定時制高等学校における「基礎的・汎用的能力」の育成
代表者:樋上 潔 所在地:岡山市 助成年度:2013年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
本校は岡山県立の唯一の定時制高校であり、昼間部・夜間部に406名(平成25年5月1日現在)の多様な生徒が在籍している。中でも、小中学校時代に不登校を経験した生徒が、約4割を占めているのが大きな特徴である。また、他校を中途退学した生徒や、発達障害の診断を有する生徒も増加している。
烏城高校では、学校全体でキャリア教育に取り組み、生徒の「基礎的・汎用的能力」の育成を目指している。今年で2年目となるこの研究では多様な生徒に対して「基礎的・汎用的能力」を身につけさせるための実践を深めることを目標とした。キャリア教育は学校教育全般の活動を通して実施していくものであり、授業と行事の2本柱で育成を図っている。特に授業では基礎的な知識を身につけること、協同的な学びを通して思考力・判断力・表現力を伸ばすこと、ICT活用によって学習意欲を高めることなどに取り組んだ。
行事では、今年度から、すべての県立高校で取り組むことになった「社会貢献活動」によって汎用的能力の伸長を目指した。
研究・実践活動の内容と方法
1組織作り
昨年度立ち上げた2つの委員会の活動を継続した。
「キャリア教育プロジェクト委員会」:各教科および教務課・生徒課・キャリア教育課の代表によって構成。全体の研究方針を立て、それぞれの部署でどのような取組を実行するかの報告・調整の場とした。
「授業改善・研修委員会」:キャリア教育プロジェクト委員会のメンバー以外で、各教科および教務課・生徒課・
キャリア教育課からの選出者によって構成。授業改善について検討した。
2総括とテーマ設定
「授業改善・研修委員会」において、昨年度の総括をしながら、今年度の目標について話し合った。その後、各教科で現状と課題について話し合い、それぞれのテーマ設定を行った。
3実践
①組織マネジメント・授業改善校内研修会(教員対象7月22日、12月24日)
7月の研修会では4月からの取組を振り返り、できたこと・できなかったことをKJ法を利用しながら話し合った。生活指導面やマナーのこと、授業態度など多岐にわたる内容を検討し、優先順位をつけて具体的な方向性も探った。12月の研修会では学校アンケート(生徒・保護者・教員)を分析しながら各課で振り返りと重点課題を検討した。
②公開授業(校内10月中旬〜11月初旬)
教員一人一人が1時間の公開授業を設定し、教科の目標に則った授業をすることとした。授業者は簡単な指導案(授業の概略)を用意し、各教員は2回以上参観して「授業参観報告書」を授業者と授業改善・研修委員会に提出した。授業改善に利用するためや、参観したいが同じ時間に授業をしていて参観できない対策のために、地域の公民館で活動している「ムービー京山」の方々に依頼し、授業のビデオ撮影・編集をしていただいた。
③研究発表大会(校外向け12月7日)
岡山県高等学校定時制通信制教育研究協議会の「進路指導」部門研究発表大会を実施した。「定時制高校における『基礎的・汎用的能力』の育成」というテーマで、2年間に渡って研究した成果を各課、教科などそれぞれの部署が発表した。来賓2名を含む約40名の校外からの参加者を交えて、充実した発表大会となった。
④社会貢献活動(生徒7月19日、2月24日)
今年度から、すべての県立高校で取り組むことになった「社会貢献活動」が単なる奉仕活動にならないように、社会貢献活動の意義について若手講師(公民館で東日本大震災の被災者を支援する活動をしている方、社会福祉協議会で福祉の仕事をしている方)に話をしていただいた。ボランティアは「困っている人に何かをしてあげる」という一方的なものではないこと、特別な活動ではなく自分自身も楽しくやりがいを持って行うこと、自分たちの地域社会を自分たちの手でより住みやすいものに変えていく活動だということなどを学んだ。
7月は、地域の保育園や公民館にプレゼントするためのフラワーポッドづくりや、草抜き作業などの活動を生徒全員で行った。2月は「他者への贈り物(ギフト)」というテーマで、7月から継続したフラワーポッドづくり、新たな活動として保育園児に配るための雛飾り作製、チャリティーサンタからの手紙作りなど、楽しみながら活動を行った。
得られた成果及び評価
以前から授業改善に向けた取組は様々行ってきていたが、この2年間は特にキャリア教育と関連づけて「基礎的・汎用的能力」の育成について議論をし、実践を深めていった。前年度の反省を踏まえ、各教科でどんな取組をすればよいか話し合い、教科の統一した目標を決めたうえで、個人個人の授業の中で工夫を図った。
組織的な取組によって、生徒の授業への参加は少しずつ積極的になっていった。お互いの授業を見ることが定着し、教員の意識も変わってきたように思う。
また、今年度から始まった社会貢献活動において、誰かの役に立つこと、誰かの笑顔をつなげていくことの喜びを生徒達は感じることができたようである。人のためになる活動をすることが自己肯定感を高めることになり、汎用的能力の育成にもつながったといえる。
残された課題とその解決への展望
「基礎的・汎用的能力」は一朝一夕に身に付くものではない。今後も授業や行事など、学校での教育活動全体を通して、生徒に働きかけたいと思う。
定時制高校の実態として、様々な困難を抱えた生徒達が在籍することは今後も続いていくだろう。学校という集団の中で、いろいろな活動を通して、社会性が身に付くことを粘り強く生徒に伝えていきたいと思う。