江川三郎八の設計した近代和洋風建築を活用した地域文化振興
代表者:難波好幸 所在地:真庭市 設立年:2013年 メンバー数:9名 助成年度:2017年度 文化活動助成
活動の目的
江川三郎八が福島・岡山両県庁あるいは個人で設計・監督した建築を研究し、江川の業績と、江川式建築の歴史的・建築的価値を顕彰することが、まず、本会の目的である。そうして得られた研究成果を、地域社会に還元し、岡山県民が、県内に近代建築を広めた建築家の存在を知り、歴史建築物の文化的価値を理解し、地域文化への造詣を深めることで、地域文化振興へとつなげる活動を行うことを目的とする。
活動の内容及び経過
研究会を随時開催し、会員各自が持ち寄った古写真・文献資料に基づく事例検討や、岡山県立図書館、同県立記録資料館での各種資料閲覧などの文献調査、現地踏査(今年は中山神社〔津山市〕、東山温泉跡〔岡山市〕、岡山県護国神社〔岡山市〕、誕生寺小学校〔久米南町〕など)を実施し、江川建築についてさらに知識を深めた。
ちなみに、本会の研究成果から、中山神社拝殿及び神楽殿(本殿は国重文。津山市)など諸建築が、江川本人の設計により大正11年(1922)に建築されたことが明らかとなった。また、昨年度に本会が発見した江川建築・木山神社建築群が国登録有形文化財に登録(申請時の図面等は本会提供)され、いずれも複数の新聞紙上で報道された。
また、岡山県生涯学習センター(岡山市、8/1〜13)、木山神社社務所(真庭市、9/24〜10/1)、玉野市役所1階情報コーナー(玉野市、11/2〜30)で展示会を、木山神社では社殿見学会(10/7)、同社奥宮ではトークイベント「江川三郎八って何者?」(10/29)も開催した。展示会では、新規の物件を多数含む写真・図面パネルなど多彩な資料を展示し、会期には多くの来館者があった。さらに今年は、昨年度に行った、江川の出身地である福島県への出張踏査の流れから、会津若松市歴史資料センター「まなべこ」(会津若松市)で企画・開催されたパネル展に、資料提供を行うなど、さらなる交流の端緒となる年でもあった。併せて、なかなか所期の目的に達しないが、成果の出版に向けた必要資料も逐次収集・整理を進めている。
活動の成果・効果
会としては数ヶ年にわたるこれまでの活動成果に、さらに会員個人が切磋琢磨し、あるいは合同活動での研究の成果を積み重ね、幸いにも新たな江川建築を発見できた。ほとんど在野の者ばかりながら、建築・文献・映像と各分野を得意とする会員がいて、研究会単独で総合的な調査が可能であることが本会の強みである。
本事業における活動の目的するところについても、そうした最新の情報を盛り込んだ展示会を、県内各地で行うことができた。構成会員の多忙もあって、交渉・準備・設営・撤収いずれも、多忙な会員が揃って集まることが難しい局面もあったが、助け合ってどうにか乗り切ることができた。
テーマが建築となると、写真と説明で見せるパネル展示が主体とならざるをえないが、新発見や図版が見出された建築を加えたり、展示地域が異なるとおのずと見せ方や強調すべきポイントも変わってくる。今年度も見学者には好評で、江川の業績と県内外に残る設計建築の存在を、さらに多くの人に知っていただくことができた。
そして今年度末、本会のパンフも参照頂くかたちで、江川建築を主題に、その博物館的な利活用の現状を論じた、山内智子「岡山県における近代建築を利用した博物館」(『國學院大學博物館学紀要』第41輯、2018)が発表された。こうした論考の出現は、江川建築の将来に向けての朗報といえるだろう。
今後の課題と問題点
昨年来の課題として、会の活動発信と、会員の意思疎通について、また、既存の作成パネルの内容の見直しや修正についてなど、継続的なものがいくつかある。
また、江川の出身地であり、前半生を過ごした福島県は、かなりの遠隔地でもあることから、顕彰の気運盛り上げや、相互関係をどう発展させていくかは難題である。県内の江川ゆかりの地についても同様で、そのためには、どのように本会が関係していけるのか、実践と平行して推考を重ねる必要があると感じている。