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#22 川崎好美さん | RESAS☆温羅カフェ地域データ分析研究会 代表

(2018年度文化活動助成対象者) 2018.07.14

失敗してもやってみたくなる……
こうした仕組みや仕掛けをつくって

5月に岡山市内の奉還町商店街で、地域創生をテーマに「地域のこと ジブンゴト 温羅カフェ」というイベントが開催されました。参加者は高校生、大学生、学校の先生、企業経営者、国家公務員、NPO代表などバラエティ豊かな顔ぶれ。この学習会は、自分の地域のことを自分で考えるツールとしてRESAS(地域経済情報分析システム:リーサス)に大きな可能性があると思えた川崎好美さんが、共感してくれる仲間を集めて始めた取り組みです。今回の活動のきっかけやこれまでの活動について川崎好美さんにお話を伺いました。(聞き手:財団/野村、和田)

フォーラムに刺激を受けて、
背中を押された

和田 公募助成に申請しようと思ったきっかけは何ですか?

川崎 今年1月の財団の「ここに生きる、ここで創る―地域からの教育再生―」フォーラムの交流会に玉野商業高校「玉結び」を提供するため、参加したことがきっかけです。登壇されていただっぴの柏原さん、ユースクリエイトの原田さん、山村エンタープライズの藤井さん、志あれば道あり、年齢とか職業とかではなく、本気で取り組んでいる人たち、「動いている」「動かしている」方たちはかっこいいなと思ったこと。そういう方と出会ったことだと思います。興味を持ち続けて、いつかやってみたいなとフツフツと思っていることの背中を押すきっかけになったかと思います。

野村 それは何ですか。

川崎 分野でいうと社会教育。学校でないところでも人は学んだり、考えたりできることに興味を持っていました。新しい分野に興味を持ったようでも、社会とつながりの深い教科「商業」に関わってきたからこそ、行きついた分野なのかもしれません。活動助成を教員でありながら、個人で申請していいですかと和田さんにお尋ねしたら、問題ないということ。また、丁寧に話を聞いてくださり、考えや想いを整理してくださり、本当に心強い思いがしました。

野村 教育研究助成と文化活動助成、どちらに申請しようか迷いましたか。

川崎 学校で生徒が対象であることとすれば、教育研究助成だと思いますが、学校だけでなく、社会とよりつながる方法を考えた時に、教育研究助成では難しいかなと躊躇しました。ましてや、来年度も同じ職場で勤務できる、異動になった場合、どこに勤務するか未知の状態だったということ。それでも、今やらないと、多分、熱量が下がってしまいそうだし、また今度とか、いつかとか、温めてからと言っていたら絶対できない。いつか、だれかがやった時に「私もやろうと思ってた」なんて言いたくないなと思ったからです。

和田 それが、RESAS☆温羅カフェ地域データ分析研究会ですね。

地域を担う若者に地域に愛着を持って仕事や活動している人に触れてもらいたい

川崎 職業観の育成、キャリア教育…地域を支える人材を育てるやり方に確信があって、働いている大人から学ぶこと。私は大学を出てすぐに教職について、学校から出たことがなく、世の中のことを本当に知らないと思っています。社会とつながりの深い専門学科の教員として世の中のことを教えなければならないけれど、あまり知らない。もっとよい方法はないかと考えついた先に「その場を創る」ということです。これからの地域を担う若者に、地域に愛着を持って仕事や活動している人に触れ合ってもらいたい。財団のフォーラムテーマ「ここに生きる。ここで創る」を具現化している方たちを知ること。そういう人の姿を「近い」距離で感じること。あとで、述べる勝山高校での取り組みにつながりますが……。もう1つは、根拠をもって考えること。社会教育や地域創生の勉強をしていたときに、内閣府地方創生推進室の参事官が倉敷市の繊維産業の講演を聞きました。その時に地域経済情報分析システム (RESAS:リーサス)の画面がポンと出てきて、「ああ、そういうことなんだ」となるほど、納得!雰囲気とか流れとか、感覚じゃなくて、根拠を持って考えることはとても大事だと思いました。がんばってます、やってます、やらなきゃという話ばかりじゃなくて、きちんと科学的に考えましょうと。データの見方を深めれば、データは味方になると確信しました。

