岡山県内の昭和戦後期における優れた建物の評価・保存・活用に関する研究・啓発

団体名:一般社団法人日本建築学会中国支部岡山支所 岡山近代建築研究会
代表者:上田恭嗣 所在地:岡山市 設立年:2006年 メンバー数:21名
助成年度:2020年度 教育文化活動助成(3ヵ年助成)
  • 岡山県天神山文化プラザでの展示会開催風景
  • 「戦後の昭和期における近現代建築展」
  • 建築選定部会開催風景 県立図書館にて

活動の目的

これまで、岡山県内における昭和戦時期までの近代建築に関する悉皆調査は、岡山県教育委員会文化財課によって平成17年3月に報告書としてまとめられている。しかし、これ以降の時代における県内の建築に関するまとまった調査研究は行われてなく、日本の建築界においても県単位による調査研究は行われていなかった。そこで、日本建築学会中国支部岡山支所に設置された岡山近代建築研究会において、全国に先駆け昭和戦後期に建てられた県内に現存する近現代建築の調査を行うこととした。調査では、各地に残る優れた建物を選定・評価し、一般の県民の方々に伝え、所有者等にも保存活用に関する一つの提示書となることを目的として活動を始めた。また、これからの若い学生諸君にも県内に残る素晴らしい建物の存在に気づき、今後の在り方を考える資料として活用されることも期待して活動を行った。国際的にSDGsが取り上げられる時代となり、先見性のある調査研究の一つであったと考えている。

活動の内容及び経過

3年半に及ぶ調査研究として対応させていただいた。今年度は、最終年度として最終報告書を作成する調査研究と、広く県民の方々に啓発する展示会の企画、並びに一般の方まで対象とした近代建築の保存活用に関する講演会を計画した。昨年度までに135件の建物の外観についての報告(第一次調査報告書)を作成したが、最終報告として所有者・管理者等の内観掲載許諾等を確認し、内観調査を含めた総合調査を行い、最終調査報告書の作成にかかった。
展示会の企画として、岡山県天神山文化プラザにおいて、7月7日から12日までの一週間、これまでの途中成果を発表する近現代建築展を開催した。コロナ禍の中で開催が危ぶまれたが、実施することができ400名の来場があった。一般の方からの反響も多く、嬉しい企画であった。近代建築の保存活用に関する講演会については、当初の時期をずらし初春に企画を考えたが、コロナ禍のもとで開催ができずに終わった。3月末には、最終調査報告書を出版することができ、今後広く社会に広報する予定である。

活動の成果・効果

全国に先駆け岡山県における昭和戦後期の近現代建築について可能な範囲での悉皆調査を行い、現地調査、写真記録保存調査、聞き取り調査等を通して、建物の評価を行い、取りまとめた研究成果は貴重なものとして位置づけられる。戦後の建築については、これまで研究者等の中でも特定の建物について保存活用に関する指摘・活動はなされてきたが、岡山県内に現存する優れた近現代建築を取り上げ評価したことの意義は、大きいものと考えている。世界的にも持続可能な社会づくり・地域づくりが求められている中、現存する地域社会に根付いた価値ある建物について、保存活用することの意義には大きなものがある。時代が変わる中での研究成果として評価したい。

今後の課題と問題点

取り上げた建築物の中にも、解体もしくは解体を予定している建物も報告されてきている。すべての建物を残すというものではなく、地域になじみ地域の個性ある建物として、地域の人々が使い続けたいと望まれる建物については、今後の地域社会として存続させることは重要な視点であると考えている。そのためにも、人々の身近にある建物で公共性が高く、地域の誇りと思われる建物を紹介し、保存活用に関する提言を行うことは必要である。リノベーション(より使いやすく改修する)、コンバージョン(建物の用途を変えて使いやすい建物に改修する)等による活用も幅広く考え、時代に対応して増・改築を行い、使い続けることも必要な時代を迎えている。今あるものをどのように使い続けるのか、地域住民、市民、県民に考えていただく機会を提供することは、今後の社会には必要である。このような考え方を、今後は、より広く社会に発信・啓発することが大切な視点と考えられる。

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