「聴き合い、学び合う」授業の創造 〜一人ひとりの学ぶ意欲と互いの思いを共有する力を育てる授業づくりをめざして〜

団体名:岡山市立西大寺中学校「聴き合い、学び合う」授業づくり推進協議会
代表者:佐藤 信治 所在地:岡山市 
助成年度:2011年度 教育活動助成
  • 小グループによる協同
  • 全体公開授業・研究協議 中学校区・岡山市内だけでなく全国から参観に来られました。

研究の目的

混沌とした社会情勢の中で、岡山県では暴力行為・不登校出現率が全国ワースト1という大変な状況になっている。本校においても、厳しい生活環境(就学援助者120人)、家庭環境の中で生徒たちは「生きづらさ」を感じながら学校生活を送っており、それが不登校・学力不振・授業徘徊・生徒間のトラブルとなって表れている。ただ誰もが「分かりたい」、「学びたい」という思いは持っているが、分かる生徒中心の一斉授業では「学ぶ意欲」の前に「あきらめ」の気持ちが出てしまう。一人一人の学びを保証するためには、教師主導で進む授業ではなく、一人一人の生徒が学びの中心であり、聴き合い、共に学び合う授業を確立しなければならない。新学習指導要領でも、「言語活動の充実」、「コミュニケーション能力の育成」、「良好な人間関係づくり」が重要視されている。そのためには、授業の中で自分の思いを伝えること、相手の思いをきちんと聴くことは絶対に必要であり、生徒主体の『協同学習』はこれからの授業づくりの中心となる考え方だと思う。本校では全教員が授業を公開し、その都度研究協議を行い、相互批評による授業技術の向上と生徒理解に努める。また、学期に1回講師を招いて全体で公開授業を行い、より質の高い学び合いの研究を積み重ねるとともに全国へも取り組みを発信している。また、同じ協同学習に取り組んでいる岡山市内の中学校(岡輝・足守・岡山福田)とも合同で研修会を行い、学びの共同体の質の向上を目指している。

研究の経過

1授業の改革
一時間の授業の中に「小グループの協同」(男女3〜4人のグループ)を取り入れたことで、自信がない生徒も気軽に意見が言え、学ぶ楽しさにつながっていった。分からなくて困った生徒は「ここが分からない、教えて」と自分から聞くことができ、質問された生徒は責任をもって仲間に応えることができるようになってきた。生徒同士で学び合うことは、相手を知り互いに支え合うかかわりを育てることにもつながった。また、グループで多様な考え方をすり合わせたり新しい考えを導き出すことで、より質の高い学びを生み出すことができた。また、全ての教室で机の配置をコの字にして、全員がお互いの顔が見えるようにしたことで、お互いの表情や思いを理解することができ、孤立感がなくなり仲間とのつながりを感じることができ、学ぶ意欲にもつながったようである。今年度は、「学ぶ意欲」と「学力」の両面での向上をめざし、一時間の授業の構成を二段構えとした。前半でこの時間で学ばなければならないこと(マスト課題)を学習し、後半ではやや困難な課題(ジャンプ課題)を学習するようにした。こうすることで、低位層の底上げを行いながら、上位層も伸ばすことができる。また、導入にはできるだけモノを用意すること、最初の五分を大切にすることを基本とした授業を行った。これは、学びから逃げ出しやすい生徒たちを授業に引きつけることに大いに役立った。

2同僚性を構築する。−公開授業と研究協議を通して−
今年度も一人一回公開授業を行い、その都度生徒一人ひとりの学びが成立しているか研究協議を行った。授業を撮影したビデオを視聴しながら、教師の指導技術の議論ではなく、生徒の学びの事実に焦点をあてて話し合うスタイルをとった。その場合、生徒の色々な表情・つぶやきがビデオに撮れているかどうかも大切なことであり、ビデオの撮り方についても研修を重ねた。まずは、参観者が生徒一人一人の表情・つぶやきを見取ることができることが大切であり、このことは授業で生徒一人一人の表情・つぶやきを見取ることにつながり、研究協議を継続することで、生徒への関わり方も向上してきた。生徒がどこで学びどこでつまづいているか、生徒の小さな変化が見えているか、課題が正しく設定されているか、背伸びとジャンプのある学びを保障できたかなどを具体的な事実に即して検討することで、教職員の「生徒を見る目」、「教師を見る目」を高めることができた。また、学期に一回、講師(佐藤雅彰先生・佐藤暁先生)を招いて全体会を行った。5時間目に一人の教員が研究授業を行い、全員で参観する形式をとった。研究協議では、佐藤雅彰先生・佐藤暁先生にビデオを使い、ポイントになる場面について、指導講評をしていただいた。この研究会を開催する度に、次のステップへの貴重な示唆をいただき、「協同学習」の奧の深さと授業力向上への意欲をもらっている。公開授業・研究協議の積み重ねが教職員の授業力向上に大きな力となることを実感した。また、この会には、西大寺中学校区の保育園・幼稚園・小学校の先生方、岡山市内を始め県外からも参観にきていただき、大きな刺激を受けている。

研究の成果

二年間取り組んできた成果としては、「学ぶ意欲」に大きな進歩が見られた。協同学習を始める前と比べると「授業が楽しい」では60%が88%に、「自分の思いを伝えることができる」、「分からないことを教えてもらえる」という項目では、58%が85%に増加している。「協同学習は自分のためになっている」も85%と肯定的な意見が多い。「学力の向上」については、数値的な検証はまだ不透明であるが、ここ二年自己推薦入試では合格率が増加している。面接等で自分の思いを自分の言葉でしゃべることができるようになってきたのではないかと思われる。三年目には「学力の向上」について数値で示すことができるように努力したい。

今後の課題

教材(モノ)の準備、ジャンプ課題の設定、生徒をつなぐ技術の向上等、時間的に厳しい中での取り組みである。特に、ジャンプ課題の設定についてはまだまだ試行錯誤の段階である。また、あまりにも低学力な生徒や多くなる発達障害の生徒への対応にも苦慮している。先進校をはじめ他校(市内中学校三校)との連携を図りながら、全ての生徒の学びを保証する質の高い協同学習のあり方を追求し、より成果の見られる一年としたい。

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