定時制高等学校における「学び合い」の導入と実践 〜自ら取り組み、協力し合う授業づくりを目指して〜
代表者:樋上 潔 所在地:岡山県 助成年度:2011年度 教育活動助成
研究の目的
昼間部普通科と夜間部商業科を併設する定時制高校である岡山県倉敷市立玉島高等学校には、様々な背景から義務教育段階の学習内容が身についておらず、集団での授業になじめない生徒や積極的に授業に取り組めない生徒が多い。「学び合い」を授業に導入することで、生徒が主体的になって学習に取り組む態度を養うとともに、お互いに協力し合う良好な人間関係を築いていくことを目的とする。協力し合って進める学習環境の中で、基礎学力の定着やコミュニケーション能力の向上、学校生活の充実、出席率の向上などといった効果も期待できる。また、学校全体で研究に取り組むことで、教員の授業力の向上や同僚性の形成にも役立つと考えられる。
研究の経過
平成22年度より、職員会議での資料の紹介や他校の公開授業研究会への参加を行い、1月にプロジェクトチームが発足した。3月には外部アドバイザーを岡山大学教師教育開発センター准教授5旗浩志先生に依頼し、平成23年度より学校全体での取り組みを開始した。平成23年度は、教科研究委員会の設置や実施計画策定、校内研修といった校内での研究体制を整えるとともに、校外の公開授業研究会や研修会などにも参加し、研究を深めた。それぞれの教員が実践を重ねながら、校内公開授業を3回行い、中間発表として平成24年1月30日に第1回公開授業研究会を開催した。3月には教科ごとに「学び合い」の実践のまとめを行った。
1教員の組織と研修
(1)校内体制
教科研究委員会を設置し、その中に4名の「学び合い」プロジェクトITを配置。教科研究委員会は他に、教頭、教務課長、教科主任で構成した。外部アドバイザーの5旗浩志准教授の助言も受け、学び合い実施計画、短期・中期目標等を作成して、学校全体で取り組むことの共通理解を図った。
(2)校内研修
岡山大学教師教育開発センター5旗准教授を講師に迎え、計2回実施した。プロジェクトメンバーを中心に、校内公開授業週間を計3回実施した。また、職員室に参考資料コーナーを設置した。
(3)校外研修
広島県立安西高等学校、岡山県立邑久高等学校、岡山市立西大寺中学校、岡山市立岡輝中学校、関西高等学校、松江市立女子高等学校、岡山県個を生かし集団を育てる学習研究協議会、日本協同教育学会第8回大会などに計8回、のべ13名が他校の公開授業研究会及び研修会に参加した。
2生徒への指導と支援
(1)環境整備
机をコの字型に配置し、机・椅子の足にテニスボールを装着した。
(2)「学び合い」の呼びかけ
「学び合い」キャッチフレーズを策定。「協力して取り組もう。」「わからなかったらたずねよう。」「みんなができるようになろう。」の3点を生徒に呼びかけた。
(3)授業
プロジェクトメンバーを中心に、「学び合い」を取り入れた授業を全教科で随時行った。生徒の実態や科目の特性などに応じて、本校ならではの「学び合い」の実践を数多く行うことができた。
3中間発表
1月30日に中間発表として、第1回公開授業研究会を開催、校外からも30名を超える参加者を迎え、公開授業7講座と研究授業1時間及び研究協議会を行った。
4評価と分析
学校生活と授業に関するアンケート(生徒、教員)及び出席率調査、教員アンケートを実施し、学び合い導入による生徒の変化を数値と観察によって、分析している。
研究の成果
一年間全校で「学び合い」に取り組むことで、生徒の授業への取り組みは前向きで協力的なものに変化してきた。教員にとっても授業改善や協議研究を通じて相互に研鑽することができた。
1授業実践例
授業の流れ:目標説明→全体学習・基本事項説明→班学習・班発表(板書)→全体でまとめ
目標設定:全授業で目標を明確に板書などで説明するようにした。目標は活動目標を意識するようにした。
班学習の内容:意味調べ・訳、実験・作業、解釈・分析(理由・象徴・推測・意見など)など
役割分担:班の中で、4分割した課題を与えたり、記録・板書・発表・偵察の4係を分担させたりした。
ワークシート・班シート:授業の流れと班学習がスムーズに行えるように配慮して作成した。
班分け:教室の席の配置に従って3〜4人になるよう、その時の出席者に応じて毎時間指定した。
2生徒
(1)学校生活と授業に関するアンケート結果(2回実施しての比較)
授業のイメージは受動的な講義形式から協同的な学習へとイメージの大きな変化が見られ、授業の時に助け合ったり教え合ったりする場面が増えていることもはっきりとわかる。他方で、発表が一部の生徒に偏る場合や、「学び合い」に消極的な生徒も存在する。
(2)出席率調査
生徒の出席率は向上しているが、これには在籍生徒数の変動や担任の指導など、様々な要素が含まれる。
(3)観察や聞き取り
学び合いに慣れて、分担・協同して作業や相談、発表を進めることができるようになった。生徒の主体的な活動や生徒同士の交流も増え、班学習の中で良好な人間関係を築くことにつながる場面が多く見られた。これまで対人関係に消極的だった生徒もコミュニケーションを取ることに少しずつ慣れていったように思われる。ただ、分担の偏りや人間関係に問題が生じたために授業中の班学習に配慮が必要な場合もあった。
今後の課題
「学び合い」をさらに進め、より体系的で効果のあるものになるように以下の課題に取り組む必要がある。
1授業実践のパターン作成
定時制である本校の実態に合った「学び合い」の活動や授業実践のパターンをまとめる。
2生徒支援
個々の生徒のコミュニケーション能力の差異や特別支援の必要に応じて支援を行う。
3評価
学び合いの場面での個々の生徒の学習をどのように評価するかを協議して基準を作成する。また、学び合い導入に関する学校全体の評価の方法を定めて行う。