野村 根拠づけ、理屈づけをするためにRESASの助けを借りるという考え方ですか。

川崎 例えば玉野ってどんな町と言った時に、何となく町を歩いていたら外国人が多いとみんな言うけれど、じゃあどこから来て、どこに向かうのか。どこの国から来ているかとなった時にRESASで調べてみることができる。高校生おむすびプロジェクトでは、どれだけ地域のことを理解して取り組んだのか。「活動あって学びなし」に、なっていなかったかな。おむすびで使っていた雑穀の生産高や年間推移や他地域との比較なども含めて、RESASで見ることができる。もっと早く気が付けばよかったなと思いました。惜しいことをしたなと。地域のことを根拠を持って知るツールとして、RESASがすべてを解決するわけではありませんが、なかなか面白いです。
岡山は果物王国と言われています。岡山県の果物生産高は、他県と比べてどうなのか。ダントツ1位・・ではない。むしろ生産高が多いわけではなく、愛媛や和歌山、山形県の半分だったり。岡山は何を持って、果物王国なのか…?マスカットや白桃……その出荷額やブランド力なのか……。昨年のPOSデータ分析による特化係数では、岡山県民はアイスクリームをよく購入する、購入点数も購入人口も多いなどもわかる。それはなぜか。果物王国や乳製品の生産高と関係している?アイスクリームを食べる文化があるのかな。など、アクセスして考えていくと寝れなくなってきます。
地域探究学習・・・・「問いを立てる学び」には、大変、使える面白いツールだと思っています。RESASは、市町村単位での表示ですが、一般社団法人データクレイドルのオープンデータでは、高梁川流域圏の7市3町の範囲をより深堀りしています。例えば「高梁川流域未来マップ」によると、倉敷商業高校西のセブンイレブンに焦点を当てて、半径500メートル以内の居住者の現在の人口と2040年までの人口の変動を見ることができます。RESASは、「卸売市場」みたいなもの。淡々とものすごい数のネタが並んでいる。そこに、本日のおすすめとかメニュー提案などはない。探したいものがはっきりしている人には、利用価値が高いけれど、「なにかいいものないかな」という人には、疲れるだけ。目的をしっかり持って使わないと、使われてしまうだけで、気持ちのシャッターがおりてしまいます。

様々な価値観や経験知の中で、
RESASを媒介に考える場ができたら

和田 「温羅カフェ」と名付けた理由は何ですか?

川崎 「地域のこと ジブンゴト」と案内にも書いているように、地域のことは自分のこと、自分のことは世の中のこと、世の中のことはみんなのことだと思っています。でも一人で考えるのは大変だし、いろんな視点があった方がいいと思うので、人が集まるカフェのようなイメージを描き、温羅カフェにしました。岡山人なら誰もが知っている桃太郎伝説です。色んな解釈がありますが、岡山に貢献した温羅、その温羅を受け入れた岡山人の心意気にあやかって名付けたものです。

和田 可愛い温羅ですね。

川崎 童画家の中山忍さんに描いてもらいました。こういう、難しいことをやさしくつなぐイラストというのは商業的な発想なのかもしれません。

野村 申請書の段階だと正直、これから何をしようとしているのか読めないところもありましたが。

川崎 自分でもよくわかっていません。私は、以前から企画書や申請書を書いたりすることが、好きで・・・企画とか構成することを楽しめる脳。こんなことをしたら面白いのではないかと大風呂敷を広げてしまう。それでそのまま、申請してしまうので、やらなきゃしょうがない。よく言えば、有言実行。悪く言えば、見切り発車。ものごとの大筋をつかんだら、まずはやってみる体質なのかもしれません。自分でも何をしようとしているのか、どこに向かうのかクリアにはなっていないことばかり、勢いです。温羅カフェは、初めは、社会人中心にRESASデータをあれこれ見ながら、地域のことを自分なりに解釈する学習会をオープンに……というイメージでした。高校生は、「よかったらどうぞ」くらいで。助成決定通知をいただいた時に、財団からのコメントに「高校生に還元できることに期待」と。「あぁ。やっぱり高校生ですか・・・」と。そこから逃れられない……いい意味で前向きにカンネンしました。
もともとは、副代表をしている小野朋子さんと盛り上がっていたということもあります。彼女は、農学博士・技術士として活躍するリケジョママ。20年来の友人でもあって、勤務先でも化学系研究職の課長として勤務し、また、ニュービジネス協議会の女性部会などでも異業種交流を通して、広く地域とつながっています。私よりずいぶん世の中のことを知っていて、地域の人材育成を本気で考えて活躍している方です。異業種の人たちが集まって、様々な価値観や経験知の中で、RESASを媒介として、地域のことを考える場ができたらという発想でした。

