だれもが行きたくなる学校づくり(2年次)
代表者:藤井和郎 所在地:岡山県 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
総社市内全小・中学校において、マルチレベル・アプローチによりすべての子どもに良質のコミュニケーションを大量に提供するプログラムを実践するとともに、小・中学校間の連携を強化するための教職員対象の合同研修会を行うことにより、不登校を未然に防ぎ、「だれもが行きたくなる学校」を実現するための指導方法や支援体制の在り方を探る。
研究の経過
平成23年度同様、子どものコミュニケーション能力を高め、学校にソーシャル・ボンドを築くためのプログラムとして、SEL(社会性と情動の学習)とピア・サポート、協同学習、小中連携、早期介入、チーム支援等を継続することに加え、平成24年度は総社市内すべての小・中学校において品格教育も実施した。
1.一次・二次支援に係る前年度からの継続プログラム
各校とも、トレーニング(8〜10単位時間のSEL)→プランニング→サポート活動→スーパーヴィジョン等により構成されるピア・サポート・プログラムと、各授業5分間又は一日30分間の協同学習を展開した。
SELでは、感情を知る手掛かり、感情のコントロール、聴き方、断り方、頼み方、問題解決の仕方等を系統的に学習し、学んだスキルを活用する場として、同学年や低学年、異校種の幼児児童対象のピア・サポート活動を行った。単発の活動で終わるのではなく、同じサポート対象との活動を何度か積み重ね、活動のたびにスーパーヴィジョンを丁寧に行うことにより、活動が活性化され子どものコミュニケーションが促進されることが分かった。
また、協同学習は、SELで学んだスキルを日常的に活用、発揮できるよう、すべての授業で5分間又は一日30分間を目安に実施するようにした。形式にはこだわらず、子ども同士の交流場面を毎時間5分間保障することにより、コミュニケーションの量が確保されるとともに、子ども同士の小さなサポート場面が増え、授業に積極的に参加しようとする姿が多く見られるようになった。
2.品格教育の全面実施
品格教育を「よい習慣を形成する教育」と捉え、総社市の未来を担う子どもの道徳性を伸ばし、市民としてのよりよい習慣や規範意識を身に付けさせることをねらった。総社市の目指す子ども像「郷土を愛し、夢に向かって共に伸びる子ども」や保護者アンケートを基に、「あいさつ」「思いやり」「責任」「感謝」などと、月ごとにテーマを設定してポスターにより可視化した。ポスターは、校内だけではなく各家庭に配付するとともに、地域の公共施設や商店、企業、子ども110番の家、掲示に賛同くださる民家等、市内の至るところに掲示し、テーマに関して子どものよい行いを見掛けたら、当該校に連絡をくださるよう依頼した。市の広報誌にも月テーマにちなんだ記事を毎月連載し、地域ぐるみで子どもを育成する気運を高めた。
各校においては、月テーマにちなんだ朝礼の講話や道徳の授業を行うとともに、それに関連する週目標を設定し帰りの会で振り返りをした。月の最終週には、子どもが各自の週目標を設定し、行動化を促した上で振り返りをした。また、学校便りや学級通信等で月テーマと子どもの活動について保護者に周知するとともに、道徳のワークシートや自己目標の振り返りシートに保護者のコメント記入を求め、家庭との連携を図った。
研究の成果
1.不登校児童生徒出現率の低下
速報値によると、市内4中学校の平成24年度の不登校生徒出現率は2.31%にまで下がった。これは、ピーク時の平成22年度から36.4%の減少であり、過去14年間の最低値である。特に第1学年の出現率は、ピーク時の平成20年度から73.1%減少した。市内15小学校の平成24年度の不登校児童出現率も0.45%となり、減少に転じた。
(総社市の不登校児童生徒出現率〈速報値〉PDF参照)
2.中学生の一人当たり年間総欠席日数の減少
速報値によると、市内4中学校の一人当たり年間総欠席日数は、平成24年度は4.98日となり、平成21年度から23.9%減少した。
(総社市の児童生徒一人当たり年間総欠席日数〈速報値〉PDF参照)
3.子どもの変容に関する所見
○SELを学習して友達との関わり方が分かって安心した児童が増えた。
○ピア・サポート活動において、上級生はサポート役を経験して有用感や満足感を得ることができ、下級生は上級生に対する感謝やあこがれの気持ちを抱くことができた。
○協同学習により、児童生徒から「話したことがなかった人とも話せるようになった」「班やクラスの人と接しやすくなった」などの感想が得られた。
○品格教育を実施して、児童生徒から「自分から大きな声で地域の方たちに挨拶ができるようになった」「相手のことを思って行動するといいことがたくさんあるのでよかった」などの感想が得られた。
以上から、マルチレベル・アプローチによる一次・二次・三次支援のプログラムは、児童生徒のコミュニケーション能力を高めるとともに温かい人間関係のある学校風土を醸成し、不登校児童生徒を減少させるプログラムとして効果的であったと言える。
今後の課題
各校の校内体制づくりや小中連携は着実に前進したが、小学校等で増加するヘビーケースへの対応は、困難を極めた。家庭との連携の一層の強化や地域の関係機関等との連携体制の構築等は、課題として残された。