します。
現在、芸術士®23人が高松市内の公私立43の保育所・こども園・幼稚園を分担し、それぞれ概ね1~4ヶ所の施設に出向き日々の保育の中で保育教育士・幼稚園教諭と連携しながら、子どもたちと造形活動や身体表現など様々な表現活動をしています。

松浦 今日は、実際に活動を見せていただきました。子どもたちは、何がはじまるのかワクワクしていました。

松浦 芸術士®活動の始まりを教えてください。

三井 2009年に国の雇用補助金があって、いち早くキャッチしたメンバーが、その雇用補助金を使って若いアーティストの新しい仕事を保育園や幼児園の現場に創りましょうという企画書を作成してきました。それが、芸術士®の仕事だったんです。
企画書をいきなり、当時の副市長に持って行ってしまったのですが、「企画書は幼稚園と書いているけど保育園ならできるわね。検討しましょう」と言ってくれました。そのまま1、2か月が過ぎた頃、行政とのキャッチボールが始まりました。企画書を持ち込んだのは3月か4月ぐらい。ゴーサインが出てやろうという話が出たのは9月。事業は11月から始まりました。当時の高松市は、今では当たり前になっているこども園化を進めていた時期だったのでタイミングがよかったですね。3年目で国の雇用補助金が終了した後、市は一般財源化してくれました。

受け入れてくれた保育園の
園長先生の懐の深さのおかげ

松浦 幼稚園での実施は難しいというのは、なんとなくわかります。

三井 保育園は幼稚園と比べて、自由に遊ぶ時間が割と各園のプログラムで組めるので、1時間半、アーティストと一緒に遊びましょうね、ということを受け入れてくださる素養があったんじゃないかと。最初に幼稚園に行っていたら、目的は何ですか、何をするんですか、どういう時間帯でするんですか、ということを詰められると、この企画は進まなかったと思います。

松浦 現在は、幼稚園にも派遣されていますよね。

三井 3年目ぐらいに、高松市立の幼稚園から、評判がいいからうちの園にも来てくださいという声上がりました。幼稚園に行ってみて、何よりもびっくりしたのが、みんなが同じタケノコの絵を描いていたこと。それを見たゆうこちゃんというイラストレーター、画家ですが、みんな何で同じ絵を描くんだろうと不思議でたまらなかったそうです。
じゃーそれをどうするか。彼女は、生のイカを4はい、買って持って行いきました。イカを目の前に並べられた子どもたちはびっくり仰天ですよ。何だろうという好奇心から始まって、つついて遊んで墨を出してと、遊びの時間になり、そこで最後に彼女は、子どもたちに自分のイカの絵を描かせました。すると、ありとあらゆるイカが、海の世界を埋めていきました。その過程をみていた園長先生は、すごく感動して、それからは彼女にお任せ。そんなことがエピソードとして私たちの経験値の中の宝物になっていくんです。

松浦 北イタリアのエミリア=ロマーナ州にあるレッジョという地域で始まった、主に未就学児を対象とした特色ある「レッジョ・エミリア幼児教育」をモデルにされていると伺いました。

三井 アートの力は信じていました。が、レッジョ・エミリアについては、当時は聞きかじった程度の知識で、誰もレッジョに行ったことがなければ、幼児教育の経験もありませんでした。同級生に幼稚園の園長がいて、彼にレッジョの活動を教えてもらい、やっぱりいいじゃないかと。彼からも是非に進めて欲しい!と、そんなところから始まりました。

松浦 手探りで始めた感じですか。

三井 この企画を受け入れてくれた保育園の園長先生の懐の深さのおかげです。
アーティストは8名集まりました。最初の3か月間は自分たちの持ち技は出さずに、子どもたちの遊び相手になって、彼らが何を求めているのか「こどもたちの言葉に耳を傾けよう」と、毎日通っていました。それをやったのが良かったなと、今思えば。

芸術士®の役割は
子どもたちと社会を繋ぐ架け橋

松浦 芸術士®の役割は何ですか。

三井 子どもたちと社会を繋ぐ架け橋です。子どもたちの無限の可能性を信じ、子どもたちの感性と創造力を最大限に引き出す手助けをします。それは、あれこれと指示することではなく、子どもたちを見守り、励まし、豊かな感性を育てていくことです。また、芸術士の目を通して見、気付いたことを保育士、保護者、さらに社会に伝えます。