川崎 温羅カフェを立ち上げるために、他県でのRESAS活用コンテストを見に行ったり、地方創生のフォーラムとか、地方創生アイディアコンテストで優勝した香川大学の発表を聞きに行ったり、当時、勤務していた玉野で商工観光課の方ともRESAS活用を考えたりしていました。いろいろ情報収集していたら、灯台下暗し。倉敷市阿知にある一般社団法人データクレイドルの大島理事が、RESASフォーラムで登壇していたことがわかったので、訪ねてみました。地域のデータ分析、データの読み方、考え方、データ編集などデータサイエンティストを育てるのは自分たちの考えでもあるから、ぜひ協力しますと。まだ何も始まっていない活動に理解を示してくださいました。本当に懐の広い方です。
そんなこんなしていたら、倉敷商業高校に転勤したので、お互いびっくりしました。

野村 データクレイドルは倉敷商業高校から近いですか。

川崎 自転車で10分。学校帰りに生徒と一緒に行ったりして、勉強しています。

和田 それは授業ですか?

川崎 商業研究部です。商業研究発表のために、データ分析を勉強しに行ったり。他には、将来、まちづくりに関わりたい。そういう進路決定段階の3年生と一緒に勉強に行ったりしています。倉敷の町をちゃんと知ろうというところからスタート。
また、科目「マーケティング」で活用する地域教材として「MIKATA倉識~データの見方を深める。データは味方になる。」の作成に協力してくださっており、その打ち合わせにもたびたびお伺いしています。

主語を広げて
物事を考えることが大切だと

和田 知らないと課題も見えてこない。

川崎 そういうところですね。これからは、認定されて間もない日本遺産ストーリー「一輪の綿花から始まる倉敷物語」や、北前船の話など地域の歴史や文化を理解した商業研究を行い、観光ビジネスも意識した商業科らしい発信や取り組みができたらいいなと思っています。
とにかく、主語を広げて物事を考えることが大切だと。「私は」だけでなく、「岡山は」「倉敷は」「自分の学校は」「自分の会社は」「地域は」……。商業は、ビジネス教育であり、人が人に「伝える」ことから始まる。1人称ばかりではなく、違う立場になったらどう考えるのかという……積み重ねも大切だと思っています。

和田 そもそも、なぜ教員になろうと思ったんですか?

川崎 高校時代は、津山商業高校で流通の仕組みやお金の整理整頓の会計の授業、情報処理のアルゴリズムなどロジカルな考え方……商業の勉強は世の中のことだなと。そういう学問に興味を持ち、商業の先生になろうと思いました。実社会とつながる商業の勉強が魅力的だったというところだと思います。大学では商店街、地域経済を研究しました。
平成12年からこの仕事に就いて、最初は母校の津山商業高校で講師として勤めました。3年目の時に、地域活性化をテーマに活動している商業クラブを任されました、ただ、予算も生徒も、備品もない。ヒトモノカネ集めからスタート。取り組んだのが、津山の商店街を情報発信するフリーペーパー月刊商店街通信「コンパス」の作成でした。高校生がお店の人と直接交渉して、クーポン券やサービス券、プレゼント券などを付けました。毎月発行というのを1年間やりました。ただ一回限りのイベントではなくて、継続することと取引が発生することが大事だと思っているので、そこに利益や循環が生まれることを目指して、生徒と一緒にやっていました。あと、商店街同士の大人の事情など様々なこともあるかと思いますが、高校生の感性で、情報を収集・編集していく。しがらみのない、高校生だからできることをつくづく実感。生徒と年齢も近く、お互いぶつかり合ったり、何度も失敗して泣けてきたり……。たった1年間の取組でしたが、この中に、駆け出しの教員としての実学があって、私自身の地域をテーマにした取り組みのスタート実践になりました。

