すべての子どもたちが読書に親しむ環境づくりを目指して
代表者:山本順子 所在地:吉備中央町 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
町内の読書に関係のある団体・機関が協働して、すべての子どもたちが読書に親しむことのできる環境づくりを目指します。そのために「読書フェスティバルinきびちゅうおう」を開催し、読書体験を通して、家庭や地域における読書活動の関心を高め、親子のふれあいを図ります。
研究の経過
吉備中央町読書推進委員会は、平成17年に町内の読書に関する団体・機関が連携して、吉備中央町の読書活動を推進することを目標に発足されました。構成委員は、小中学校教諭、保育園・幼稚園職員、学校司書、図書館司書、PTA、地元おはなしボランティアグループ(2)、図書ボランティア、施設職員、教育委員会職員の32名です。
1.読書推進委員会の活動
・読書推進委員会会議(3回)、各部会での検討会(数回)
・「読むゾー!大賞〜ちしきの本〜」応募用紙配布、集計
・フェスティバルチラシ、チケット配布(町内外)
・中学生見せ語り指導
・「読書フェスティバルinきびちゅうおう」開催(11月23日)
<読むゾー!大賞ノミネートの本>
『せかいのひとびと』
『ジス・イズ旅のえほんシリーズ』
『しごとばシリーズ』
『どんなかんじかなあ』
『雪の写真家ベントレー』
『みんなあかちゃんだった』
『キッチンでおやつマジックシリーズ』
『アレクセイと泉のはなし』
『気になる日本の木シリーズ』
『てがみはすてきなおくりもの』
2.司書部会の研究
町内に学校司書4名、図書館司書2名(いずれも臨時職員)がいます。小学校9校、中学校は4校あり、学校司書は1人が何校か受け持っています。月1回部会を行い、読書フェスティバルに向けての研究を行っています。「たくさん読む」「良い本と出会う」「本を読む習慣を身につける」を子どもたちの読書推進の最も大きな目標と考えています。その中の1つ、「良い本と出会う」という目標実現のためにベスト100セレクションリストを順に作成しています。「世界の名作100」「日本の名作100」「現代の名作100」「知識の本100」に続いて、今年度は「うつくしいにほんご100」を選書しました。さらに、選定したリストの書籍の内容を題材にした模擬授業をするため、ワークシートの検討や準備等を行いました。
研究の成果
11月23日に行われた読書フェスティバルでは、315人(子ども202人、一般113人)の参加がありました。ほとんどが親子での参加で、親子で本に関心を持ってもらう良い機会になりました。
ステージでは、「人形劇団ポポロ」による『ばけものづかい』を行い、大きな人形を次々と操られる迫力に驚き、古典落語のおもしろさも味わうことができました。
地元おはなしボランティアの2グループによる人形劇や影絵は、幼児から大人まで物語の楽しさや影絵の魅力を十分に感じ取ることができました。
中学生による絵本の見せ語りは、おはなしグループの前座として行い、大勢の方に見てもらえました。練習の成果が発揮でき、堂々と気持ちを込めて発表できました。中学生は、子どもたちが楽しそうに聞いてくれる様子を感じ取り、達成感を味わう事ができ、来年も参加したいという声も出ていました。また、中学生が手作りのしおりを作成し、参加した子どもたちにプレゼントしました。
司書の展示コーナーでは、町内の各学校から選書した「うつくしいにほんごベスト100」の書籍を集め、わかりやすく、手に取って見ることができるように展示を工夫しました。その成果もあり、多くの親子が立ち止まって実際に本を手に取って見ており、本への興味・関心が強まったと思われます。「うつくしいにほんごベスト100」は、今後、学校の授業でも利用できるようにしました。
また、本とあそぼうコーナーでは、選定した本を題材にした模擬授業行いました。前後ふたつに分けた詩を持ったそれぞれの子どもが、音読を通して仲間を探す「バラバラのはらうた」、季語を題材にしたテキストを用いて自分のお気に入りの言葉を獲得していく「季節のことばを味わおう」、なぞなぞの形式で書かた詩を写しながら、答えを考えていく「なぞなぞあそびうた」、早口言葉の要素をもったオノマトペが多用される詩を題材に、その擬音・擬態の主と動きを想像する「たのしい詩」の4パターンの授業を展開しました。見物していた子どもから参加者が続出し、準備していたシートが足りなくなり増刷するほどでした。「書き写す」「音読する」「好きな言葉を探してチェックする」「他者の音読を静聴する」など、急に参加した子どもにも容易にできることばかりで構成したコーナーは、気楽に参加でき、うつくしい言葉に触れる機会を得たことで、満足感や達成感を感じてもらう事ができたと思います。「日本語」という素材が持つ美しさや貴さ、含蓄を余計な手を加えることなく味わってもらうことができたと感じています。
「読むゾー!大賞」は、今年度初めて取り組みました。昨年度、学校司書が選んだ「ちしきの本ベスト100」から10冊をノミネートし、小学生が読んで良かったものに、ひとことコメントを添えて投票してもらいました。町内小学生520人中477人が応募してくれ、そのコメントが良かった人にはコメント賞を贈りました。どのコメントからも本への思いが伝わってくると同時に、子どもたちに読む力、感じる力、書く力がついてきていると感じました。「読むゾー!大賞」とコメント賞の作品も掲示し、友だちの作品を興味深く見る姿が多く見られました。忙しい学校生活の中で、コメントを考える時間もノミネート作品を読み込む時間も十分にとれたわけではないのですが、子どもたちは前向きに肯定的に作品と向き合っていました。アイテムを絞ることでそこに集中でき、子どもはより世界を広げることができるという可能性を見ることができました。
その他、各小中学校の読書活動の取り組みも展示され、他校の様子を興味深く見ている親子の姿が見られました。また、リサイクル本コーナーでは、1500冊あまりの本が寄せられ、参加者はたくさんの本を持ち帰ることができ大変喜ばれました。
今後の課題
このフェスティバルのひとつひとつのコーナーにはこれといって目に見える効果はなく、できるのは反応をはかることぐらいなのですが、薄紙を重ねるように回数とともに積み重なった「本をめぐる喜びの時間」が子どもたちに刻まれていっていると思っています。
司書の、本とあそぼうコーナーでは、小学校教諭の方々がフォローしてくださいました。そこでは、子どもたちの矢継ぎ早な質問にも温かく包み込むように聞き取り、またきれいで明瞭な日本語でわかりやすく寄り添って説明してくださり、子どもたちは安心して作業に没頭できていたように思います。信頼できる言動を伴った大人に寄り添われて、その中で子どもが行う活動の効果を強く感じる場面でした。子どもは、大人の手間と時間を食べて大きくなる存在であり、今後もこの定義を無視することなく、企画を組み上げていかなくてはならないと思います。
学校教育と地域とが協働する生涯学習の推進のなかで、読書推進は大事な柱です。持続可能な形や量を探っていくうちには「はかばかしくない」とか「歩みが遅い」と感じられることもあるかもしれませんが、誰かがいなければできない活動ではなく、誰もが無理なく関われる活動でなければならないと思います。
町に図書館ができて一年、学校・家庭・地域そして図書館が連携し、情報交換をしながら今後も進めていきたいと思います。