松浦 レッジョ・エミリアのアプローチは、プロジェクト組んでやったり、ドキュメンテーションしたりとか、いろんな分野があると思いますが、取り入れたくてもまだ取り入れられてないことは、ありますか。

三井 幼稚園には、必ずアトリエリスタ(美術を担当する先生)が園に一人常駐しています。保育園の方は、週に何回かは来てくれている。1年間ずっとアトリエリスタいて、子どもたちと過ごします。そこの時間感覚が、全然違っています。私たちは、せいぜい週に1回ですから。
プログラムも2年単位ぐらいでクラスごとに全然違ったプログラム作ります。2年間ずっと追いかけて、子どもたちと一緒に研究しています。私たちは、今週はこれして来週はこれしようかという感じです。

松浦 年間の活動実績を教えてください。

三井 2018年度の高松市の委託費は約3800万円で、43園に行きました。1園に年間48回、幼稚園だと41回程度になります。それ以外に自前で呼んでもらっているところが18園。岡山市内の白鳩保育園にも派遣しています。

松浦 補助金事業だと成果、結果を求められますよね。

三井 高松市を創造都市に作っていこうという創造都市推進協議会では、KPI (Key Performance Indicator) の指標で各事業の評価をしています。今のところ芸術士®活動の指標は、派遣先の保育園の満足値が何パーセントなのかという、非常に抽象的な判断しかできてないですが、おかげさまで90数%の数字が続いています。要望してくる園も多く、70園ぐらいの園が要望していて43園ということで、評価をいただいています。

松浦 幼少期に関わった最初の子は15歳ぐらいになっていますよね。その後の関わりは何かありますか?

三井 小学校の時の接点を作っておきたかったので、前からやりたかった児童クラブを始めました。

松浦 幼稚園とか保育園で体験した子どもたちも来ていますか。

三井 そういう子もいますし、体験していない子もいます。

松浦 何か違いはありますか。

三井 造形とか芸術表現に対して、免疫があると思います。その知識とか体験があるから、どのようなことに対しても恐れなく飛び込んで行っています。経験がないまま行くと、飛び込みにくいというか、きっかけがもちづらいですね。

10年目のテーマは
大人社会をどう変えるか

松浦 10年経って思うことは何ですか。

三井 最初は個性豊かなアーティストばかりのメンバーでチームとして、編成というのが難しかったのですが、シンプルに子どもたちに向き合って、子どもたちのために何ができるのかと一人ひとりが考えると、自ずといい集団に変わってきました。最近は離職する人も少なく長くずっとしたい仕事だと言ってくれています。すてきな人材が集まってくれて、チームとしても成長しているなと思います。
あとは、高松琴平電鉄が100周年の時には、駅を美術館に見立てて、近くの保育園の子たちの作品や物語を飾ろうという企画をしました。今までどちらかと言えば閉鎖的な環境の保育所や幼稚園というのが社会や地域とつながったり、瀬戸内国際芸術が始まったことで、アートに対して半信半疑だった方も確信をもってアートはいいと言ってくれるようになったり。それはけっこう流れを変えてくれました。
10年目のテーマは〈大人社会をどう変えるか〉です。子どもは素直に楽しいことはすぐに自分の事として受け入れて反応してくれます。それに対して大人側の既成概念や価値観を少し変えていってもらうには、どうしたらいいのかなと、今後の最大のテーマです。

Profile

三井 文博

三井文博 
FUMIHIRO Mii

特定非営利活動法人アーキペラゴ 代表理事

1954年香川県生まれ。広告会社ADK勤務後、2009年よりNPO法人アーキペラゴ代表理事。同法人では、2009年から高松市こども園運営課と全国初の芸術士®派遣事業。海岸河川漂着ゴミ調査清掃活動。豊島ゼミの企画運営。2012年から香川県県産品振興のさぬきマルシェの運営。2018年から放課後児童クラブの運営等。

特定非営利活動法人アーキペラゴ 
http://www.archipelago.or.jp/