日本抽象画家の先駆者・坂田一男の顕彰

団体名:坂田一男研究会
代表者:妹尾克己 所在地:岡山市 設立年:2009年 メンバー数:100名
助成年度:2016年度 文化活動助成

目的

坂田一男の滞仏時代(1921〜1933)におけるヨーロッパの美術の動きとの関連で、坂田一男の仕事の歴史的な意味、その芸術の特質、また帰国後の活動へのつながりなどについて知ることを目的とした。

内容・経過

坂田一男(さかた・かずお)/1889年、医師坂田快太郎の長男として岡山市に生まれた。高等学校受験失敗をきっかけに画家になることを決心。1914年に上京し本郷絵画研究所、川端画学校に通う。21年には渡仏し、パリで本格的に抽象画を学ぶ。33年に帰国し、翌年、倉敷市玉島にアトリエをかまえる。玉島在住の洋画家による洋画研究会・火虹会を1943年に結成し、後進の指導にあたる。49年にはA・G・O(前衛岡山美術協会)を結成。人物や静物をモチーフとして、晩年はモノクロームを基調に理知的な構成的作風を追求し、日本の抽象絵画史に先駆的な作品を残している。
坂田一男の滞仏時代に焦点を当てて、その時代や芸術的な環境を語っていただける方として河本真理氏に講師をお願いした。河本真理氏は、20世紀美術、特に第1次世界大戦前後の西欧前衛美術の動向を精力的に調査し、論攷を発表しておられる。またご自身が岡山市で育ったこともあり、坂田一男について関心をお持ちであった。

成果・効果

第8回坂田一男研究会講演会を11月26日(土)岡山シティミュージアム4階講義室にて開催。講師は河本真理日本女子大学教授、演題は「機械と〈秩序〉—坂田一男と両大戦間期のヨーロッパの美術」。聴衆は約60名。盛況であった。
河本真理氏の専門研究分野が、坂田一男の滞仏時代に重なる時期、地域であるので、その視点から同時代美術の動きの中で坂田一男について語っていただくことにより、坂田一男の仕事の背景や意義を浮かび上がらせることになった。
また、作品のモティーフ、構図、形などの比較分析といった美術史的アプローチにより、坂田一男がどのような同時代の作家や作品から影響を受けながら自己の芸術を形成していったのかについて、具体的なプロセスを辿れるような内容であり、大変啓発的であった。今回美術史の専門家や、美術館学芸員への呼びかけを重点的に行った。聴講者の顔ぶれにその効果が表れていた。専門家の間でネットワークができれば、意見交換、情報交換などを通じて、新たな視点や資料の発掘に繋がることが期待できる。昨年の岡崎乾二郎氏の講演会の後、岡崎氏の働きかけで、2019年に東京ステーションギャラリーでの坂田一男展実現に向けて準備中である。今回の講演も含めて坂田一男の画業が様々な視点から考察されるきっかけになると期待している。

今後の課題と問題点

坂田一男の業績とその芸術の特質について、一般市民への浸透が進むような企画も合わせて行っていく必要がある。新しい知見をそこに盛り込みながら、分かりやすく伝えていくことも課題となっている。

PDFアイコンPDFで見る