野村 商業クラブだから取り組めたことですか。

川崎 学校は、教育目標や教科の目標があって、授業でするべきことも決まっているので、やりたいと思うことが、いつでもどこでも、できるわけではないです。そういう中で、商業クラブは、割と生徒と一緒に考えながらできる場面だったかなと。サントリーの創業者の言葉を思い出しますが、「やってみなはれ」と任せてもらえた時間、場所があって、失敗もたくさんあったし、うまくいかなかったり恥をかいたりしたこともいっぱいあったけれど、失敗したら成功するまで試したり。そういう経験こそ力になるのかなと思います。ただ、若いころはそれでよかったと思います。今は、興味がある生徒が集まった部活だけでなく、教科の中でより多くの生徒に還元できること、一緒にやっていく同僚に理解してもらうことが大切だと思っています。

商業は学びと実践を往還する実学、
地域と親和性が高いと

和田 津山商業高校の次はどちらに。

川崎 平成15年からは5年間、勝山高校に勤務しました。勝山高校は商業が各学年1クラスで、普通科が4クラス。

野村 勝山はどのような町でしたか。

川崎 店先や玄関先にのれんをかけたり、3月にはひな人形を飾ったり、町の雰囲気や生活を楽しむ、そういう穏やかな町でした。のれんはうちのものと外のものをしなやかに、緩やかにつなぐ、境目みたいなものがあって、学校と社会がのれんみたいな感じだったらすごくいいなと思っていました。商業は、学びと実践を往還する実学であって、地域と親和性が高いと思います。地域の中で学ぶ、販売実習や店舗運営にしても、それが本当にのれんのように繋いでいければいいな、勝山で学んだことの一つです。

和田 勝山高校では、どのような取り組みをされましたか。

川崎 勝山高校は商店街も徒歩5分というところにあって、商売をされている方がたくさんいらっしゃって、授業の中で、創業のきっかけであるとか、仕事の喜びとか苦労とか店主の思いの聞き書きに協力してくださいました、平成16年には、「えんでぇ。勝山のれんの町」というホームページを作って、岡山県スクールインターネット博(コンテスト)に応募。翌年は、「仕事じゃけん・・・」というホームページ作りで応募。この取り組みは、財団の教育研究助成を個人で受けて活動しました。研究主題は、「高等学校商業科における職業観・勤労観育成を目指した実践~のれんの町 勝山の店主に学ぶ」でした。ちなみに新採用教諭として採用された年です。今、考えたら勇気あることをしたと。3学年の67人の生徒がそれぞれの科目の中で取り組んだ協働実践でした。職業観や勤労観は、本当に働いている人の懐に飛び込んで、話を聞いて、そういうものの中で身に付けていくものだと心から思っています。
高校生だからできるまっすぐな質問。そして、大人の人に「仕事で大事なことは、……約束を違えないこと!」などと言われて、素直に聞ける。親や教員が言ってもストンと入ってこないものが、ななめの関係の大人に言われると納得。そういう学習機会は、教員も、生徒も、そして、話し手も「お茶を濁せない」。次代を担う若者に向けた温かくも、本気の時間が、人を育てていき、地域への思いや絆を深めていくのではないかと思いました。また、勝山高校は普通科・商業科の併設校です。商業科として何ができるのかをとことん考えた時間でもあったと思います。商業科の取組を普通科の先生方が理解してくださり、学校として大切に思ってくれたことは生徒も私も自信になりました。

