玉島各地区の秋祭り・千歳楽の運行の歴史と現状
代表者:宮尾忠昌 所在地:倉敷市 設立年:2006年 メンバー数:5名 助成年度:2008年度 文化活動助成
目的
千歳楽とは瀬戸内海一円に広がる太鼓台(祭りの山車の一種。屋根部分に布団を重ね、内部に縦置きの太鼓を持ち、担いで運行される。他の名称はチョーサ・ふとん太鼓など)の岡山県南での名称である。玉島各地域の秋祭りに若者を中心として継承されている千歳楽文化は、地域の生活に根ざしているにもかかわらず、周囲の評価が低く、少子化等の社会の変化によって存亡が危ぶまれる地域がありながら、調査が不十分である。また、地域においてもこれまで口伝による文化継承が主であったため、保存のための記録が未整備である。このため、このままでは地域の伝統文化が失われてしまう可能性もある。そこで、たとえ一度秋祭りが断絶してもいつか復活できるだけの資料となることを目指して、地区ごとに現在と過去の詳細な記録を作成し、書籍化によって地域に対し玉島の秋祭りの全体像を周知し、伝統文化の保存・継承・再生のための一助となり、また千歳楽文化を調査研究する後進のための足がかりとなりたい。
経過
千歳楽の運行の様子を正確に記録するため、文書化に当たって地域ごと(玉島・柏島・長尾・富田・乙島)に地域史・神社史・神輿の運行・千歳楽の形態・千歳楽運行時の太鼓のリズム・道中歌・祭り当日のタイムスケジュール・運行団体(青年団)・各町内ごとの様子の9項目を設定し、市史町史その他の文献と各地区へのインタビューによって祭りの全体像をとらえた。
平成14年11月に乙島分の原稿を作成した後、平成18年から玉島各地を対象とした調査を開始。平成18年12月から長尾地区を調査(聞き取り対象:長尾神社・宮原・鉾島・新倉)平成19年1月から玉島地区の羽黒神社分調査。(聞き取り対象:羽黒神社・新町・五楽会・亀崎・吉浦・上吉浦・福島)同年4月に柏島地区を調査。(聞き取り対象:柏島神社・宮地・平尾・五明・福井・船宮・押山)7月に富田を調査。(聞き取り対象:富田八幡神社・道口東・亀山・北川)10月に玉島の上成稲荷神社分を調査。(聞き取り対象:上成・堤下)
調査過程で郷土史家である三宅正堂氏より羽黒神社の古文書をいただき、この古文書読解に当たっては吉備国際大学の小野敏也氏のご協力を仰いだ。
印刷製本に当たって、平成20年6月に印刷用紙が値上げされたため、当初180頁の予定であったところを、137頁に圧縮した。
成果
玉島各地(玉島・柏島・長尾・富田・乙島)の秋祭りの地域ごとの違いを明らかにすることができた。玉島は羽黒神社分と上成稲荷神社分に分かれ、羽黒神社分では阿賀崎と玉島港周辺とで運行形態が違う。港周辺地区の千歳楽は神社付近で先供として神輿を先導、阿賀崎の千歳楽は阿賀崎内で神輿の供をする。上成稲荷神社分の千歳楽は羽黒神社の神輿が上成稲荷神社に差し掛かるのに合わせて神社前に集合する。柏島では日曜日の朝の宮入で各町内の千歳楽が境内に集う。長尾では祭礼二日とも夕刻より各町内の千歳楽が神社下に集まり、統一行動をとる。富田には富田八幡神社分と神前神社分があり、土曜日昼に道口川沿いにパレードをする。乙島では日曜日朝6時の宮下がりから午後6時の宮入まで各支部が祭りへの参加順に列を作って乙島一円を巡行する。
太鼓の叩き方は4種類あり、さす「サシタ」・おろす「ドンドコ」・ひく「エッサ」・通常の運行と千歳楽の行動を叩き分ける。道中歌は2種。「伊勢唄」と「千歳楽の唄」で、「伊勢唄」は乙島と玉島の一部、「千歳楽の唄」は玉島全域で歌われる。
平成20年9月『玉島千歳楽誌』として発行。(A5版137頁定価1,500円)地元玉島の今城書店にて販売。岡山県立図書館、倉敷市立図書館、浅口市立図書館、笠岡市立図書館、早島町立図書館、岡山県立玉島高等学校・玉島商業高等学校・倉敷市立玉島東中学校・玉島西中学校・玉島北中学校・黒崎中学校の各図書室、堺市立図書館、観音寺市立図書館、新居浜市立図書館、山陽新聞社、玉島テレビ放送に寄贈。
今後の課題と問題点
岡山県内の千歳楽(太鼓台)文化の調査は現在ほぼ手つかずの状態であるため、玉島だけでなく、浅口市・笠岡市・倉敷市連島などの他の地域についての調査と、千歳楽の各部を詳細に記録した図録の作成が待たれる。また、香川や愛媛、大阪など他府県の太鼓台と岡山の千歳楽の関係、瀬戸内海沿岸部に広がる太鼓台文化圏での全体像を明らかにすることが望まれる。