「教えて考えさせる授業」の研究と実践
代表者:金谷修男 所在地:玉野市 助成年度:2013年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
1ねらい
近年、発達障害を持つ児童・生徒の増加が問題になってきているが、本校でも、通常学級に在籍する発達障害のある生徒の割合が高く、在籍者の割合が1割を大きく超える学年もある。そうした中で、玉野市では、発達障害を持つ生徒にも持たない生徒にも、「どの子にもわかりやすく、どの子にも楽しく取り組める」授業を創ることが大切であるとの考えから、授業のユニバーサルデザイン化の推進に取り組んできている。本校でも、各教科でユニバーサルデザインを意識した授業づくりを進めており、さらに、市川伸一東京大学大学院教授の提唱する「教えて考えさせる授業」を導入し定着させることが、より一層の授業のユニバーサルデザイン化につながると考えている。
2期待した成果
できるだけ多くの教員が先進校における研究会やセミナー等に参加するなど、「教えて考えさせる授業」について研修を深め、その成果を校内研修で全教員に広めるとともに、市川教授を講師に招いた校内研修を実施することで、「教えて考えさせる授業」の本質に少しでも迫ることができるのではないかと考えた。そして、そうした研修を経て「教えて考えさせる授業」を各教科で実践することが、「どの子にもわかりやすく、どの子も楽しく取り組める」授業につながり、生徒の学習意欲や基礎学力の向上、さらには本校が抱える生徒指導上の諸課題の解決にもつながると考えた。
研究・実践活動の内容と方法
1校外の研修会への参加
6月28日「学力・人間力育成推進会議」富山地区合同研修会(富山中学校)
8月9〜10日OK(教えて考えさせる授業)セミナー(東京大学)
8月25日「学力・人間力育成推進会議」第1回交流連絡会(プラザホテル)
10月25日「学力・人間力育成推進会議」有漢地区研究発表会(有漢中学校)
11月21日「学力・人間力育成推進会議」富山地区合同研修会(富山中学校)
2月22日「学力・人間力育成推進会議」第2回交流連絡会(プラザホテル)
2校内研修の実施
6月27日6名の教員による「教えて考えさせる授業」の公開と、研究協議の実施。
7月4日市川伸一東京大学大学院教授を講師に招き、「教えて考えさせる授業」の授業設計論と実践について研修。
8月27日東京大学での「OK(教えて考えさせる授業)セミナー」参加者による伝達講習の実施。
11月27日八浜中学校区小中合同研修会を本校で開催し、全クラスで授業公開。授業後、「教えて考えさせる授業」について、小・中学校の教員による合同研修会を実施。
3研究と授業実践
年度当初に、非常勤講師も含め全教員に市川教授の著書を2冊(『「教えて考えさせる授業」を創る』『新学習指導要領対応教えて考えさせる授業中学校』)配付し、各教科で「教えて考えさせる授業」の試行に取り組むことを決めた。特に、「何を教え、何を考えさせるのか」をしっかりと意識して毎時間の授業に臨むことと、授業の始めに目標を明示することを確認した。
7月には市川教授を招いて校内研修会を実施した。当日は、「教えて考えさせる授業」の4段階について、教授から分かりやすく教えていただき、中学校での実際の授業をビデオ視聴し、その後の研究協議を三面騒議法で行った。熱心な協議が続き、予定していた時間を大幅に超過するなど、とても有意義な研修会になった。自分たちなりに考え試行していた「教えて考えさせる授業」の目指すべき姿が、この研修会を通じて明らかになってきた。
8月下旬の校内研修では、東京大学で開催された「OKセミナー」の参加者による伝達講習が行われ、2学期からの授業について、全教科で自己評価を毎時間実施することと、ペア学習やグループ学習の積極的な導入の二点を決定した。全校生徒にも「これからの授業について」ということで、この二点について2学期始業式で説明し、翌日の授業から実践していった。
11月下旬の中学校区合同研修会では、全クラスで「教えて考えさせる授業」を実施し、学区の小学校の先生方に公開した。授業後の合同研修会では、2学期以降の本校での授業実践と本格的な「教えて考えさせる授業」の導入に向けての取組について説明し、小学校の先生方から様々な意見をいただくことができた。
得られた成果及び評価
本校の授業スタイルとして、「教えて考えさせる授業」は定着しつつある。さらに、全教科が同じスタイルで授業を行うため、どの生徒も1時間の授業の流れが分かり、安心して学習に取り組める。このことは、授業のユニバーサルデザインにも通じ、授業中にがまんができず教室を飛び出す生徒は、昨年度に比べ激減した。
また、毎年1月に行っている学校自己評価のためのアンケート結果では、「授業の内容や教え方が工夫されていて、分かりやすい授業が多い」の項目で、「よく当てはまる」や「当てはまる」と回答した生徒が82%で、昨年より5ポイント上昇していた。2学期から全教科で実践した「自己評価活動」や、「ペア学習」と「グループ学習」の積極的な導入が、一定の成果を上げたのではないかと考えている。
残された課題とその解決への展望
上記3で触れたアンケートの、「宿題や予習・復習などの家庭学習にはきちんと取り組んでいる」の項目では、肯定的な回答をした生徒は64%と低く、昨年度と比較しても変化がなかった。これは、「教えて考えさせる授業」でのポイントの一つである「予習」の本格的な導入を見合わせていたためであり、来年度から積極的に「予習」の導入を図っていけば、改善されると確信している。
子どもたちの基礎学力と学習意欲の向上を目指して、本研究実践の成果を生かし、来年度以降、「教えて考えさせる授業」のさらなる研究実践に取り組んでいきたい。