豊かな発想力を育てるオープンエンドの授業の創造

団体名:倉敷市立水島小学校算数研究会
代表者:松浦 孝昭 所在地:岡山県 
助成年度:2011年度 教育活動助成
  • 粘土で実寸大のL字型の立体を作って考えた。
  • 図や粘土を使って考えを説明した。

研究の目的

算数の自力解決の時間には、見通しがもてず考え込んでしまう児童や、自分の考えに自信がもてない児童が少なくない。原因の一つとして、算数の問題には正しい答えが一つしかなく、それを求める学習だといった子どもの固定的な意識があるのではないだろうか。そこでオープンエンドアプローチの問題や探求的な活動を多く取り入れた授業づくりをめざして本研究に取り組んだ。オープンエンドアプローチには、「オープンプロブレム」(多様な問題を作ることができる)、「オープンプロセス」(考え方が多様にある)と「オープンエンド」(答えが多様にある)がある。これらを授業に取り入れることにより、子どもの豊かな発想から生まれる多様な考えを生かし、柔軟な思考力や学びの意欲を伸ばしていく授業づくりができるのではないかと考えた。

研究の経過

1オープンエンドアプローチを取り入れた指導計画の作成
オープンエンドアプローチの指導は、未完結な問題を課題として、そこにある考え方や答えの多様性を積極的に利用することで授業を展開していく。そして、その過程で既習の知識・技能・考え方をいろいろに組み合わせて新しいことを発見していく経験を与えようとするものである。オープンエンドアプローチの問題は、授業の導入時、まとめ・発展時など、様々な場面で取り入れることができるので、教師が目的をはっきりともち、授業で最も有効な場面に位置づけるようにした。また、オープンエンドアプローチの問題に取り組む時間を確保するために、単元計画の際には単元全体を見通し、今後の学習や生活の必要性に応じて十分に時間をかけるところと、そうでないところを見極め、時間配分をするようにした。

2公開授業と研究協議
全ての学級で日々計画に従って、オープンエンドアプローチを意識した問題や探求的な活動を取り入れた授業を実施した。また、校内研究主題から学年部ごとに「めざす児童像」を設定し、一人1回の公開授業と研究協議を行った。
1年生…「たしざん(2)」操作による繰り上がりのあるたし算の仕方の理解。
2年生…「ちがいをみて」テープ図をかいて,求大の問題を逆に考える。
3年生…「あまりのあるわり算」余りがでる問題,余りについて考える。
4年生…「変わり方」2量の関係を表にかいて調べ,変化の規則性を調べる。
5年生…「面積」鋭角三角形の求積の仕方を考える。
6年生…「比例と反比例」反比例の意味とその性質。

3外部講師を招いての研修
研究を深め、より確かなものにするために吉備国際大学社会学部教授平岡弘正先生に指導をお願いした。「これからの算数教育のあり方」や「多様な考えをもたせる算数の授業づくり」、「オープンエンドアプローチ」についての講話をいただくとともに、指導案作成の段階はもちろん、公開授業後の全体会でも適切な指導助言をいただくことができた。

4授業例
(単元)5年「体積」
(目標)L字型の図形の体積の求め方を既習事項を活用して考え、説明することができる。
(<問題>画像参照)
(<自力解決>画像参照)
(<発表、話し合い>画像参照)
・粘土で実寸大のL字型の立体を作ったことで、児童はイメージをもって考えることができ、体積の求め方をいくつも見つけることができた。
・相談タイムでは友達のL字型の立体と組み合わせて、右の図のような倍積の考えも見つけることができた。
・授業後の協議では平岡弘正先生に、粘土で作った実寸大のL字型の立体があるのであれば、水に沈めてあふれた水の量で体積を求めたり、メスシリンダーに粘土を押し込んで体積を求めたりするような、計算以外で体積を求める方法はないかを考えさせ実践すると、よりオープンエンドアプローチにつながり、発想が豊かになったであろうという指導助言をいただいた。

研究の成果

オープンエンドアプローチの問題では、今まで考えをなかなかもつことのできなかった児童も必ず一つは答えや解法が見つけることができる。児童が発表した答えや解法の全てを肯定的に受け入れるとともに、公平に扱うようにしてきたことで、算数を苦手としてきた児童が大変意欲的に学習するようになったと感じた。また、算数が苦手な児童には多くの答えや解法を見つけることを、算数が得意な児童には質の高い答えや解法を見つけることやいくつもの考えからきまりを見つけることを求めた。課題は同じでありながら、算数を苦手とする児童も得意とする児童も自分のめあてをもって主体的に取り組むことができるのも、オープンエンドアプローチの問題のよさだと感じた。
オープンエンドアプローチの問題に取り組む以前の6月と2月末に算数についての意識調査を行った。本校は算数に対して苦手意識をもつ児童が非常に多いが、そのような児童も、算数が楽しい、おもしろいという気持ちをもち始めている。また、算数が好きと答えた児童の理由に6月の時点にはなかった、「考えるのが好き、楽しい」や「いろいろな考え方で解く」といった回答が高学年になるほど多くあった。オープンエンドアプローチの問題に取り組むことにより、算数への意欲が高まっただけでなく、児童が考える楽しさを味わうことができたこと、そして多様な考えをもつことのよさを感じることができたのは大きな成果である。

今後の課題

オープンエンドアプローチの問題に取り組むことは、児童の算数への意欲を高め、一人一人の多様な考え方を引き出すことができるということを実感した。今後は、オープンエンドアプローチの問題を開発したり、どのような問題を、学習のどの場面に位置付けると効果的なのかを考えたりしながら研究を進めていきたい。

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