確かな学力の定着を目指す教育活動の組織化・活性化 〜生徒を鍛え、心をつなぐ授業づくりをめざして〜
代表者:金谷 啓司 所在地:岡山県 助成年度:2010年度 教育活動助成
本校の現状
中学校では、教科の授業こそが教育の根幹であり、教員のアイデンティティであるにもかかわらず、従来、教科の授業改善は個々の教員に委ねられてきた。そのため、教員間で教科の枠を越えて、授業改善についてじっくり議論し、研修することはほとんどなかった。しかし学力低下が叫ばれる今、授業改善を学校教育改善、校内研修の中心課題にすることが強く求められている。
一方、本校では、机に伏して授業に参加しようとしない生徒、基礎学力が欠落し学習に自信が持てない生徒、私語や授業遅刻、授業エスケープを繰り返す生徒等、様々な問題を抱えており、「本当は楽しく、生徒たちが積極的に学ぶ授業がしたいのに」と、日々ストレスを感じながら授業を行っている教員も少なくないのが実情である。
研究の経過
そこで、本校では、こうした個々の教員が抱えている「授業で子どもたちの学びを豊かにつくり出したい!」という願いを出し合い、教科の枠を越えて全教職員が授業改善に参加できる取り組みを考えることとなった。そこで、各教科の固有性から出発するのではなく、どの教科の授業でも見られる子どもたちの学習態度から出発し、子どもたちの学習実態を改善するという目標を共有し、様々な教科の授業で研究を進めるために、「学習意欲を高めるグループ」「学び合いをつくり出すグループ」「つまずきを克服するグループ」の3つの研究グループを編成することとした。
1教科の枠を越えた3つのグループの課題
(1)学習意欲を高めるグループ
課題である「基礎学力の定着と学習意欲の向上」を目指し、特に授業の導入部分で生徒の興味・関心を持たせる指導の工夫を研究。
(2)学び合いをつくり出すグループ
学校内のさまざまな場面で、友だちとの会話や活動を通じて多くの知識・技能を身につけていく過程で「よりよい学び合い」をつくる学習活動の開発と実践を研究。
(3)つまずきを克服するグループ
既習事項から本時の内容理解、黒板の写し方など、生徒一人ひとり異なるつまずきの場面や原因を明らかにして、それらを克服させる指導の工夫を研究。
2学び合う教師集団
ア教科の偏りがないグループ分けの工夫
所属するグループをどう決めるかは、当初、「教科単位のグループがよい」「担当教科が同じ教師をメンバーに入れてほしい」といった意見が出た。それでも、「いろいろな教科担当が混在した形での取り組みを」と提案し、教師に希望テーマを聞いた上で、特定の教科担当が偏らないように編成した。
イ指導案はグループで話し合って作成(専門外だからこそ「つまずき」を代弁できる)
授業公開日前には、グループごとに2回の指導案検討会を開き、授業を公開する教師が作成した指導案について、全員で意見を出し合って練り上げていく。
ウ共通課題を設定し全員で取り組む姿勢を再確認
今年度からそれぞれのグループ課題に加えて、共通課題「視覚に訴える授業の工夫」を加え授業づくりを進めている。それは、校区の小学校の研究推進とも軌を一にしている。
研究の成果
- 教科の枠を越えて研究に取り組んだことで、それぞれの教師が持っている知恵と工夫を出し合い、多面的な教材研究や指導案検討、模擬授業ができた。
- 教材提示の仕方や指示の出し方にいたるまで、同じ教科では見落としがちな点を補うことができ、またそれを再確認できた。
- 授業参観においても参観者が当事者意識をもって参観することができたことで、その後の協議も忌憚のない意見交換が活発に行われ深まりのある会となった。
- 中学校には、他教科の指導内容に口出しにくい雰囲気がある。教科単位のグループにすると、担当教師が一人しかいない教科もでてくる。それでは研究は深まらない。このグループ分けによって、研究が全員のものとなった。
- グループごとに行う2回の指導案検討会において、授業を公開する教師が作成した指導案について、全員で意見を出し合ったり、手作り教材を一緒につくったりする。このような、教科の枠を越えた共同作業によって同僚としての意識が高まり、皆で良い学校をつくっていこうという意識が高まっている。
今後の課題
「子どもたちの学習実態の変容に焦点をあてた授業改善の在り方」であると認識している。それには、「これまで机に伏していたA子が授業に参加するようになった。」「B男は基礎的・基本的な知識・技能を習得できた」「○年○組は間違えた友だちと一緒に学ぶことができるようになった」などの具体的な事実を基に指導方法の研究・開発していくことが必要である。こうした子どもたちの事実を一つずつ見つけ、その変容と実践を記録していくことが必要である。
小中連携では、次年度の教育課程編成期から①目的②方法③内容④課題等を明確にし、校長会、教頭会、教務主任者会を開催し、それぞれ役割分担しながら調整していかなければならない。また、リーダシップをもって、取りまとめをする方が必ず必要になる。
全教師の共通確認事項及び実践項目
- 苦手意識をもっている生徒には、おもしろさより小さな前進を実感させることの積み上げが大切。
- 授業の最初でつまずかせない工夫が(つまずきを授業に生かす工夫も)大切である。
- 授業の節目で全員が一つになれる瞬間を取り入れる。
- 生徒の授業規律、発表の仕方なども全ての教科・場面で鍛えることを心がける。
- グループ任せ、生徒任せにせず学習の方法や手立ての明示をする。
- 学び合うからこそ、つく学力を大切にする。
- 小学校の内容にさかのぼって指導するなどが大切である。
- 教室環境の整備・美化で落ち着いた雰囲気が大切である。
研究授業は重たいもの、発表者一人に負担をかけるものといった今までの概念が、研究方法によっては、こんなに楽しく取り組めるものに変わることを実感できた。生徒と教師が共に学び合いながら、この研究実践が継続することを心から願っている。