論理ゲームを活用したアルゴリズム育成教室の運営について
代表者:熊見健之 所在地:岡山県 助成年度:2015年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
生徒の学力低下問題は当然のことながら、児童の学力低下問題に起因している。PISA1による学習別到達度調査国別順位でも我が国の学力低下は顕著である。数学的リテラシーにおいてPISAが行った調査から、「数学に対する不安」指標と数学的リテラシーとの相関で、日本を含む17か国全ての国で負の関係が見られた。また、数学に不安を感じている生徒ほど数学的リテラシー得点が低いという関係が見られた。2
こうした背景から、小中高の教員が主な構成メンバーである本会では、児童の論理的思考力の育成に妥当性が認められている教材の活用効果を実践検証するとともに、ゲーム感覚で楽しみながら論理的思考を育成する過程を通して、数的処理の苦手意識を解消することができるのではないかと考えた。
教材の選定においては、インターネット上の評価と現場の教職員に対する聞き取り調査から、論理的思考力の育成に効果が高い3カード教材「アルゴ」4(以下「アルゴ」とする)を採用した。
研究・実践活動の内容と方法
(1)研究の流れ
具体的には、以下のような手順で「アルゴ」の実践研究を行った。
①協力者会議の立ち上げ
複数校の教員・塾講師で情報を共有するために協力者会議を立ち上げた。
②検証授業の実施(学習塾)
児童の論理パズルを体験する授業を毎週日曜日1年間(計11回)継続して開校した。(名称:アルゴリズム育成教室)
③被験者に対する調査実施
実証実験に参加した小学生にインタビューによる調査を実施した。
④収集したデータの分析
収集した情報から統計分析を行った。
⑤研究を総括する会議の実施
コンソーシアムメンバーによる総括会議を行った。
⑥研究結果のまとめ
報告書を作成した。
(2)実証実験の概要
実施期間:
2015年5月10日(日)/6月28日(日)/7月12日(日)
8月23日(日)/9月20日(日)/10月18日(日)
11月1日(日)/12月13日(日)/2016年1月24日(日)
2月28日(日)/3月6日(日)計11日
実施時間:
13:30〜13:30まで
(1日2時間総実施時間22時間)
場所:
岡山県勝田郡奈義町中島西1256-4
国富学習塾第2教室
調査対象:
奈義小学校1年生
(「国富学習塾」の塾生を対象に希望者が参加した)
(3)「国富学習塾アルゴ教室」実証実験の概要
「アルゴ」はカードだけでもゲームを進めることができるようになっているが、今回の研究対象が小学校の低学年であることから、できるだけ集中力が持続するようにチップを使うことでゲーム性を高めて実施した。
【アルゴの遊び方】
- カードを「アルゴ」のルールに従って、並べ数字が分からないようにふせておく。
- 相手のふせてあるカードの数字を推理して当てる。
- 自分のカードの数字と、ゲームを進行していく中で判明する条件から推理する。
- 相手のカードを先に全て当てれば勝利する。
図1から図3のようにカードの並べ方を理解できれば、「アルゴ」のルールは簡単で、ルール説明を行った段階で小学生の被験者も短時間でルールを理解することができた。「アルゴ」に取り組む人数は、2人・3人・4人プレーやペアプレイ、1人プレイにも対応していることから、参加者数にバラつきがある学習塾での検証もスムーズに行うことができた。(図1〜3は、実際に取り組んでいる参加者の手札を解説に利用した)
なお、実際にゲームに取り組む場面では、楽しそうにやり取りする様子が見られたが、表情が判明する画像は掲載していない。これには、学習塾の実践であり保護者から使用許諾を得ることができなかったためである。
得られた成果及び評価
【小学生の感想】
・ルールが分かってからは楽しかった。
・相手のカードを予想するのに、頭を使った。
・「アタック」を繰り返すか、「ステイ」するか迷った。
