簡易ビオトープ作成と水生シダ植物の保護による 水辺環境保全意識の向上
所在地:岡山県 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
高校生の環境保全意識の向上には、自らが環境保全のために活動することが特に有効である。よって本研究では、水生シダ植物であるデンジソウの保護と繁殖活動に取り組むことで、高校生の水辺環境の保全意識を向上させることを目的とした。デンジソウは水田や沼などの流れのない水域で生育する水生シダ植物である。その見た目は4つ葉のクローバーに似ており、室内園芸のアクアリウム用の素材としても注目され、生徒達にとっても興味を持ちやすい材料である。かつては、暖かい地域を中心に普通に見られ、水田の雑草とされていたが、近年、農薬・除草剤の使用等で個体数が激減し、環境省レッドリスト(平成24年)で『絶滅危惧Ⅱ類』に選定されている。それにも関わらず、保護に向けた十分な体制が整っていないのが現状である。
研究の経過
デンジソウの栽培の具体的方法として、簡易ビオトープを作成して校内で生育させる手法を用いた。学校ビオトープは、多くの小・中学校で総合的な学習の時間を利用して作られ、生徒の自然環境への興味・関心の喚起という点で成果をあげているが、整備や管理が生徒ではなく教員・業者中心になりがちであること、希少種の保護という点ではまだまだ改善がいることなどの問題が残されている。角形たらい等を用いた簡易ビオトープを用いるならば、生育環境の整備、日々の世話、繁殖などの諸活動全てにおいて高校生が主体となって行うことができるので、本研究の目的を十分達成できると考えた。
本研究は生物部の活動の一環として行った。この活動に関わった生徒は高校3年生8名、高校2年生6名の計14名である。デンジソウは夏緑性であり、4〜9月にかけて栄養繁殖により増殖することが知られている。よって、2012年4月から校舎裏に栽培環境を整備してデンジソウの栽培を開始した。栽培当初は幅86cm×奥行66cm×高さ34cmのポリプロピレン樹脂でできた角型タライを置き、その中に赤玉土を加えてデンジソウ株を移植した「たらいビオトープ」を作成した(図1)。最初は、土が乾かないように水やりに注意して栽培することでさかんに増殖したが、溜まっている水の水質悪化、昆虫による食害、他植物の侵入等により、個体が弱っていく様子も観察された。
そこで、それらの問題点を改善するため、「たらいビオトープ改良版」を作成した(図2、3)。改良版では、たらいの中に塩ビパイプを切断して作った配管を設置し、高低差とポンプを利用して水を循環させ、溜まっている水の水質悪化を防いだ。循環させる水は雨水を貯めたものを利用し、ポンプを稼働させるために必要な電力はソーラーパネルを使って発電した。また、生育容器の下にブロックを挟んで地面から約20cm高くし、昆虫による食害や他植物の侵入を防いだ。
このように作成した「たらいビオトープ」「たらいビオトープ改良版」を用いてデンジソウを栽培し、成長や繁殖の様子を記録した。
研究の成果
1.デンジソウの生態
デンジソウは移植後、夏場にかけて順調に匍匐茎をのばし、生育範囲を拡げたが、特に6〜8月の気温が高くなるときに成長が早かった。デンジソウは生育環境によって地上葉や浮き葉といった形態の異なる葉をつけることが知られている。水位が低く地表面が乾いた状態では地上葉がよく見られ、水位が高くなり完全に水に浸かると浮き葉が発生した。9月以降はあまり成長せず、それまでに生じた葉が枯れ始め、12月にもなると葉はほとんど枯れてしまい、地下茎で越冬する様子が観察できた。
2.栽培管理
デンジソウを生育させる場合、与える水は水道水でも特に問題はなく、液肥等を与えなくても順調に匍匐茎を伸ばし生育した。気温の低下により葉は枯れ始めるが、恒温器等で20℃前後に保てば冬場においても地上葉を保つことができた。浮き葉が発生する水環境では、個体全体の成長が遅くなってしまうので、より早い成長を期待する場合、地上葉が増えるよう、表土が丁度浸るくらいの高さの水位で生育させる必要がある。しかし、このような条件では、他の陸上植物の移入や昆虫の食害を防がなければ生育が制限されてしまう。今回作成した「たらいビオトープ改良版」はこれらの問題が全てクリアできているので、効率良く栄養繁殖させることができた。
3.水辺環境保全意識の変化
活動以前は、デンジソウについてよく知らない生徒が大半であり、絶滅危惧種であることや保護の必要性についても実感がわかない様子であった。しかし、日々の世話を欠かさず行うことで、まずはデンジソウそのものを自分達が保護しているという意識が芽生え始めた。さらに、その生物についてよく知らないと本当の意味での保護が出来ないと考え、文献等を利用しデンジソウの生態について調べる生徒が現れ始めた。その後、調べたデンジソウの生態や周りの環境に留意し、栽培方法を試行錯誤していく中で生徒の科学的思考も養われていった。高校3年生の中には、この活動をきっかけとして、大学進学後も環境保全について学びたいと考えるようになった生徒が現れた。このように、デンジソウの保護活動を通して、生徒の環境保全に対する意識が実際に高まっていったと考えられる。さらに、この活動の成果を学校外での研究発表会で積極的に発表することで、自分たちだけではなく、地域社会に対しても水辺環境保全の重要性を訴えることができた(図4)。
今後の課題
簡易ビオトープといった人工的な環境条件下でのデンジソウの栽培には成功したが、高校生の環境保全意識をより高めるためには、野外での生育状況を確認することが効果的であると考える。よって岡山県内を詳細に調査し、デンジソウの現在の自生地を認識したいと考えている。