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財団と人

#16 片山康之さん | 緑丘小地域学校協働本部実行委員会委員長/美術家

対談日:2017.2.13

空き教室にアートギャラリーを企画・運営
地域の人たちのなかに生まれつつある変化

近年学校を取り巻く環境が大きく変化しています。特に、児童数の減少は子どもの成長だけでなく地域住民の生活、コミュニティづくりへの影響も懸念されています。そのような課題を解決したいと倉敷市立緑丘小学校内の空き教室に「ギャラリーミドリ」がお目見えした。美術家として活躍する一方で、企画・運営に携わっている緑丘小地域学校協働本部実行委員会 委員長 片山康之さんにお話しを伺いました。卒業生として、芸術家として何かできることは…。(聞き手:財団 平山竜美)

平山 最近の子どもを取り巻く環境変化してますが、何に危惧を持たれていますか。

片山 まず、子どもの数が少ないということです。例えばクラスが各学年1クラスしかない場合、交流の多様性が弱まっていきます。できるだけ多くの人と触れあってほしいと願う中で、私たちに何ができるかを考えています。

僕の専門分野を生かした
取り組みをやりたかった

平山 アートを主体にしていているところが面白く、興味をひかれました。

片山 何をやるかを考えるときは、あえて専門性を持たせること、プロフェッショナルかどうか、ということを意識しています。地域の人たちの話を聞いて、お手伝いするというのが従来の形だと思うのですが、こういう地方の小さな町では僕の専門分野を活かしてやるべきだと思いました。そういうのが足りない気がして。突出した専門分野は、広くいろんなものを進めることもできるので、そういうのを活かしたいという思いもありました。
普通だったらコミュニティールームとかボランティアルームになると思うんです。決めずに誰でも何でもできますよというところに平等性があったりします。けれども、そこにあえて専門性を持たせることで、今までになかった取り組みができます。地域と学校の連携をするための事業なので、何となくやっていてもだめだと考えました。やはり話題性も必要だから、ある種の注目を集めるようなきっかけも作らないといけなと思いました。

平山 吹上美術館を再生された活動がヒントになっていますか。

片山 そういうのはありますね。人と人がつながる場所を作ろうというのは、吹上美術館をやっている法人の一番の目的です。それまで4年間ぐらいは、人と人がつながるイベントをしていましたが、単発のものを続けるよりも、場所を作った方が良いということになって美術館の再生に乗り出しました。
企画で場所を借りて展覧会するよりは、美術館という場所を持って何かした方が効果があるというのは実感できたので、小学校と地域をつなげるときに、小学校の中にスペースを作ることは、効果的な方法だと思っています。

平山 小学校にギャラリーを作ろうという試みは、教員出身としては目から鱗でした。他に事例はありますか?

片山 あることはありますが、短期なイベントで終わっています。
ギャラリーミドリの一番強みは、地域で運営するところです。地域の人はいなくならないので。僕も緑丘小の卒業生で、30数年この学区に住んでいます。さらに地域の町内会とか婦人会の方にかかわってもらっているというのが強みです。外部から来るアーティストに頼っていないところも強みです。

文化・芸術はその土地で
発信されるからこそ価値が

平山 なぜギャラリーだったのでしょうか。

片山 ここにたどり着くまでには、3年ぐらいかかっています。それまでは小学校でワークショップをやっていました。倉敷市教育委員会の事業の一環として、放課後子ども教室のようなことをしていました。
最初は、ギャラリーでなくて工房を考えていました。たとえば陶芸教室をするにも、いちいち教室を押さえて許可を申請しないといけないわけです。もっと気楽に、今週やろうかなみたいな、そういう感じでやりたいと思ってました。それで、教室を僕らに1個くださいとお願いしていて、それをお願いし始めたのが2年前ぐらいです。
その教室をどうするかと考えたときに、ワークショップルームだったら普通なので、そこをあえてギャラリーにしました。ギャラリーなんて普段の生活の中で児童は行かないじゃないですか。それが身近な場所にあって、子どもたちにとって、アートというのは素晴らしいもの、ただ見せられる場所ではないんだなという意識を植え付けられれば、アートに対する壁もなくなると思いました。
面白いのはこういう文化施設が学校の中にある、地域の中にあるということです。文化とか芸術とかは、その土地で発信されるからこそ価値があると思うんです。この緑丘小学校区という単位で何か新しい芸術活動が生まれてきてくれたら一番いいです。そのために必要な場所としてギャラリーがあればいいかなと思っています。
スペースを作ったり、状況を変えたりすることも大事ですが、一番大事なのは地域に住む人たちの意識を変えることが一番のねらいなので、いくらいい場所を作っても、地域の人たちの意識が変わらなければ何も変わらない。緑丘小学校にアートギャラリーがあることで、アートギャラリーって何?と考えるだけでも違いますし、ここが入り口になってもっと広く様々な芸術とか文化活動に興味を持ってもらえたらなと思っています。それに反応できるような企画をここでやっていきたいです。

平山 地域の方の反応はどうですか?

