「気持ちや考えを伝え合うコミュニケーションスキル」の育成
代表者:藤本直子 所在地:岡山市 助成年度:2016年度 教育活動助成
実践活動のねらいと期待する成果
(1)ねらい
通級指導教室に通ってくる生徒は、友だちとの関わり方やコミュニケーションに苦手意識をもっており、自己肯定感も低く、在籍校での集団生活にストレスを感じることが多い。今回取り上げる「気持ちや考えを伝え合うこと」は特に苦手であるため、「自分の気持ちや考えを伝えるスキル」と「相手の話を聞くスキル」を指導し、人とのコミュニケーションの楽しさや安心感を実感することが、他者と関わる意欲を高めることに重要だと考える。
また、H27年度末に行った生徒アンケートでは、「将来のために身につけておきたい力」として「コミュニケーション」を選択した生徒が一番多かった。そこで、「社会自立」の基盤としても、他者と関わる資質・能力を培うための「気持ちや考えを伝え合うこと」を重点的に取り組むことにした。
(2)期待した成果
①相手(教師や友達)にわかりやすく伝えることを意識しながら、話をすることができる。
②会話をつなぐために、相手の話を聞き質問することができる。
③コミュニケーションの楽しさや安心感を実感することができる。
実践活動の内容と方法
(1)個別指導
①基本となる力
教師と1対1の指導では、コミュニケーションに必要な、「語彙力」と「一般的な意味理解」、そして「発想」等の指導を行った。カードを用いたりゲーム形式を取り入れて、生徒が楽しみながら学習に取り組めるようにした。
②伝えるスキル・聞くスキル
通級生徒は、自分の気持ちや考えを言葉で伝えることが苦手な生徒や、自分の好きなことを一方的に話してしまう生徒が多い。そのため、毎回指導の最初には教師と生徒が「今週の話題」としてスピーチを行った。
生徒には、相手(教師)にわかりやすく伝えることを意識させるため「いつ・どこで・誰と・何を・どうした・(自分は)どう思った」というパターンを示し話をさせた。さらに、スピーチの後には聞き手から質問を行い、話を深めるようにした。関心のない内容や知らないことは、「どうして?」「〜は何ですか?」という尋ね方ができるようにした。
(2)グループ指導
①イメージの共有
同年代の中学生2人と教師とのグループ指導では、楽しみながら自分と相手(生徒)の感じ方の違いを知り認めることができるように指導を行った。教師は、生徒間のやり取りをつなぐことや好ましい場面での称賛を加えるようにした。教材は、「自己紹介」「職場体験の報告」から「ヒントクイズ」「言葉つなぎ」「印象ゲーム」等、具体的な話題から抽象的なイメージを考える内容へと段階的に進めた。
②話し合い
生徒間の人間関係が深まると、「話し合い」の練習を行った。在籍学級では話し合いに参加できにくい生徒が多いため、考える時間と話し合う時間を示し、よりよい考えにまとめられるように指導した。
得られた成果及び評価
(1)個別指導
H28年度末に行った生徒アンケートより、「通級で学んでいること」として、8割の生徒が「コミュニケーション(話し方・聞き方)」や「自己表現」と答え、伝えることを意識した話し方ができるようになってきた。
特に、毎回の「今週の話題」をパターン化することで、生徒も安心してスピーチに取り組み、次第に相手の話の要点をつかんだ質問ができるようになってきた。
(2)グループ指導
グループ指導を継続して行った生徒では、コミュニケーションの楽しさを実感した生徒が多かった。また、友達の発想や考えを聞き、共感したり違いに気づく場面が見られた。
※「授業後の振り返り」より
・2回目の「言葉つなぎ」だったけど、1回目よりもうまくできたし、楽しかった。
・「ゲームのルール作り」は、相談するといろんな案が出るのが楽しかった。会社でも、似たようなことをするのかと思った。
・「印象ゲーム」は、僕が選んだのと違ったけど、○○君や先生の理由を聞いたらよくわかった。
今後の課題とその解決への展望
H28年度の取り組みから、個別指導とグループ指導を計画的に行うことにより、通級指導の場面では相手を意識したスピーチや質問ができるようになっている。今後は、通級生徒がほとんどの時間を過ごす在籍学級において、学習や生活に般化できるようにしていきたい。
また、通級生徒の中には情緒面からグループ指導を行うことができない生徒もいる。そこで、デジタル機器(iPad等)を表現やコミュニケーションツールとして活用することにより、社会性(人との関わり方)の向上に効果があると考える。その際、デジタル機器を用いるマナーやモラルの指導も必要であり、学習支援ツールとしての活用も進めていきたい。