感性・情緒を育む言語活動の在り方
代表者:長尾紀江 所在地:岡山市 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
本校ではこれまで、思考力・表現力の育成を目指して「自分の考えをもち、互いに伝え合い考えを深める授業づくり」をテーマに、算数科を中心として言語活動の在り方を研究してきた。その中で、言語は論理や思考といった知的活動の基盤であるとともに、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもあり、両者は相補完的な関係であることが明らかになってきた。感性・言語にかかわる言語活動の役割には、(1)互いの存在についての理解を深め、尊重していくこと(2)感じたことを言葉にしたり、それらの言葉を交流したりすることがあげられる。そこで、新たに感性・情緒に関する言語の役割に焦点を当て、(1)については、温かい学級集団を基盤とした「人権感覚」の育成を、(2)については、音楽科・図工科における「思いや意図」に着目した指導の在り方を探りたいと考え、本主題を設定した。
研究の経過
1.「豊かな感性」についての共通理解
ワークショップ型の職員研修を行い、豊かな感性についてとらえ方を共通理解した。また、めざす児童像を「自分や友達を大切にし、ともに伸びていこうとする子ども」とし、図2のように各発達段階ごとにより具体的な姿を設定した。
2.感性・情緒にかかわる言葉の獲得と交流
「浅黄」「群青」など色を表す言葉一つとっても、日本が育んできた情緒が感じられる。「きもい、ださい」の一語での表現が横行する昨今、感性・情緒を育むためには豊かな言葉を獲得することが欠かせない。また、互いに尊重し合う人間関係を築くためには、違いを認めながら言葉による相互交流を行う必要がある。
そこで、語彙を豊かにし、言葉による交流が促進されるよう、次のような取組を行った。
(1)感じを表す言葉の一覧表の掲示(音楽、図工)※図3
(2)「リフレーミング」:プラチェン言葉(否定から肯定へ)による捉え直し
※例:すぐ忘れる→こだわらない、おおらか
(3)「言葉の花束」「ふわふわ言葉」(言葉のプレゼント)
(4)「心のスケッチ」(三行日記)
3.感性・情緒を育てる学習活動
(1)互いの存在についての理解を深め、尊重すること
人権感覚を育成するために、次に示すような学級活動や道徳を中心とした総合単元的な学習を組み、SGE、SST、CSTなどを実施した。
・3年生単元名「友達っていいな」
・4年生単元名「プラチェン言葉でもっと輝け!チーム4A」
・5年生単元名「和〜豊かな集団をめざして〜」
・6年生単元名「6Bはひとつ〜言葉の力でよりよい友達に〜」
(2)感じたことを言葉にしたり、それらの言葉を交流したりすること
●実践例:第4学年音楽科「日本の音楽に親しもう」〜「こきりこ」の歌に合うリズム伴奏の工夫〜
・「こきりこ」の曲のイメージを感じ取り、そのイメージを言葉に表し、理由や根拠をペア・グループで意見交換する。
※「共通事項」を常掲し、扱う共通事項を明確にする(図4)。
・思いや意図をもって、グループで音楽表現を工夫する。
※6種類のリズムの中からイメージに合うリズムを2つ選ぶ。
※金属の楽器(鉦鼓等)、皮の楽器(宮太鼓等)、木の楽器(ささら等)の3種類の楽器の中で、使う楽器を選ぶ。
※リズムの前半と後半で楽器の種類を変える。
・自分たちの表したい思いを伝え、音楽を形作っている要素を根拠に表現の工夫を説明して、演奏する。
・演奏を聞いた感想を交流する。
・グループごとに本時の活動を振り返り、次時のめあてを決める。
研究の成果
- 学級活動・道徳等において出てきた考えの類似点や相違点を比較検討させる際、根拠に基づいて論理的に討論させるとともに、互いの思いや願いなどの感情交流を大切にすることによって、互いに尊重し合い納得した結論を導き出すことができることが分かった。また、リフレーミンなどの活動を、年間を通じて繰り返し行うことにより、自他のとらえ直しや、ラベリングによる偏見を払拭することが分かった。
- 気持ちや感じを表す形容詞の一覧表を作ることで、児童の語彙を増やし、それらを参考にしながら自分に合った言葉を選んで表現する姿が見られるようになってきた。また、共通事項を常掲することによって、とらえたイメージと共通事項とを関連させる言語活動が促進され、豊かな表現活動につながった。
- 言語活動の充実を支えるものとして、うるおいのある言語環境や自他の大切さを実感できるような雰囲気が大切である。今後も、児童がさらに語彙を広げながら自分の考えを伝えたり、相手の思いを読み取ったりしていくことができるよう、環境も含め、指導の在り方を研究していきたい。