片山 反応は面白いですよ。期待してくれていると思います。この間も婦人会の人にワークショップをしていただきました。楽しんでくれていましたが、「あそこ何?」みたいな警戒心がまだ強いと思ます。職員の方もあの場所は何だろうかと、まだ根付いていません。ただそこで無理やりにここはこういう場所だと決めつける事はやめようと思っています。時間をかけてこの場所というのは地域の人たちにとってどういうものなのかを、時間をかけて作り上げるべきだし、それができるのが地域の特徴だと思っています。

平山 ワークショップは婦人会の方が多いですか?

片山 今年度はギャラリーを作ることが目的で、それ自体がワークショップでした。学生たちがペンキを塗ったりする姿を子どもたちに見せたり、片付けしたり、子どもたちに手伝ってもらったりすること自体がワークショップでした。何日の何時にやりますみたいなワークショップとは違う、日常的にある体験みたいなのがやってみたいんです。
ここにミシンを置いて、特別なものを作らなくていいから、おばちゃんがミシンを踏んでいるのを見て、私もやってみたいぐらいの規模で、自然に交われるようなワークショップをやってみたいんです。
来年度はそれもやりつつ、プロのワークショップ、たとえばダンスの平井優子さんや吹上美術館に来たアーティストの展示を考えています。引き続き、僕もお絵かき教室や陶芸教室のような従来型のワークショップやりますが、新しい形のワークショップのスタイルをここではやれそうな気がします。まとめて30人とかじゃなくて、1日2人を10日間とか。ずっとある場所なので、あせっていっぱい集める必要がないんです。

平山 週何回あけるつもりですか?

片山 現在は、児童が自由に動き回れるのは昼休みというのがわかったので、昼休みの30~40分をメインに毎日やってます。ただ29年度からは週3回にします。

作品を作ること以外にも
アーティストとしてやるべきことを―

平山 地域を巻き込むことによる課題は何ですか?

片山 パワーバランス。声が大きい人が一番力を持つものが地域の特性の一つです。みんなで話し合うときには仕方がないのですが、僕がリーダーなのでしばらくは、僕がコントロールしようと思ってます。作家活動として作品を作る以外のこともアーティストとしてしないといけないというのが僕の持論で、その部分で僕はやっていいます。この活動が僕のいわば作家人生に影響してくる部分なので、本気で取り組んでいます。とりあえず楽しそうだからやってみようかなというのも、もちろん必要ですが、ある程度の危機感を持ちながら、物事を慎重に積み重ねながら面白い部分を残していって作り上げていっています。

平山 大学生とのかかわりはどうですか? 

片山 倉敷市立短期大学の非常勤講師を務めていることもあって、つながりが濃くなっています。吹上美術館でも倉敷市立短期大学の先生にかかわってもらっているので信頼関係ができていると思います。週3回開けるうちの1日は倉敷市立短期大学に任せたいと思っています。毎週水曜日は倉敷市立短期大学の日みたいに服飾美術科には作品展示をしてもらってもいいし、保育科には子育ての何かをやってもいいし、心理学の先生を呼んでトークしてもらってもいいし、論文や研究に使ってもらってもいいし、幅広い活用ができる思います。

平山 エリアに大学があるというのは地域の一つの資源。地域とうまくかかわりながらウィンウィンの関係になっていくために、ギャラリーが接着剤になると非常に面白いですね。

片山 ミシンを踏んでいるおばちゃんとバッグを作りたいという学生さんが出会って、今、バックを作っています。「縫いたい形を言ってくれたら縫うよ」というおばちゃんにデザインを伝える学生。おばちゃんにダメ出しされてましたけれどもね。「こんなん、どこにでもあるがー」とか、一生懸命考えてきたのに、「あんたもっと考えて」と突き返されたり。それはそれで、おばちゃんと学生の交流が生まれています。
できあがったバッグは、いつか展示してもらおうと思っています。規模は大きくないですが、それはそれで意味があることなので。

平山 地域と大学がつながって、どんどん浸透して広がっていけば、ここの地域の文化にもなりますね。

片山 稗田町がものすごい文化都市になる。絶対いいと思います。

平山 子どもたちへの影響はどうでしょうか。興味とか関心がそそられる未体験ゾーンがあるわけですよね、学校の中に。

片山 ギャラリーの隣が2年1組で、ここに対する理解が一番ある組です。打ち合わせから、教室の壁にコンパネを貼っているところ、ペンキ塗っているところなどプロセスをずっと見てきた子たちなので、ここが開くのをものすごく楽しみにしてくれていました。彼らは3年生になると別の校舎に行きますが、1年生が2年生になるとギャラリーの隣の教室になります。ここは一種の文化的通過圏になると思います。

平山 片山さんの特長としては、一番最初にやりたいことがあって、今まで全然関係ないところでも片山さんの力で、ひっつけて新しいものが生まれていく。そんなイメージですよね。

片山 自分はどうしたいか、なぜそれをすべきかというのを考えるようにしています。これはすべきだなと思ったら不可能なポイントをつぶしていきます。いろんな人を説得することは難しいですがすごく大事なことだと実感しています。

芸術って何だろうと考える子どもが
100人に1人くらいは

平山 行政のハードルは高いですか?

