豊かなコミュニケーション力を身に付け、 互いに高め合う生徒の育成

団体名:総社西中学校 SEL-8S研究会
代表者:三上禎子 所在地:総社市 
助成年度:2013年度 教育活動助成
  • 学年別SEL実施内容
  • 第1学年「わかりやすく伝えよう」
  • 第2学年「顔の見えないコミュニケーション」
  • SEL授業の感想

研究・実践活動のねらいと期待する効果

1ねらい
SEL-8S(SocialandEmotionalLearningof8AbilitiesattheSchool)(※)の実践により生徒のコミュニケーションを活性化し、生徒同士のより良い人間関係を醸成することにより、互いに安心できる学級集団の中で協同学習に取り組み、生徒の学力向上を図る。
(※)自分の感情を察知し、それを理解し、自分自身でコントロールし、ストレスに対処し、問題を解決し、意志決定スキルを発達させることを目指して福岡教育大学の小泉令三教授と山田洋平研究補助員によって提唱されたプログラム。

2期待した成果
研究及び実践により、生徒の人間関係能力が高まり、より良い人間関係が醸成され、その結果、学習意欲が高まり学力が向上する。また、中学校教育現場でSEL-8Sを意図的・計画的に導入している学校は少ないが、本研究を通して中学校現場への積極的な導入が進むことも期待される。

研究・実践活動の内容と方法

SELの授業を、年間計画に基づき各学年とも年間10時間程度行った。SELの授業は、生徒が自分の感情を理解し自分自身でコントロールできること、ストレスに対処し問題解決ができること、生徒同士のコミュニケーションを活性化することなどをねらいとして、すべての学級で、右図のような内容の実践をした。自他の感情理解が進み、生徒同士のコミュニケーションも深まったことから、SELを学習して友達との関わり方が分かって安心した生徒が増えた。
また、SELでの学習をもとにピア・サポート活動にも取り組んだ。体育会の学級対抗種目である長縄跳びの跳び方を3年生が1年生に教える、合唱集会の全校合唱曲のパート練習で3年生が1、2年生に教えるという活動のほか、2年生全員が出身小学校に出かけていき、小学生の学習支援をするピア・サポートや、全校のピア・サポート週間にも取り組んだ。生徒の感想の中には、「次はもっとがんばりたい」「次はもっといいサポートができそうだ」など前向きなコメントが多く書かれていた。
さらに、教科の授業はもちろん、SELの授業などにも協同学習を取り入れ、より積極的にコミュニケーションづくりに取り組んだ。生徒から「話したことがなかった人とも話せるようになった」「班やクラスの人と接しやすくなった」などの感想が得られた。SELやピア・サポートの取組により生徒同士の良質なコミュニケーションが育まれていることが、協同学習をより効果的に実践するための土壌となっている。協同学習で、分からないことを分からないと言える関係ができ友達同士で教え合う姿も見られた。生徒は、協同学習に取り組むことで授業が楽しいと感じており、落ち着いた学習環境づくりを進めることができた。

得られた成果及び評価

学力の向上に関して統計的に有意な結果は得られていないが、学力テストの結果が県平均を上回る教科も見られた。また、全国学力・学習状況調査の「普段の授業では、生徒の間で話し合う活動をよく行っていると思いますか」の設問に対する肯定的な回答が高く、協同学習に積極的に取り組んでいる様子がうかがえた。
協同学習で成果を挙げるには生徒が高めあえる関係をつくる必要がある。本校では、直接的に学力向上をねらうアプローチではなく、安心して共に学びあい、分からないところを分からないと言える関係を築くアプローチにより、結果的に学力向上に結びつくと考えている。このアプローチは、学力向上だけでなく、不登校の減少にも効果があり、本校の年間30日以上の長期欠席者数は、平成21年度に比べて約3割減少した。
また、SELはそれだけでも教育効果はあるが、協同学習と共に取り組むことによって学力向上に相乗効果を生むものであることから、すでに、学校教育にSELや協同学習を取り入れようとする学校が岡山県内にも見られている。今後も、県内の多くの学校でSELや協同学習の実践がなされることが期待される。

残された課題とその解決への展望

香港教育局生徒指導部門の元主席調査官であるブライアン・リー先生によると、香港では「生徒指導は一部の生徒ではなく、すべての生徒のためのものである」という考えのもと、すべての生徒を対象とした包括的生徒指導サービスを構築し、理念、人事、財政資源の充実を図っている。日本の生徒指導も、今後は包括的生徒指導の方向に向かうものと考え、関連学会や研修会への参加を進めるとともに、福岡教育大学の小泉令三先生等の指導でSEL実践を進めている学校視察を通して先進的な知見を得ることができた。
今後も、先進校視察、関連学会や研修会への参加により教員の知見を深めることにより、生徒の人間関係能力をさらに高め、協同学習が一層効果的に行われ、その結果として学力のさらなる向上を目指したい。

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