特別支援教育の視点に立つ通常学級における 授業づくりの工夫 〜交流授業に焦点を当てて〜
代表者:福田維子 所在地:岡山県 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
本校は全校児童122人であるが、特別支援学級が3学級あり、通常学級にも支援を要する児童が相当数在籍している。研究2年目となるなる今年度は、昨年度、算数を中心に研究した成果を基に、次の3点について研究する。
・昨年度の研究を整理し、「本校の特別支援教育」としてまとめる。
・算数以外の教科に研究を広げ、研究の深化・拡充を図る。
・「表現力の育成」について重点的に研究し、手立てを明らかにする。
研究の経過
1.本校の授業のユニバーサルデザインの基本的な考え方
「どの子も参加でき、どの子もわかる授業」
2.授業づくりの工夫
(1)見通しをもてるようにするための工夫
特別支援の視点に立つとき、児童が見通しをもって学習に取り組めることは特に重要である。
①学習過程の提示
カードや模造紙で1時間の流れを示すことで、授業の見通しをもてるようにする、同時に、場面を明確に切り替えていくことで、各場面の活動のめあてを掴みやすくし、学習意欲を継続できるようにする。
②めあての明確化
右の写真のように、すべての授業でめあてを板書で明確に示すこととする。また、最後にまとめも必ず書くこととする。
③ヒントカード
詳細なもの、きっかけ程度のものの2種類用意し、児童が選択できるようにする。
(2)自分の考えを表現できるようにするための工夫
自分の思いや考えを表現できてこそ授業に参加できたと言える。また、分かったことやできたことを表現できてこそ授業が分かったと言える。その意味で、特別支援において、児童の表現力の育成は重要である。
①ノート指導
原則として、めあて、自分の考え、班や学級の考え、深化・追究学習や練習、まとめを見開き2ページで書くこととする。板書は児童のノートとできるだけ同じになるようにする。
②ワークシート
絵や図を書くのに手間がかかる内容、操作や観察に時間が必要な授業はワークシートを活用する。
③グループ学習
自分の考えを表現できる場として、毎時間、ペア学習や班学習を取り入れる。
④実物投影機
右の写真のとおり、書いたものや操作の様子を、実物投影機で大型テレビに示しながら説明する場面を設ける。
(3)個別の支援が必要な児童への支援の工夫
全体への支援だけでは授業についていけない児童もいる。このような児童のつまずきを事前に想定し、通常より詳細なヒントカード、少し書き込みを加えたワークシート等を用意し、更に細やかな個別指導を行う。
3.学校に特別支援の風土を
授業づくりと併せて、校内や教室の環境、学校行事など授業以外の指導の在り方を特別支援教育の視点で見直し、学校全体が特別支援の風土になるよう、環境整備、指導法改善、教職員の意識改革を進める。
(1)環境整備の工夫
①教室環境の整備
各学級担任が教室環境チェックリスト(ハード編)、同(ソフト編)を使って、各教室の掲示物、整理整頓、場の構造化等についてチェックを行う。
②1日の予定黒板
児童が1日の生活を見通しをもって行えるよう、右の写真のような予定黒板を各学級に設置し、これを見て行動できるようにする。
(2)特別活動の工夫
学校行事等では、本時のねらい、1時間の流れ、低学年がいる場合は時計の模型を掲示し、見通しをもって活動できるようにする。
(3)授業づくりの工夫
最大の学習環境は「教師の授業力」である。授業の質を上げるため、次のような工夫を行う。
①学習規律についての共通理解
発表の仕方、ノートのとり方、下敷きや定規の使用等、細かく共通理解する。
②授業力セルフチェック
授業力チェックシートを使って、各学期、授業の進め方のセルフチェック、学年部内チェックを行う。
③児童アンケート
児童の学習状況を把握するため、児童アンケートを各学期末に実施する。
(4)校内研究の工夫
研究授業後の研究協議を次のように実施し、実を上げるよう工夫する。
①付箋を活用する反省会
授業を参観する際、3色の付箋を持ち、授業観察を行いながら、桃:良い点、青:改善点、黄:その他、で意見をどんどん書く。班別研究協議で付箋を出し合い、模造紙に貼って構造化しながら協議を進める。
②ワールドカフェ方式による意見交流
班別研究協議後、1人の説明者を残して他班の模造紙に集合する。その班の研究協議で出た意見を聞いた後、各班で出た意見を交流し協議を深める。本校は3班体制なので、意見交流を2回行う。
(5)連携の工夫
①毎週木曜日の学年会
交流学級担任と特別支援学級担任が、翌1週間の指導計画の確認と児童の情報交換を毎週木曜日に行う。
②保・小連携会議
今年度、保育園との連携会議を始めた。児童への支援の準備を入学前から始め、入学後も協力して行う。
4.保護者への啓発
児童精神科医、県発達障害支援センター職員を招聘し、PTA研修会を行った。特別支援についての知識が少ない保護者が多く、意義があった。今後も継続して啓発を行い、特別支援への理解を深めていただく。
今後の課題
教職員の共通理解、授業の充実、環境整備等が大きく進んだ一方、児童の「考えはもっているものの、言語化して表現する力が弱い。」という課題は残されたままである。特別支援の手だてが「当たり前」になってきた。同様に、児童が表現したくなる手立てが「当たり前」になるよう、研究を続けていきたい。