遊びを通して聴覚障害幼児の学力の基礎を育てるための知育アプリ活用

団体名:聴覚障害幼児の学力の基礎を考える会
代表者:藤井裕士 所在地:岡山県 
助成年度:2015年度 教育活動助成
  • 表1:アプリ一覧表より一部抜粋
  • 写真1:幼児の様子

研究・実践活動のねらいと期待する成果

(1)ねらい
聴覚に障害のある幼児は、音声言語情報の不足から言葉の獲得に課題があり、就学前より言葉に関する学習、指導が行われている。一方で、幼児期は主体的な遊びを通して様々なことを学習する発達段階である。幼児が受動的に学習するのではなく、幼児の主体的な遊びを引き出しながら、効果的な学びを行うために、タブレット端末を活用することが有効なのではないかと考えた。ただし、現在、知育アプリは有料、無料のものを含めて無数に存在し、アプリの内容の多様さ、広告・ページ内課金の有無等もあるため、幼児にとっての使いやすさも様々である。そこで、本研究では、知育アプリの活用が聴覚障害のある幼児の認知・言語力を高めるために有効であるかを検証すると共に、幼児の実態に応じた知育アプリを容易に選択ができるように、知育アプリ一覧表の作成を行うことを目的とした。
(2)期待した成果
①知育アプリ一覧表の作成
N-Cプログラム(認知・言語促進プログラム)に対応した知育アプリ一覧表を作成する。
②幼児の認知・言語力の向上
幼児は、教師や保護者とコミュニケーションを取りながら知育アプリを活用することで、聴覚障害児の学力の基礎となる認知・言語力の向上を図る。

研究・実践活動の内容と方法

(1)N-Cプログラムに対応した知育アプリ一覧表の作成
県内外の幼児教育、特別支援教育等の関係者数名に協力を依頼し、「N-Cプログラム項目との関連表」に記入してもらい、それらの中から実用的と考えられるアプリを精選し一覧表(表1)にした。
○N-Cプログラム項目との関連表について
N-Cプログラム項目との関連表では「OS」、「アプリ名」、「金額」、「広告」、「関連」、「評価」、「反応」について記入した。その際、以下の方法で記入した。
・「OS」はandroid・iOSを記入
・「金額」はコドなび!に元から入っているアプリは「コドなび!」と記入
・「広告」はアプリ使用時の広告表示について有、無で記入
・「関連」は「項目」との関連がどれくらいあるかを◎、◯、△で記入
・「評価」はアプリが「項目」の発達を促進するために有効であると考えられるかを評価し、◎、◯、△で記入
・「反応」は実際に子どもに使った場合子どもの反応を◎、◯、△で記入
・それぞれの◎、◯などの基準は、個人の主観で良い
・「自由記述」には必要に応じて「関連」、「評価」、「反応」の記入理由、その他について自由に記述
・記入可能な項目についてのみ記入
※「コドなび!」とは、知育アプリが約150個入った幼児向けタブレット端末(android)である。
(2)個別指導の時間を中心にした、知育アプリの活用
週3回、1回30分程度の個別指導の時間を中心に、必要に応じて知育アプリを活用した。
聴覚に障害のある幼児を対象とした個別指導では、幼児の実態に応じて「聴覚の活用」、「発音・発語」、「コミュニケーション・言語」等に関する指導を行っている。その中で、特に「聴覚の活用」、「コミュニケーション・言語」に関する指導に知育アプリを活用した(写真1)。
(3)N-Cプログラム等による認知・言語面での幼児の変容の比較
年度当初に、N-Cプログラムによる幼児の実態把握を行い、定期的に発達記録チャートに記入した。

得られた成果及び評価

○知育アプリ一覧表(2015年度版)を整理することができた。
・合計500個程度のアプリを調査し、一覧表に総数273個を整理した。ただし、認知的な課題が含まれるアプリであってもN-Cプログラムの項目には該当しないものが多かった。同一のアプリであっても、複数の認知、言語面の課題に使用できるものは、記載した全ての数を総数に含めた。
・子どもと一緒にアプリを使用する大人が意図をもつことで、1つのアプリでも様々な活用方法が考えられた。
○個別指導の時間に知育アプリを活用できた。そして、発達記録チャートの記録により、幼児がクリアできる項目が少しずつ増え、認知・言語面での変容は明らかであった。
※ただし、他の指導も同時進行で行っているためそれが知育アプリに依るかどうかは断定できず、他の指導の効果も大きいと考えられる。

残された課題とその解決への展望

○知育アプリ一覧表の作成について
・日々新しいアプリが誕生する中で、全ての知育アプリについて調査は難しく、アプリのバージョンアップによる内容の変更に対応することは困難であった。
・N-Cプログラムでは、該当するアプリがない項目が多かった。また、聴覚に関する項目が、「聴覚記銘」しかないため、聴覚の活用等に関する段階的な表が別途必要であると考えられる。
○個別指導を中心にした、知育アプリの活用について
・個別指導の際の知育アプリの活用について、その他のアナログ教材による指導と比較すると柔軟な指導が行いにくくなることが多かった。幼児の実態によってカスタマイズできるアプリがあればより効果的に活用できると考えられる。また、アプリはあくまで保育者が指導する際の教材にすぎず、アプリを幼児が一人で使用することで能力が伸びるものではなかった。能力の伸長にはアプリを介した、幼児に対する保育者の意図的な関わりが必須であった。
・N-Cプログラムの発達記録チャートの次なる課題と、その他のインフォーマルな実態把握による課題とでは、その他のインフォーマルな実態把握による課題の方がよりスモールステップであるため、個別指導にアプリを生かすには、完成した知育アプリ一覧表よりも更に細分化された一覧表が必要である。

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