「対話」を通して、共に学び合う喜びを感じ、考える力を高める授業づくり 〜学び合いの接続を探る〜
代表者:吉森昌次 所在地:岡山県 助成年度:2012年度 教育活動助成
研究の目的
本校ではこれまでに、子どもの学力、社会性等を授業において総合的に育む「学び合い」を取り上げ、「対話」を学び合いの中核としながら、子どもの学びをより豊かにする授業づくりに取り組んできた。「子どもの学びを豊かにする授業」とは、教材と出会い、追求の価値を感じた子どもが、仲間と対話し、自分自身との対話を繰り返しながら、思いを表現する中で、認識を広げたり深めたりすることを通して、「分かった」「できた」「学んでよかった」という満足感をもち、さらに新たな追究へ向かおうとするような授業である。このような授業による学びを繰り返すことで、確かな学力や、豊かな人間性が培われるのではないかと考え、研究を進めてきた。それによって子どもたちの中に、学ぶ意欲や思考力の高まりが見られた。しかし、どの子どもにも筋道立てて説明する力が十分に育っているとは言えず、根拠を明らかにして伝え合い、高め合う学習を通して、さらに思考力・表現力を育てていくことが求められている。また、幼稚園から小学校へつながる学びの質を探り、幼小の円滑な接続を図ることがより豊かな学びへとつながっていくのではないかと考え、上記の研究主題を設定した。
研究の経過1
1.授業づくり
授業づくりでは、考える力を高めるために、算数科を中心として、学びのあり方や、教師の支援を探った。
(1)考える力を高め、学びを豊かにする算数科の授業
子ども自ら数量や図形についての課題をつかみ、一人一人が意欲的に思考し、互いに考えを伝え合いながら課題解決をしていくなかで、算数のよさを実感することのできる授業が子どもの学びを豊かにしていく。こうした豊かな学びを繰り返していくなかで、数学的な思考力や表現力が育つと考えた。
(2)思考力・表現力を育てるために
授業のなかの「伝え合い」の場面で子どもたちが思考力・表現力を発揮しているかを見とり、思考力・表現力が発揮できるように適切な支援をすることができたか検討を重ねた。
学習過程/思考力・表現力が発揮できるようにするための支援
①課題を把握する。/自分で思考・表現していくことができる見通しや課題解決への意欲をもつことができるようにする。○見通しをもたせる工夫○問題の吟味○問題提示の工夫
②自分の考えをもつ。/根拠を明らかにし、筋道立てて考えることができるようにする。○絵や図や具体物などの活用○解決のためのワークシートなどの工夫○考えるための十分な時間の保障
③考えを出し合い、理解を深める。/友達と考えを伝え合うことができるようにする。○論点の明確化○伝え合う活動の工夫○説明のさせ方の工夫○発展的・活用的な問題
④ふり返る。/学んだことの良さを実感し、さらに意欲をもつことができるようにする。○観点をはっきりさせたふり返り
2.研究協議
本校では、研究協議をリフレクション(教師が授業中の出来事を具体的に振り返ることを通して、何らかの「気付き」を得て、自らの授業をとらえ直すこと)の場としてとらえ、研究協議において教師一人一人が意見を出し合い学び合う関係を大切にし、一人一人の日々の授業実践(聴き合う関係を育て、対話型授業を創る)の向上につながっていくようにしたいと考えた。全体公開授業では、岡山大学に指導助言を依頼し、学び合い、算数科における学びの本質や支援、幼小の学びの接続について専門的な視点からのアドバイスをいただいた。
3.幼稚園との連携
(1)幼稚園の公開保育参観・研究協議から
協議を通して、保育の背景にある考え方の理解を図った。
・課題の設定、環境設定、肯定的な声かけ
「やってみたい」とおもえる巧みな課題設定により「苦手」や「嫌い」がないよう育てられている。また自分で選んでしっかり活動や体験をすることや、教師から肯定的な言葉かけをされることが、小学校で課題に意欲的、主体的に取り組むことにつながる。
・学びの接続を意識した対話
「思わず言葉がこぼれ出るような体験」「感情が共有できる場」に対話が生まれる。年長においてはグループ活動において話したり聴いたりすることを通して折り合いをつけられるようになり、小学校で新しい考えを生み出していくことにつながる。また、振り返りの場を設けることにより、学んだことを意識できるよう心がけている。
・学びの接続を意識した内容
作る活動では、幼稚園で培われた基礎が小学校での「図画工作科」「生活科」などでさらに工夫を重ねることにつながっている。また、幼稚園での「なりきり」活動は、小学校の「国語科」において登場人物の気持ちを想像して吹き出しに書くような表現活動につながる。
(2)幼稚園職員を招いての授業公開・研究協議(1年算数科)
・1年生にふさわしい思考力・表現力とは
授業の中に伝え合う場を設けることで思考のための言葉が獲得される。伝えようとする意欲をもち、自分が思考したことを言葉で表現しようとすることが重要である。
・思考力・表現力育成のための支援方法を豊かにもつ
1年生が自分の操作や思考の過程を言葉にしていくことは容易ではない。それを支援する教師の手立てが重要である。また、伝えるための技法の習得は、算数科だけでなく、いろいろな教育活動を通して行われなけらばならない。
研究の成果
- 「思考力・表現力を発揮する姿」や「支援」を明確にすることで、子どもの学びが成立している場面やそうでない場面をより具体的に見とり、次の授業づくりにつなげていくことができた。また、思考力・表現力を発揮するための支援によって、自信をもって自分なりに書き表したり、全体の場で話し合ったりする姿が見られた。さらにその話し合いが、聴いている子どもたちの思考を促し、学ぶ喜びにつながった。
- 幼小で研究の場を共有することで、学びの系統性について見直したり、授業づくりや子どもに対する教師のかかわりにおいて新たな視点を得たりすることができた。それによって、子どもどうしで互いの考えを聴き合い、学び合おうという意欲の高まりや、思考力の高まりにつなげることができた。
今後の課題
- 論点をより明確にして話し合ったり、出てきた考えをつないでいくような話し合いをしたりする場を設定することで、思考力・表現力を高めていきたい。また、算数科を中心に検討してきた支援のあり方を他の教科・領域にも広げ、子どもの学びを豊かにする授業づくりにつなげたい。
- 幼小中の円滑な接続を図るため、これまでの幼小の学びの接続からさらに、中学校への接続をも見通して研究を進め、子どもに向き合う幼小中の教師の姿勢も含めた教育方法などにおける成果を広げていくことが求められる。