学校設定科目のカリキュラム開発と成果検証

団体名:岡山県立岡山一宮高等学校SSH評価研究グループ
代表者:新井 和夫 所在地:岡山県 
助成年度:2010年度 教育活動助成

研究の目的

本校は平成21年4月に文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、将来、国際的に活躍できる科学者・技術者、科学技術コミュニケーターの育成を目指し、カリキュラム開発に取り組んでいる。特に、「科学技術コミュニケーション」・「科学技術リテラシー」・「課題研究α」などの特色ある学校設定科目を新設し、教材開発を行いつつ実践している。このような科目を通して、生徒にどのような力が身に付き、どのように変容していくのか、客観的データをもとに定量的な分析を行うことを目的としている。

研究の経過

本校のカリキュラム開発について客観的に評価するために、教育評価に関する専門的な研究を行っているベネッセ教育開発センターの協力を得て、生徒アンケートの開発や分析・評価を行っている。また、ベネッセ教育開発センターの研究員を招いて教職員を対象に研修会を開催し、生徒の実態やアンケート結果について分析・講評をしていただき、教職員間で共通理解を深めることに活用している。評価結果をもとに課題をみつけ、改善を行い、よりよいカリキュラムを実践できるよう工夫している。

1学校設定科目の概要
(1)1年次
「科学技術コミュニケーション」、「科学技術リテラシー」を設定し、科学や技術について物事を論理的に考え伝えるコミュニケーターや科学や技術に関係した基礎的な知識技能を身につけた人材の育成をする。多数の題材をオムニバス形式に学習させる。その内容は、高等学校における課題研究や大学における学術的研究と有機的に結びつけるための基礎的な枠組みの構築という観点から研究者20名に実施したアンケートをもとに検討している。
(2)2年次
「課題研究Ⅰ」(理数科)および「課題研究α」をおこなう。学術研究の基礎となる問題の所在、仮説、実験・調査、分析・検証について論理的に考える訓練を行い、それを論文形式や学会発表のポスター形式にまとめる。また、理系文系にとらわれず教科間で連携し、指導内容・指導方法など授業改善に取り組む。
(3)3年次
高い能力を持った生徒を対象に、増加単位として学校設定科目「課題研究Ⅱ」(理数科)または「課題研究β」(普通科)を設定している。これらの科目では、高等教育レベルの内容も学習させ、研究者からの直接指導も受け、発展的に課題研究に取り組む。

2アンケート実施状況
(1)対象
全校生徒を対象にアンケートを実施した。
(2)実施日
第1回:5月25日第2回:11月29日
(3)内容
学力層別の比較、経年変化、学年間比較、学科比較等を行い、今年度の活動の成果と課題を検証した。

3教員研修会
アナリストとしてベネッセ教育研究開発センターより、高田正規特別顧問、竹内正興主任研究員、杉原亨研究員を招聘して、アンケート項目の検討や結果の分析を行った。第1回アンケートについては8月17日に、第2回アンケートについては1月13日に、アナリストからの報告を受け、さらに本校独自の分析も行った。その後、全教職員を対象にアンケート結果についての研修会を実施した。

4アンケート結果
学校設定科目の達成度を、「A知的好奇心」「B数量的スキル」「C思考力・表現力」「D情報処理スキル」「E基礎的な学習技能」の5項目で測った。

研究の成果

ここでは、アンケート結果から読み取ることができる本校学校設定科目の成果を述べる。
2年生は学校設定科目を受講している学年であり、3年生は受講していない学年である。2年生と3年生の理数科と普通科の比較(図)より、B数量的スキルやD情報処理スキルの項目で、2年生において理数科と普通科の格差が減少傾向にあり、1年次の「科学技術リテラシー」の成果と考えている。学校設定科目の達成度より、学力レベル(模擬試験の結果)と学校設定科目の達成度には、今のところ相関が認められないことと、C思考力・表現力の項目で高まりが認められなかったことを受け、学校設定科目と学力の関連について本校独自に分析を行った。「科学技術コミュニケーション」の各講座の効果を検証するため、統計的手法を用いて検証したところ、いくつかの講座については効果が見られた。また、SSH活動によって身につけた能力と数学の学習に対する意識の関係を検証したところ、両者の間には高い相関があることが分かった。さらに、SSH活動が、模擬試験における数学の成績に及ぼす影響について検証した。その結果、SSH活動を行うことによって、数学の模擬試験の成績にプラスとなる効果が出る可能性があることが分かった。

今後の課題

生徒アンケートについては、学校設定科目に関する質問項目に、国語や英語の力と関係が検証できる質問項目を設けるなど、内容や結果の分析方法を検討していく必要がある。
「科学技術コミュニケーション」はこの科目で身につけさせたい力を教職員に示しつつ、講座内容を吟味していく必要がある。
「科学技術コミュニケーション」「科学技術リテラシー」をベースに、「課題研究α・β」「課題研究Ⅰ・Ⅱ」の充実により個の能力の伸長を図りつつ、知識や技能を活かして社会に貢献する意識を醸成していくことが課題である。また、進学のための学力向上に効果があるか、客観的データに基づく定量的な分析を統計的手法を用いて検証する。
SSHの学校設定科目は生徒の数学的・科学的リテラシーを高め、学びに向かう動機付けに有効であると考えられる。さらにその有用性を検証するため、今回は数学を中心に学校設定科目との関連を検証したが、国語と英語についても検証を進めていく必要がある。

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