生徒が生きる力を身につけるための、ライフスキルトレーニングを中心としたプログラムの作成と授業への応用の研究
代表者:萱野岳史 所在地:倉敷市 助成年度:2015年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
(1)ねらい
本校は平成15年度に開校した、岡山県で唯一の総合学科・昼夜間2部制の定時制高校である。ここ数年、特別な支援を要する生徒が増加している。また、小中学校での不登校経験を持っていたり、成功体験が少なかったりする等、多様な生徒が入学している。そこで、生徒が将来地域で自立して生きていくことができるように、日常生活で生じる様々な問題に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力を身につけるための「ライフスキルトレーニング」を中心としたプログラムを研究・実施する。その一つとして、平成27年度から夜間部で新たに開講する学校設定科目「UP!」の内容について研究を行い、実施後はプログラムの効果について検証する。また、校内研修会を地元の中学校や県内の高等学校に公開し、プログラムを広く共有していきたい。
(2)期待した成果
①ライフスキルトレーニング実施後のアンケートから、生徒に人間関係形成力がついたと判断できる。
②ライフスキルトレーニングで用いた手法を使った授業を全教員が行い、学習目標だけでなく、態度目標を意識した授業が行われるようになる。
研究・実践活動の内容と方法
(1)ライフスキルの定義
ライフスキルとは、「日常生活で生じる様々な問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」であるとWHO(世界保健機構)が定義しており、10のスキル(①意思決定、②問題解決、③創造的思考、④批判的思考、⑤効果的コミュニケーション、⑥対人関係スキル、⑦自己認識、⑧共感性、⑨情動への対処、⑩ストレス・コントロール)がある1)。文部科学省は、開発的カウンセリングの一つとしてライフスキル教育を位置づけている1)。
(2)「UP!」のプログラム開発と授業実践
夜間部1年次生を対象に開講した学校設定科目「UP!」(2単位)は、学校設定教科「総合」の科目の一つで、生徒の社会適応能力の向上を目標としており、ライフスキルトレーニング(年間約20時間)と基礎学力分野(国・
数・英)で単元を構成している。プログラム開発は、「UP!」担当教員3名が中心となって行い、授業実践はスクールカウンセラー1名が加わり計4名によるティームティーチングで行った。また、岡山県総合教育センター長期研修員(本校所属)にも、プログラム開発・授業実践・アンケート分析等の協力を得た。
(3)教員研修及び公開授業の実施
①教員研修
昼間部・夜間部全教員でライフスキルトレーニングに取り組むことができるよう、その意義や活動の手順・留意点等を共有するために、教員研修を行った。
・4月13日(月)「概要説明と実践」
・5月28日(木)「プログラム検討と演習①」
・9月14日(月)「プログラム検討と演習②」
・11月20日(金)「校内公開授業」
・1月25日(月)「取組の成果と課題」
②公開授業研究会
地元の中学校や県内の高等学校教員を対象に公開授業研究会を実施し、プログラムを共有するとともに、参観者からの指導助言をもとにプログラムの見直しを行った。
・7月10日(金)学校設定科目「UP!」公開授業
対象:地元中学校、県内高等学校教員
指導助言:山陽学園大学看護学部富岡美佳教授
得られた成果及び評価
(1)質問紙調査による効果の検証
夜間部1年次生を対象として、4月と2月に質問紙調査を実施した。コミュニケーション能力の測定には、社会的スキルについて測定する尺度「KiSS-182)(菊池、1988)」を、自尊感情の測定には「自尊感情尺度3)(山本・松井・山成、1982)Rosenberg(1965)の邦訳版」を使用した。授業実践前後の得点を分析した結果、社会的スキルにおいて有意差が認められた(表)。このことから、1年間の取組が、生徒の社会的スキルの向上に良い効果を与えたといえる。効果が数値で確認できたことは、本研究の大きな成果であった。一方で、自尊感情の得点には変化が見られなかった。自尊感情に影響を与えるには、さらなる取組が必要である。
(2)教員の意識調査の実施
全教員を対象に、1月に意識調査を実施した。「ライフスキルトレーニングは生徒にとって良い効果が期待できると思う」(質問1)に86%の教員が、「ライフスキルトレーニングの授業を行うことができると思う」(質問2)に半数を超える57%の教員が「はい」と回答しており、本研究において一定の成果が得られたと考えられる。
残された課題とその解決への展望
教員の意識調査の中に、「ライフスキルについてまだ理解できていないため、授業をするには不安がある」などの意見もあり、次年度以降も引き続き、教員研修や実践を通して、全教員が自信を持って取り組めるようにしていく必要がある。また、「UP!」の授業実践を行った夜間部は、1クラス15名の小規模な集団であったが、昼間部は1クラス30名程度であるため、集団の規模や生徒の実態に応じた活用の工夫が求められる。
3月に完成した「UP!」の指導者用手引や1年間の授業実践により蓄積された指導案・ワークシートを全教員で共有し、次年度への取組につなげるとともに、同様の取組を行っている他校との情報交換や外部講師からの指導助言等からヒントを得ながら、プログラムのブラッシュアップを図っていきたい。