片山 なぜギャラリーが必要か、どういう意味があるかというところを説明するときに、専門の領域から説得する自信はあったので、そういう意味ではやりやすかったです。

平山 それだけ思いがやはり強かった。

片山 絶対にやる必要はないんですけどね。
小さい頃から、美術とかアートの勉強をしたかったのですが、小学校には美術の先生がいないので学ぶきっかけもなく、小学校3年生の頃には、美術とか芸術って何なんだろうかなとひとりで考えている時期がありました。
今でもそういうことを考えている子どもは100人に一人はいるはずなんです。その子どもに投資するのは不公平に思えるかもしれませんが、将来的にその子どもが地域の文化を支えることになる。またその子どもの疑問に答えてあげたいし、文化や芸術に興味のない99人の子たちにも新しいアイディアとしていろいろ提供してあげたいと思っています。
自分の子どもも通うので、何かしてあげたいなというのはあります。昔の自分に対しても、こういうのがあったらよかったなというのがあります。ただ見るだけでも全然違うので。

才能のあるプロの洗礼をなるべく早く

平山 絵が大好きだとか、作ることが好きな子どもはたくさんいます。

片山 才能のある子にプロの洗礼を浴びせたいです。洗礼というのは早い方がよくて、小学校低学年、3年、4年生がいいかなと思っています。「なるほどプロの作家はこういうことをしてるんだ」ということを知ってもらうことで、未来が少し見えてくるのかと思っています。教員ではないので、アプローチは自由にできますし。

平山 小さいときの体験で、プロの人に教えてもらったとか、本物を見たり触れたりして人生を変えられたというのは、ありますね。

片山 僕もいろんなところで教えていますが、学校側の教えている内容は、教材の使いやすさとか、教科書とか、教える内容とか、いかに効率よく教えるかなど、教えている側の立場によって組み立てられたことがけっこうあって、学ぶ側の立場に立ってないと感じます。
ものすごく多様な子たちの集合体というのに応えるのは、もちろん学校は学校で必要ですが、落ちこぼれてる子どもや浮きこぼれてしまうような子たちに応えてあげれるのは地域だと思っています。例えばアニメーションが好きで、アニメの絵が得意な子どもに対して今の小学校教育が十分に応えられるかと言うと難しいですよね。そういう子どもに応えることができる場が学校の中にあれば、ベストです。

平山 ギャラリーをベースにして地域とかかわり、大学とかかわり、小学生とかかわり、行政とかかわりながら新しいものを、自分の求めているものを作り上げてくのはやりがいがありますね。

片山 関わってくださる人たちによるところも大きいです。小学校もおおらかで寛大な校長先生と教頭先生でお話しやすいですし、倉敷市の教育委員会の担当の方も元気で活動的な方がおられて、一番いいタイミングです。今年度やってなかったら来年度難しかったかもしれないです。

平山 長期スパンでの計画はありますか。

片山 もう2教室ほしいです。陶芸用の部屋を1部屋。向う3年ぐらいの計画では、薪ストーブ入れる1部屋。地域のおじさんたちが一生懸命薪を割って、薪割り所みたいなのができて、そういうのがいいなと思ってます。目的はエネルギーについて考えること。外国から石油を買うのもいいけれど、地域にもちゃんとエネルギー資源があるという認識を持ってもらいたいです。
もう一つは陶芸教室。まずは指導者を育てるという目的。専門は美術や彫刻ですが、高校で10数年陶芸を教えています。僕だけではなく、もっと大人がたくさんいれば、それだけ子どもたちを教える人が増えるので。

平山 確かに、長いスパンの中で一人では限度がありますよね。規模が大きくなれば、なおさら指導者を育てるというのは大事なこと。

片山 やりたい人はいると思うんです。この間も陶芸教室もやりたいみたいな記事が出たら、問い合わせがありました。でもこちらの主旨を理解してもらう必要があります。

平山 公民館の同好会サークルではだめですか。

片山 ここの場合は自分が身に付けた技術を次につなげていくのが目的。教えることで自分も学べるということもあるし。

平山 子どもが卒業して、高校生になったらまたここに帰って来る、大学生になって戻ってくる、面白いですよね。

片山 ここで卓球してもいいし。

平山 アート的なイメージが強すぎるのかもしれないが、スポーツもありですか。

片山 考え方は。一番最初になぜここを作ろうと思ったか、どうしようと思ったかという思いがつながっていくということを大切にしていきたいです。

Profile

片山 康之

片山康之 KATAYAMA Yasuyuki

1978年倉敷市児島出身。倉敷芸術科学大学大学院芸術研究科美術専攻修了。岡山県美術展山陽新聞社大賞(2008)、岡山芸術文化賞準グランプリ(2009)、マルセン芸術文化賞(2009)、福武文化奨励賞(2016)。吉備高原学園高等学校講師、倉敷市立短期大学非常勤講師。2010年からクリエイターズラウンジ(2014年から一般社団法人)の活動を始め、2015年に吹上美術館を開設。緑丘小地域学校協働本部実行委員会 委員長。