不登校児の基礎学力の向上を目指して − ソーシャルスキルトレーニングを取り入れて −

団体名:岡山大学と連携したSST開発研究会
代表者:樫田健志 所在地:倉敷市 
助成年度:2014年度 教育活動助成

研究・実践活動のねらいと期待する効果

1ねらい
不登校あるいは不登校傾向にある子どもの学力向上は喫緊の課題である。そして、本課題を解決するためには基本的生活習慣や学習習慣の確立、基礎体験の充実、社会性の育成といった「学びの土台づくり」が必要ではないかと考える。そこで、岡山大学の教員や学生と連携しソーシャルスキルトレーニング(以後SST)の指導法を学び、場面における学習関連スキルの指導を実践することにより、学業への自分の思いや考えをうまく表現したり、良好な人間関係を築いたりする社会性の育成を目指したい。

2期待した成果
ソーシャルスキルが身に付けば、第一に現在の適応状態や学習習慣を改善することができる。友達や教師、保護者とどのようにかかわればよいかという具体的なことがわかり、良好な人間関係をつくる知識とコツを学べる。第二に将来の精神面の課題に対して予防的な効果も発揮できる。この取組をとおして、自己肯定感や学習意欲を高めるとともに、学びの機会や可能性を広げ、学力向上を期待したい。

研究・実践活動の内容と方法

倉敷教育センターは、不登校児童生徒に対して、相談及び集団活動の指導をとおして集団への適応能力の回復と育成を図る目的で、倉敷市内で適応指導教室(倉敷ふれあい教室以後ふれあい教室)5教室を設置している。ふれあい教室は、毎年夏期休業日以降に臨床心理士等を目指す岡山大学大学院生の臨床心理実習を受け入れている。本調査研究では、岡山大学大学院教育学研究科と連携し、大学院生8名のインターンシップ実習に合わせ、SSTを実施した。

①インターンシップ実施前の準備
ア大学側の準備
大学教員の協力により、大学院の講義の中で適応指導教室に通室する子どもたちを対象としたSST指導案を立案し、受講生が互いに生徒役を担当しながら模擬授業を実施し、準備した。また、実施に向けて、岡山大学教育学研究科東條光彦教授、岡山大学教師教育開発センター稲田修一准教授と打合せを数回行い、効果的な実施方法を検討した。

イ教育センター・ふれあい教室教育指導員側の準備
5教室合同行事のふれあい宿泊研修の中で、花火を実施する前に「安全な花火の仕方」についてのSSTを悪い例と良い例のロールプレイで教育指導員が実施してみた。花火の際に、ある子どもが少し危険な行為をしていたら、「さっき劇(ロールプレイのこと)で○○ちゃんが注意されていたでしょう。」と子ども同士で注意し合うなど、進んでコミュニケーションをとる姿が見られ、実習生によるSST実施前にその効果が確認できた。

②SSTの実施
ア実習生との打合せ
インターンシップを始めるにあたり、実習生のガイダンスを行った。その際、ふれあい教室に通室する子どもたちの一般的な特徴や注意する点を事前に説明した。各教室の教育指導員と実習生のSST実施に向けての打合せを行い、実施に向けて計画を立てた。教育指導員も、臨床心理士の指導の下、SSTでよく行われるロールプレイについて研修した。SSTの実施時期は、事前の大学教員との打合せにより、実習生がふれあい教室に通室する子どもたちとある程度人間関係をつくってからの方が効果的と判断し、インターンシップ後半に実施した。

イ実施方法・実施形態
実際にインターンシップが始まると、通室する子どもたちとの会話のやりとりから、「前期の授業で作成したSST指導案では実態に合わない。」と実習生自らが感じ取ったり、教育指導員に同様の指摘を受けたりして、実習生が不安を感じていた。そこで、教育指導員と相談してそれぞれのふれあい教室の子どもたちの実態に即したSST指導案に加筆・修正して実施した。また、特に教育実習を受けていない実習生は不安感が強いため、実習生2名配置のふれあい教室ではティームティーチングで実施し、1名配置の場合は教育指導員が手助けする方法をとった。

ウSST実践例
「上手な断り方」のSSTでは、インストラクションでスキルの必要性を説明し、モデリング・リハーサルで悪い例を実習生がロールプレイでやって見せ、ポイントを整理して示した。その後、「頼む役」「断る役」「見守る役」に分かれ、役割を交代しながら子どもたちが体験した。まとめでは断るスキルを学ぶ上で大切なことを振り返り、良かった点についてはフィードバックを与えた。

得られた成果及び評価

SSTを実施する際に、事前に保護者の同意を得て実施する形態をとった。適応指導教室に通室している子どもたちは、事前に参加する意志を示していても当日通室できなかったり、その日の気分で実施できなかったりすることがあった。ある教室では、当日急な感情の変化により、生徒の一人の拒否反応が全体に広がり、一人も実施できなかったことがあり、この調査研究の難しさを感じた。また、実施後のアンケート調査を嫌がる子どももおり、子どもたちには聞き取り調査で、教育指導員にはアンケート調査で実施した。数量調査ではなく、質的調査を実施した。そのうち主な意見を次にあげる。

肯定的な感想・意見
通室生
・断り方の流れを知ることができた。
・SSTではうまくできた。友達と話す時には気をつけたい。
・少しばかり面接に生かせる気がする。
・また使いたい。楽しかった。
・無意識に相手を傷つけたりしたと思うので、気をつけたい。
・人それぞれ感じ方が違うんだと思った。

教育指導員
・押しつけにならず、リラックスして優しく伝えられたと思う。
・しっかり考えていた。

インターンシップ生
・子どもたちの力を感じた。
・教育者としての視点を得れた。
・反抗的な子どもが真摯に取り組んでくれた。

否定的な感想・意見
通室生
・難しかった。
・恥ずかしさもあって、真剣に受け止めることができなかった。

残された課題とその解決への展望

SSTを実施して、良好な人間関係づくりに効果的であることが実施後の調査から見られた。そのためには、対象である子どもたちの実態に合わせたきめ細かい配慮と慎重な準備計画が重要であった。また、適応指導教室のような心理的影響を受けやすい子どもたちに実施するには、時間や実施回数など弾力的に扱う必要があると感じた。学んだスキルについては、日常生活での活用を促し、スキルの定着を図っていく必要がある。また、自己肯定感の醸成や学習意欲の向上につながっているかの視点での検証も行っていく必要がある。

PDFアイコンPDFで見る