ふる里再発見 〜太伯学区〜
代表者:堀田 裕子 所在地:岡山県 助成年度:2010年度 教育活動助成
研究の目的
太伯学区は、古くから開けた土地であり、神社、仏閣を始めとして、宇喜多直家出世の足掛かりとなった乙子城址、乙子常夜灯、そして、江戸時代の幸島干拓の新田開発に伴う遺跡や備前大用水などの歴史遺産が多く点在している。また、市指定伝統郷土芸能「邑久郷シャギリ」に代表される文化遺産、絶滅危惧種の棲息が確認されている永江川河口湿地などの自然遺産にも恵まれている。
しかし、近年、家庭や地域の教育力の低下により、地域のことを語り継ぐ活動が廃れ、地域のことを知らない保護者や子どもが増え、自分のふる里への愛着や帰属意識が育っていない現状が見られる。そのことを危惧する声が地域の方からもあがっており、平成21年度から「太伯ふる里学習」として、地域の歴史や自然に詳しい方をゲストティーチャーとして講師にお招きし、学区の歴史遺産を調べパンフレットにまとめる「歴史探検学習」や、学区の自然や環境について調べる「環境学習」などを始めた。
平成22年度は、より多くの地域住民の協力を得て、「ふる里学習」の幅を広げるとともに、学校と地域、PTAの協働により、子どもたちが調べたことを「ふる里マップ」にまとめる活動を取り入れることにした。そして、出来上がった「ふる里マップ」を学区内へ配布することで、太伯学区の素晴らしさを子どもたちはもとより、家庭や地域にも再発見してもらい、地域を愛する心の育成につなげたいと考えた。
研究の経過
福武教育文化振興財団からの教育研究助成の決定を受け、組織づくりや5,6年生の活動計画(総合的な学習の時間の計画)検討などを具体的に進めていった。
1学校・家庭・地域協働の組織づくりと作成委員会の経過
太伯学区連合町内会長やPTA会長、地域協働学校運営協議会の方々、太伯学区の歴史に詳しい方、伝統芸能関係者、学校職員などで構成する「ふる里マップ作成委員会」を立ち上げた。
(1)作成委員会会議の内容・経過
第1回作成委員会(5月)
ふる里マップ作成の趣旨説明、及び編集方針(形式)や掲載する内容、印刷部数、今後の予定、役割分担などを決定した。
第2回作成委員会(10月)
児童が調べた内容をもとに作成した説明文の検討、レイアウトの検討、児童が調べていない所で是非、マップに盛り込みたい内容、写真などの検討を行い、マップの原型を作成した。
第3回作成委員会(12月)
印刷所から届いたゲラ刷りをもとに説明文の手直しや写真・絵などの大きさ、背景の色などについて校正を実施するとともに、印刷部数の再確認や配布計画などについて検討した。
平成23年1月、マップが完成した。
25,6年生のふる里学習
(1)学区の生き物調査と永江川河口湿地の調査(5年生)
1学期には、岡山淡水魚研究会の田中さんを講師にお招きして学区内の備前大用水や用水に棲息している生き物調査を実施した。続けて、学区内にある永江川河口湿地の生き物の研究をしておられる森さんを講師にお招きし、永江川河口湿地の生き物調査を実施した。
2学期になって、生き物とごみとの関係を調査し、永江川河口湿地でごみの回収作業を実施した。そして、調べたことや分かったことを中心にまとめたことをマップの中に盛り込んだ。(2学期)
3学期には、調べたことをふる里マップ完成記念発表会で発表した。また、グループで新聞の形にまとめ、発行した。
(2)学区歴史探検学習(6年生)
1学期には、学区内にお住まいの高原さんを講師にお招きし、3回に分けて学区内の歴史遺産の調査をした。調査した箇所は役割分担して、グループでまとめをした。まとめた文書と写真をマップ作成委員会に提供し、神社や仏閣の説明文に活用した。
2,3学期には、一人一人が調べたことをガイドマップにまとめるとともに、ふる里マップ完成記念発表会で発表した。
研究の成果
ふる里マップが完成した後、早速、学区ではふる里マップを活用した「太伯学区ウオークラリー」が開催された。子どもから高齢者まで老若男女約130名の参加者があり、地域の人々の交流ができた。また、学区内の全戸及び、小学校・幼稚園児の家庭にもマップを配布した。地域の方からは、「学区内にこんな所があるのをマップを見て初めて知った。太伯って素晴らしい所なんだね。」という声が聞かれ、早速マップ効果が表れたのを感じた。
マップの完成を記念して、2月23日には、「ふる里マップ完成記念発表会」を4,5,6年生の参加のもと小学校体育館で開催した。当日は、5,6年児童が調べたことや感想を一人ずつ、画像を映しながら自分の言葉で発表した。多くの子どもたちが、「自分たちが住んでいる太伯学区にこんな素晴らしい所があるのをみんなに知ってもらいたい。」とか、「自然を保護して素晴らしい環境を守っていかなければならない。」など、自分たちの住んでいる地域を誇りに思い、愛する気持ちが表れた感想を述べていたのが、嬉しかった。発表会には、大勢の保護者の方々や地域の方、山南地区の他校園の先生の参加もあり、子どもたちにとっては大勢の前で発表するいい機会でもあったし、自信にもつながったと思う。
また、このマップ作りを通して、地域の方々と子どもたちとの距離がぐんと近づき、学校・家庭・地域が協働して子どもを育てる環境づくりに一役買えたことも成果と言える。
今後の課題
マップ作りは今年度で終了したが、「ふる里学習」は継続していかなければならない。今年度作成したマップを活用して、次年度からは、マップに載っていない事柄についても、より深く調べてマップを補完していくことが大切だと考えている。地域の高齢者の方にお話を伺うと、次々めずらしいエピソードが出てくる。太伯学区には、まだまだ知られていない事柄が眠っているので、発掘していきたい。また、学区のことを調べる活動は、小学校教育のなかでしかできない。今後は、5,6年生に限らず、1〜4年生にも幅を広げ、地域人材をしっかり活用して、ふる里学習をすすめていきたいと考えている。