野村 「仕事じゃけん・・・」のような聞き書きなど、また考えていますか。

川崎 こういうことをまたしたいなと思っています。
RESASのような客観データをもとに、根拠を持って考えることと人の懐に飛び込み、生き方や感性に触れることがバランスよくできればと思います。
大人が大人の話を聞くという機会はあるけど、子どもたちが地域の大人の話……職業観や人生観に触れる話を近い距離で聞く機会はあまりないですよね。大人になったらすごいねと言われることもないし、ほめられることもないですが、高校生はピュアなので、大人に向かって「すごい」とか「カッコイイ」とか言うわけです。そういうストレートな言葉や思いもよらない言葉が、人を動かし、地域のよい循環になる……魂のようなものが聞き書きの中にあるのではないかと思っています。
当時の生徒が、地域をプロデュースするような仕事に就きたいと、勝山文化往来館「ひしお」に勤めているのですが、今年の財団フォーラムでばったりあって。「勝山のことをよく知ったから勝山で働きたくなった。あの授業のおかげ」と言ってくれました。地域で活躍する教え子をみると、やっててよかったな、「真実は足下にあり」かなと思えます。

おむすびを通して、
自分たちの町の誇りや良さを理解

野村 そして、次は玉野商業高校。何年勤務されましたか。

川崎 平成20年から10年間です。最初は地元の紫芋を使った商品開発や、瀬戸内国際芸術祭の開幕を控え、市職員や飲食店の方とSea級グルメを考える企画委員や特産品認定の審査員のようなことをしていました。自分なりに玉野への見方を積み重ねていった時期です。その後、育児休暇でいったん、現場から離れたことは、生活者としての感覚を持てた時間でした。平成27年には「課題研究」で、玉野のふるさと納税の返礼品を課題としました。ふるさと納税をされた県外の方にアンケートをお願いし、市役所秘書広報課と協力しながら、返礼品の在り方を考えました。どんな方がふるさと納税をされるのかを見極め、「玉野に愛着がある人」という結論に行きつき、「たまには、玉野へ」というコンセプトで、瀬戸内温泉たまの湯の生涯無料券を高校生が提案。言ってはみたものの、生涯無料というのはどれくらいの試算になるのか支配人さんと価格比較の計算してみたり、そういう中に、商業の実学がありました。

川崎 次の年は、生徒たちとテーマを考えている時に、玉野市役所農林水産課の方から「玉野はおむすびの材料が全部そろうんですよ」というヒントをいただきました。これだ!ということで、「高校生おむすび」に至ったわけです。最初は、道の駅で販売。市長さんも開店早々来てくださいました。お米もかたくて、美味しくなくって。まず、お米の炊き方から地域の方に教えてもらったり、家庭科の先生に指導していただいたりしながら開発していきました。また、調理をするには、条件を整えなければならず、担当教員として食品衛生責任者の資格取得や学校の調理室に営業許可を取得するなどの準備もしました。日本の原風景であるおむすびを作ることによって、自分たちの町っておむすびの材料が全てそろうのだと気づいて、誇りに思ってもらえればということも大切にしました。
2年目になると、観光客をターゲットにして、四国へ向かう玄関口としての観光を意識しながら、「瀬戸内おむすび」を開発しました。玉野の雑穀米、小豆島のお塩、豊島、直島のノリとか瀬戸内海の食材を使ってお結びを組み合わせるのも面白いのではと。最初の年はオール玉野だったけど、その時々の組み合わせで、その時しかない一期一会のおむすびです。商業って、そうやって、掛け合わせて付加価値を作ることが得意なのかもしれません。今後は逆に、「瀬戸内おむすび」に使っている自慢のノリですよとか、豊島の塩ですよと単品で売るかなとも。まさに、マーケティングです。
季節ごとに開催される「海が見える港のマルシェUNOICHI」では、30分待ちの行列もでき、1日600個販売しました。高校生だけでなく、中学生のボランティアや卒業生も協力してくださり、なかなか達成感がありました。他は週末に、宇野港にテントはって販売。雨が降って、まったく売れなかった日もありました。また、地域の方へのPRや感謝企画「玉結びdeご縁マルシェ」などを開催して、コンセプトを大切にしながらのイベントをしていました。
おむすびを通して、自分たちの町の誇りであるとか良さを理解して販売し、共通の話題になったり、地域のことに関心を持ってもらう……今も、玉野商工高校(今年度より校名変更)と地域をつないでいるツールとして健在です。最初のおいしくないおむすびから始まり、地域の方に育ててもらったおむすびだと思います。感謝です。

