人間関係を基盤にした学力向上への取組 2年次
代表者:藤澤勝巳 所在地:岡山県 助成年度:2015年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する成果
(1)ねらい
協同学習やピア・サポートなどの教科指導と積極的な生徒指導を同時に行うプログラムを推進して、人との関係性を育て、学力向上など教育効果を高める。そして、2年次に活動を定着させて、よりレベルアップして成果を上げる。
(2)期待する成果
①学び合いができ、学力が向上すること。
②思いやりの心を持ち、支え合うことができること。
③不登校を減少させ、いじめの発生を防ぐこと。
研究・実践活動の内容と方法
(1)協同学習
昨年度は、全教科全時間の授業の中でペアやグループでの話し合い活動を持つことを努力目標として70%の達成基準をほぼクリアした。これによりコミュニケーションの量を蓄積することができた。本年度は、教科の目標を達成するために、ペアやグループを中心とした集団での活動を効果的に行うことを目指して取組を進めた。また、各授業の目標をきちんと示し、まとめに繋げることに重点を置いた。
(2)SEL(社会性と情動の学習)
昨年度は、怒りの感情をコントロールするための「アンガーマネジメント」など生徒の実態に合ったプログラムを1年間に7時間以上(先行研究により効果が期待できるとされている)実施した。本年度は、スクールカウンセラーとのTTで「ストレスマネジメント」の授業を取り入れ、生徒が自分にしっかりと向き合える授業となった。スクールカウンセラーから生徒一人ひとりが各自の作品を解説した手紙をもらったことなどで、生徒の自己肯定感が高まった。
(3)ピア・サポート
昨年度から保幼小中合同避難訓練や宿泊行事、体育会、文化祭などの行事で支え合う活動を意図的に設定し、活動後には、級友のよいところを互いに伝え合うことで、自己肯定感を高めるようにした。3年生は、いじめ未然防止の取組として、いじめる側やいじめられる側の気持ちを味わった後、問題解決の仕方について話し合った。2年生は、紙上相談や悩み解決の授業を行い、互いの悩みを共有し、解決策を出し合った。このことで、みんなで解決していこうという雰囲気をつくり、自分たちの生活に生かすことができるようにしたいと考え実践した。
(4)品格教育
4月「礼節」、5月「責任」などと月ごとにテーマを決
め、月曜日の朝の活動で、テーマに沿った個人目標を決め、その目標にした理由をペアに話した。相手は聞いた内容を伝え返すことをした。金曜日の帰りの会で、1週間の振り返りをした。2年目に入り、個人目標がより具体的になったり、振り返りがスムーズにできるようになったりするなど生徒に浸透してきている。道徳の授業に月のテーマに関連した題材を選び取り組んだ。また、教室や廊下などの校内に生徒発案の「みつやマン」というメインキャラクターと、「カキえもん」というサブキャラクターを入れたポスターを掲示した。
(5)コミュニケーション活動
朝の活動の時間などにペアで「旅行に行くなら海外か国内か」などの二択のテーマについて選んだ理由を含めてお互いに30秒間話した。その後、20秒間、互いに質問をして、次に相手の話を30秒で返すという活動を行った。3年生は、高校入試の面接官と受験者という設定での応答練習に発展させる活動にも取り組み、入試対策にも効果があると感じた生徒が多く、好評であった。
(6)校内研修
プログラムを実践する力を育てるために、校内研修を4回行った。また、6回の講座の中から選択して受講する浅口市の研修に全員が参加し、大学の先生方からの講義やワークショップなど研修の機会が充実していた。
また、全員が行う研究授業では、新しい方法として教科や学年団所属の枠のない3〜4人の小グループを中心に指導案検討、研究授業参観、反省会をセットとして取り組んだ。授業者だけでなく、チームとしての集団の研究となり、同僚性を高め、視野を広げ、生徒にとってより良い授業となることを目標とした。そして、指導案検討は時間割の調整をしてメンバーが集まれるようにした。反省会は研究授業日の放課後にすることとし、1年間で4〜5回の実践ができた。
教師の感想では、事前検討について「教科の専門的なことは聞けなかったが、指導案の形式や書き方については適切な指導がいただけた」、「実技教科でない先生から気づいたことを言われるので、教えてもらう立場になり同僚に支えてもらえている感じを持つことができた」などがあり、反省会について「『教師の発問や指示を少なくして生徒の発言が多かった』などと自分の授業の優れている部分が分かった」、「同じ視点で見てもらって、同僚に支えられているという感じを持つことができた」などがあった。
得られた成果及び評価
(1)アセス(学校環境適応感尺度)(5月・7月・10月)
対人的適応、学習的適応、生活満足度を見るために実施した。全項目の数値が60前後(基準50以上)と高く、人間関係は良好な状況である。昨年度も本年度も5月より10月の数値が向上している。また、非侵害的関係は無視やいじわるなど、拒否的・否定的な友だち関係がないと感じている程度を示す項目で、その数値は昨年から高い状態が続いている。この数値は、学習的適応への影響が大きいといわれていることから今後の学力向上に期待ができる。3年生はこの項目の伸びが最も大きく、分析通りの良い結果が出ている。また、2・3年生ともに、ほぼ全ての項目の数値が昨年度から上昇している。
(2)中学生の日常生活についてのアンケート(5月・10月・2月)
学び合い、支え合いの成果を見るために岡山大学三宅幹子准教授と連携して質問項目を作成し、全校生徒に実施し分析した結果、全体平均の数値(4段階で1〜4の数値を平均して2.5が基準値)が概ね3〜3.5程度の高い状況で、昨年度と大きな変化はない。5月と10月の比較では、有意差はない。ただし、初期値(1回目)がすでに高いものについては、天井効果により変化は出てきにくく、維持できているという点が評価に値すると考えられる。それぞれの項目について下位群のみ抽出したものをみると、自己コントロール、サポートを受ける、自尊感情の3カ所で上昇傾向が有意になっている。
(3)協同学習に関する3年生のアンケート結果(1月)
90%以上の生徒が全項目で肯定的な回答をしている。「良い学級になるのに役に立つか」では、「学級のコミュニケーションが増え、良い雰囲気ができた」、「自分の授業への取組が良くなったか」では、「勉強の仕方がわからない時に、教え合いができて役に立った」、「コミュニケーション能力が上がった」、「近い距離で教えてもらいやすい」、「勉強のためになる良い方法か」では、「班員のノートを見る機会が増え、まとめ方が上手い人を真似ることができて、すごく良かった」、「一人で解決できなかったことを解決でき、自分の力が付いた」、「他人の考えが聞けていい。自分の意見をもっと考えることができるし、視野も広がるので、学習方法として良い」という記述が見られた。3年間継続したことにより、良好な人間関係やコミュニケーション力が育ったことが確かめられた。また、教研式標準学力検査(NRT)5教科総合の偏差値が3年間で、47.4(1学年次)、49.1(2学年次)、50.0(3学年次)と学力が向上した。
残された課題とその解決への展望
- 協同学習の質を向上させ、授業の目標とまとめをしっかりとして、学力をさらに向上させること。
- 集団は育ってきているが、個人の成長にはまだ格差が見られること。
- こ(こども園)小中連携を推進し、12年間の成長を見据えたキャリア教育に繋げること。