・カードを当てた時嬉しかった。
【11日目の研究授業に参加した教員スタッフの感想】
※今回の様子を観察評価した2名の教員スタッフに対する聞き取り調査から
・「アタック」する瞬間だけでなく、攻められている間も思考している様子が見られた。
・被験者の表情から相当頭を働かせて相手のカードを予測している様子が見られた。
残された課題とその解決への展望
被験者は、真剣にゲームに取り組み相手のカードを自らの手札や山から引いたカード、相手にアタックして得た情報などを総合的に分析して相手のカードを当てていく過程を通して、論理的思考力などの汎用的な能力育成が行われた。具体的には、ゲームの導入段階では大人しかった被験者が、ゲームに取り組む過程を通してカードの予測方法や思考の流れ、相手カードを確立的な視点で絞り込み相手の表情を伺う様子を見せるなど、論理的な思考力に加えて、実践的なコミュニケーション能力の育成にも効果があることが観察評価から明らかになった。また、相手にアタックした時に見えない状態の数字を予想して当てようとするが、外れた時の情報も大切な情報として記憶しておき、後のカード予測に役立てるなど、バラバラの数値情報を整理し、構造化しておくといった精緻化された記憶の再構築を行う必要性を引き出すことに効果的であった。
また、被験者に対しては、「アルゴ」でのゲームを通して、「数的リテラシーについて、被験者の内的動機付けを高めることに効果があったのか」についてインタビューによる検証を行った。その結果、ゲームになれてきてからは自らの手札にあるカードをあたかも相手の手札となっていると思わせるように偽情報を発信するなど、ディスインフォメーション工作のような高度なテクニックを駆使したという驚くべき思考の変化が現れるとともに、「勝った時には自らに自信が付いたし、これが算数ならやる気になる」といった感想が聞かれるなど、数字に対する苦手意識の払拭に一定の効果があったことが感じられた。
被験者に対しては、勝利した際や予測が論理的に絞られた際にタイミングを逃さずに感嘆したり、褒めたりするといった教員の適切なコーチングが重要であり、これが学習者の動機づけを高め、後に数学の成績向上に繋がっていくものと考える。
○実施日程○
【1日目】5月10日(日)
「アルゴ」のルール説明(10分程度)の後、被験者が2人プレイで対戦していく形式でのゲームに取り組む。最初の段階では、ルールの確認やカードの並べ方などの質問がゲーム中に行われることがあったが、中盤以降スムーズに取り組めるように変化した。勝敗によってチップのやり取りもあるので、楽しそうに取り組んでいた。
【2日目】6月28日(日)
「アルゴ」のルール説明(5分程度)の後、ゲームに入る。前回参加者を対象にルールを確認する過程を通して、ゲームを思い出させるようにした。今回から参加の新規被験者もいたが、前回参加の被験者がゲームに取り組む様子を見せながら、ゲームに参加していない被験者が指導する形態でルールを覚えさせるようにした。
【3日目】7月12日(日)
「アルゴ」のルール説明を行わず、わからないことだけ質問をするように指示してゲームを開始した。チップの算出方法の質問があった程度で、ゲーム自体のルールに対する質問はなかった。
【4日目】8月23日(日)
この頃には、ルール説明をしなくてもスムーズに取り組めるように変化していた。
【5日〜9日目】9月20日(日)・10月18日(日)・11月1日(日)・12月13日(日)
単にゲームを行うだけでなく、色々とゲーム中に被験者間で行われる会話も相手をかく乱する上で重要なテクニックであることへの気付きが生まれてきた。
【10日目】2016年1月24日(日)
自らの推理させる札をもっと多くするルールの「ステイ」を利用する被験者が増えてきた。
【11日目】2016年2月28日(日)
「アルゴ」に取り組む被験者を教職員が観察評価する。
【12日目】2016年3月6日(日)
「アルゴ」の調査に参加した児童に対して聞き取りでの調査を行った。