外国籍の子どもの教育・保育の質を 保障する支援体制構築に関する研究
代表者:佐藤和順 所在地:総社市 助成年度:2014年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
1ねらい
本研究の目的は、岡山県下の就学前の外国籍の子どもの就園状況を把握するとともに、外国籍の子どもが在籍する園が抱える課題を明確化することにより、グローバル化に対応した保育・幼児教育の体制を現状の子どもの実態を視野に入れながら構築することである。支援体制の構築を通して、外国籍の子どもの保育の質を保障することをはかる。
2期待した成果
就園状況・保育の実態調査から抽出された課題に対応した支援体制のモデルを構築することができる。また、このような支援体制モデルは、保育現場全体に有用なものとなり、地域の保育の質の向上に寄与する。
研究・実践活動の内容と方法
【外国籍の子どもの保育の実態調査】
・外国籍の子どもの就園状況調査(調査対象:岡山県下の保育所386園、幼稚園334園、認定こども園9園平成25年度実施有効回答数407園回収率55.3%)の分析
・外国籍の子どもが在籍する研究対象園において保育の状態をエスノグラフィー的手法で調査・検証
・『外国籍の子どもの在籍に関する質問紙調査の報告』の作成及び配布
【研究会の状況】
第1回研究会
就園状況調査・エスノグラフィー調査の分析
平成26年8月26日於:ハイロスハイマ幼稚園
第2回研究会調査の精査及びモデルの構築
平成26年10月29日於:就実大学
第3回研究会報告書の作成・精査
平成26年12月9日於:就実大学
第4回研究会課題の顕在化及び対応の検討
平成27年1月16日於:岡山県立大学
第5回研究会講話とグループワーク
講師:小林みどり大阪青山大学准教授
平成27年3月2日於:就実大学
その他、今後の外国人の入国動向に係る情報収集及び外国籍の子どもの教育を先進的に実施している特定NPO法人多文化共生センターへの視察等を実施した。
得られた成果及び評価
外国籍の子どもの就園状況調査及びエスノグラフィー調査の分析から得られた知見は次の通りである。
第一に、岡山県に住む外国籍の子どもの保育需要は、0歳から6歳までの全ての年齢において、地域に関係なくあることが確認された。このことは、現時点での外国籍の子どもの在園の有無に関係なく、保育施設全体でこの課題に取り組まなければならないことを意味している。
第二に、子どもたちの母語は多岐にわたり、保育においては1対1の個別的配慮が不可欠であるため、保育施設や保育者個人で対応できる範疇を超えていることが明らかとなった。現場の保育者は子どもとの意思疎通が困難な現状のなかで、子どもの気持ちが理解できないことへの葛藤や、指導内容が子どもに伝わらないことへ焦りを感じながら、日々の活動にあたっている。特に、入園当初にコミュニケーション能力・語学能力に課題のある子どもについては個別的援助が不可欠であるため、子どもの母語に対応できる担当保育者や通訳のできる相談員等の人員の配置は必須であり、自治体・公的機関や地域と連携した支援体制づくりが求められている。
第三に、保護者との意思疎通が図れないことに代表される種々の問題が確認されている。特に、子どもの持ち物や行事に関する連絡や具体的内容の説明に苦慮する保育者の姿が確認された。また、気候や慣習の違いは、子育てに関する考え方にも影響を与えており、しつけや生活習慣に関して共通理解が得難い実態が明らかとなった。しかし、保護者への支援は、所属する保育施設に一任の状態である。保育施設以外の支援の有無や支援内容について地域格差や保育施設による偏りが生じており、平等な教育・保育の機会が保障されているとは言えない。
以上のような状況は、園独自には解決しえない。保育施設が拠点となり、外国籍の子ども・保護者のニーズに応じて、自治体及び公的機関からの支援が得られるような体制づくりが必要と考える。また、外国籍の子どもと保護者が孤立することなく、地域社会とつながるためには、保育施設が拠点となって地域社会が保有する施設や人材を活用し、地域と子ども・保護者との交流の場をつくることも重要である。現状の課題を解消するためには図のようなネットワークモデルが必要であると考える。
本モデルのように、保育施設が拠点となり、自治体や公的機関と連携することで豊富な専門知識や社会情勢の動向に関する情報を得ることが可能となり、保育現場が抱える課題や効果が得られた対応例等の経験知を蓄積することができる。また、保育施設が拠点となり地域とつながることで、地域が保有する施設や多様な人材との連携が可能となる。さらに、拠点となった複数の保育施設が連携することにより、支援ネットワークが地域に拡充し、外国籍の子ども・保護者への支援体制における地域格差や保育施設の偏りの解消が期待される。
以上の知見を『外国籍の子どもの在籍に関する質問紙調査の報告』としてまとめ、県内の幼稚園・保育所・認定こども園に配布した。保育施設を拠点とした支援ネットワークの構築に関する研究は、外国籍の子どもと保護者に限定された支援モデルではなく、全ての子育て家庭における支援体制の拡充につながるものと考える。
残された課題とその解決への展望
本研究は、調査結果を受けて支援ネットワークモデルを構築したことで一定の評価を得ることができると考えられる。ただ、作成した外国籍の子ども・保護者支援ネットワークモデルの有用性を検証することが必要である。外国籍の子ども・保護者の課題も多様であるので、その多様性を把握し、本ネットワークを基盤に個別的に対応できる具体的支援策の検討が今後求められる。