和田 おむすびを媒介してのコミュニケーションですね。
地域の人材を育てることで何が大切ですか。

川崎 地域学であるとか、地域と連携した取組とか、地域の人材育成……盛んに言われています。そうした取組は、すぐには結実しないのでは。5年後、10年後に地域で責任感を持って活躍している若者が育って循環が生まれると思っています。そのためには、社会に出るまでに「知る」こと×「見る」こと×「聞く」ことをうまくかけ合わせていければと思っています。「知る」ことは、地域の今とこれからを深く正確に理解すること。教科の中で、地域的なことを扱ったり、そういう積み重ねだと。「見る」ことは、地域の産業現場を実際に見る。倉敷商業高校でもスタディ・ツアーを行い、倉敷市の繊維産業の歴史から始まり、現場などを訪れました。それから、今の学校の仕組みではどうにも限界があると思いますが、温羅カフェのような距離感で話を「聞く」ことです。
実践ベースでやってみて、……生徒になんでもいいからやってみたら……とは言えない。テーマをきちんと考えて、聞き書きにしても、作品作りにしても一緒にやって見て、先生出すぎと言われても、アイディアを出したり、まとめたりしながら、いつからか生徒の方が発想が豊かになってどんどん越えていく。この瞬間が面白いと思います。やらなくちゃではなく、やりたくなる仕掛けをどう作っていくか。例えていうなら、スーパーマリオのゲーム。1面では、マリオを右に向かせて一番端からスタートする。これは、そのまま右に行きたくなる仕掛け。向こうに行くものを追いかけ、土管と向き合って さぁ。どうする。飛ぶの?ぶつかるの?意思決定。そうした学習スキームをしっかりと作っていくこと。どんどんやってみたくなる。色んなことを知りたくなる。考えて、失敗してもやってみたくなる……こうした仕組みや仕掛けを作っていければと思っています。でも、一人ではできないので、理解してくださる方や一緒に取り組んでくださる方、気づいてないことを教えてくださる方、見守ってくださる方に本当に感謝しています。

「やってみなはれ」の場を
自分が自分に創っていけばよいと

野村 最後に、助成申請について……これから考えている先生にアドバイスを。

川崎 色んなタイプの人がいて、いいと思いますが、私は評論家ではなく、実践家でありたいと思っています。「知りて行わざるは未だ知らざるなり」が座右の銘。
教育研究というと、校内の研究主任や教科主任や、校外の専門分野の委員の役割。という考えもあるのかもしれませんが、自分の中でこれをやってみたら、いいかもしれない(有効かもしれない)という仮説があったら試してみる……。ここに教育研究助成を申請する意味があるのだと思います。やってみようとして……そんな立場じゃない!と反対する校長先生に出会ったことがないのでよくわかりませんが、個人がやりたいと思うことは個人名で堂々と申請したらいいと思っています。そして、何より完璧に計画通りできなくても、本気でやろうとしたことの失敗を認めてくれる財団だということもわかりました。ただ、成果報告として常に自分の取組がつまびらかにされる。この覚悟と責任を持っていれば、自分が自分に「やってみなはれ」の場を創っていけばよいと思っています。
あとは、地域や学校に甘えない。地域の方に、学校なのでなんでもお願いとか、校内の予算がないから、したくてもできないと嘆くのではなく、研究助成金はそういう場面できちんと使って、自立し、持続可能なものにしていくということも大切だと思っています。研究助成金は、ガソリンではなく……チョロQの後ろに引っ張って前に進むチカラかな。

Profile

川崎 好美

川崎好美 YOSHIMI Kawasaki/岡山県立倉敷商業高等学校教諭(教科:商業)

1977年岡山県津山市生まれ。平成12年~津山商業高校。平成15年~勝山高校 岡山県スクールインターネット博最優秀賞(2004)・教育長賞(2005)受賞。平成20年~玉野商業高校(現:玉野商工高校)高校生おむすび「玉結び」の企画・販売を手掛けた。今年度より倉敷商業高校勤務。

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