定時制高等学校における「基礎的・汎用的能力」の育成

団体名:岡山県立烏城高等学校キャリア教育研究グループ
代表者:樋上 潔 所在地:岡山県 
助成年度:2012年度 教育活動助成
  • グループでフラッシュカード作成
  • キャリア教育情報交換会

研究の目的

本校は岡山県立の唯一の定時制高校であり、昼間部・夜間部に403名(平成24年5月1日現在)の多様な生徒が在籍している。中でも、小中学校時代に不登校を経験した生徒が、約4割を占めているのが大きな特徴である。また、他校を中途退学した生徒や、発達障害の診断を有する生徒も増加している。
烏城高校では、学校全体でキャリア教育に取り組み、生徒の「基礎的・汎用的能力」の育成を目標としている。この研究では多様な生徒に対して「基礎的・汎用的能力」をどのように身につけさせていくかを全教職員で考え、実践を深めることを目標とした。キャリア教育は学校教育全般の活動を通して実施していくものであり、授業と行事の2本柱で育成を図っている。特に授業では基礎的な知識を身につけること、協同的な学びを通して思考力・判断力・表現力を伸ばすこと、ICT活用によって学習意欲を高めることなどに取り組もうと考えた。
不登校など様々な原因で、小中学校で本来身につけておくべき基礎的な力を習得していない生徒に対する「学び直し」も大きなテーマの一つである。社会に出て働く上で身につけておくべき基礎的な学力とは何かについての共通理解を図り、日々の授業でどのような力をつけるべきかを各教科で研究することとした。

研究の経過

1.組織作り
研究を進めるにあたり、新たに2つの委員会を立ち上げた。
「キャリア教育プロジェクト委員会」:各教科および教務課・生徒課・キャリア教育課の代表によって構成。全体の研究方針を立て、それぞれの部署でどのような取組を実行するかの報告・調整の場とした。
「授業改善・研修委員会」:キャリア教育プロジェクト委員会のメンバー以外で、各教科および教務課・生徒課・キャリア教育課からの選出者によって構成。教務課が中心となって実行していた昨年度までの授業改善について総括し、今後の授業改善について検討することとした。

2.総括とテーマ設定
「授業改善・研修委員会」において、昨年の総括を検討しながら、今年度の目標について話し合った。各教科で現状と課題について話し合い、テーマ設定を行った。

3.実践
(1)授業改善研修会(7月20日)
各教科・各自の目標や取組内容について、個人作業・グループワークを通して練り上げた。岡山大学の高旗浩志准教授が作成したワークシートを活用した。高旗准教授に授業改善に向けての助言をいただいた。
(2)ICT活用授業推進リーダー研修講座校内研修(10月17日)
総合教育センターでの研修に参加した教員による校内研修を実施。フラッシュ型教材の実践例紹介の後、実際にフラッシュ型教材の作成と発表を行った。画用紙を使ったフラッシュカードは手軽に作成でき、すぐに授業でも活用できるものだった。短い時間で反復練習ができるため、各教科の基礎・基本の定着に役立つと感じられた。
(3)公開授業(校内・10月)
例年10月を校内教員対象公開授業月間と位置づけ、他の教員の授業を適宜参観することとしていたが、本年は教員一人一人が1時間の公開授業を設定し、教科の目標に則った授業をすることとした。授業者は簡単な指導案(授業の概略)を用意し、各教員は2回以上参観して「授業参観報告書」を授業者と授業改善委員会に提出した。授業改善に利用するためや、参観したいが同じ時間に授業をしていて参観できない対策のために、地域の公民館で活動している「ムービー京山」の方々に依頼し、授業のビデオ撮影・編集をしていただいた。
11月には授業参観報告書の一覧を配付し、教科内研修の時間を持った。
(4)公開授業(校外向け・12月7日)
各教科1つずつの授業を公開。実際の授業(5講座)とビデオ公開(3講座)の中から選んで参観していただいた。研究協議では本校教員と他校の教員が混ざってグループを作り、意見を交換した。
(5)キャリア教育情報交換会(1月18日)
本校の就職アドバイザーである草地達生氏を含む5名の就職アドバイザーの方々に集まっていただき、キャリア教育に関わる情報交換を行った。特に学校において、授業の中で身につけてほしい力と、授業以外で身につけてほしい力についてお話をいただいた。早い段階から進路希望を考えておく必要性や、基礎学力の重要性、挨拶の大切さ、コミュニケーション力の育成など様々な観点からの提言をいただいた。
(6)講演(2月15日)
授業改善の目的で、「授業への参加を高め学力を伸ばす〜協同学習の考え方と進め方〜」と題して、中京大学国際教養学部の杉江修治教授に講演していただいた。“学習意欲を喚起するために”、“学びのマップづくり”、“協同の仕掛けづくりはどうすればよいか”等について丁寧に話をしていただいた。
(7)協同学習ワークショップ(2月17日)
日本協同教育学会主催の協同学習ワークショップが岡山で開催された。本校からも2名の教員が参加し、協同学習の具体的な技法である「リレー学習」や「ジグソー法」について学んだ。

研究の成果

これまでも授業改善に向けた取組は様々行ってきていたが、今年度は特にキャリア教育と関連づけて「基礎的・汎用的能力」の育成について議論をし、実践を深めていった。各教科でどんな取組をすればよいか話し合い、個人個人の授業の中でその実現を図った。多様な取組によって、生徒の授業への参加は確かに積極的になっていった。お互いの授業を見ることによって、教員の意識も変わりつつあるように思う。なによりも同じ教科内での話し合いが増えたり、授業改善・研修委員会の中で、他の教科の教員ともあれこれ意見交換ができたりと、組織的な連携の形が広がってきたことが成果といえるだろう。職員室でも、授業の教材についてあれこれ情報交換が行われるなど、授業改善への気運は高まっている。

今後の課題

「基礎的・汎用的能力」に関しては数値として測ることに難しさがある。生徒の成長を測る尺度にはどのようなものがあるか研究を続けたい。
定時制高校の実態として、授業に遅刻したり欠席したりする生徒が多いのが現実である。授業にきちんと参加するメリットを生徒にどのように伝えるか、全教員の共通理解を図りつつ、生徒への働きかけを続けていきたい。

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