岡山県における江戸時代の数学(和算)
代表者:額田昭子 所在地:岡山市 助成年度:2008年度 文化活動助成
目的
江戸時代、日本独自の数学が高度の発達をした。岡山県でも幕末に和算書が発行され、奉納算額は26面現存している。これらのことは一般にあまり知られていないので、大切な文化財が失われてゆこうとしている。そこで、岡山の和算について研究した成果を公開講座で解説し、講義録などを出版している。県内にまだ残っている和算書の保存や、埋もれている算額の発見につながることを期待し、多くの人に日本の伝統文化としての和算を伝えるのが目的。
経過
平成10年、岡山県和算研究会発足と同時に入会し、本格的に研究を始めたが、岡山の和算について一般の人にも気楽に読める入門書がほとんどないことに気がついた。
京山会(おかやま長寿学園および岡山県生涯学習大学修了者有志の会)という学習団体では互教互学の講座(会員が講師役となり、2時間ずつ8回の一般公開講座)を開催しているが、そのときの講義録などを小冊子として自費出版してきた。これらは、他の講演のテキストに利用したり、あるいは3冊をまとめて『岡山和算物語』の書名で、岡山県和算研究会が開催した「江戸文化と数の世界」展の参考資料として研究会から再版された。いずれも少ない部数の発行であるが、県内の公立図書館に寄贈し、残部はほとんどなくなった。
ところが、近ごろになって和算が注目されはじめ、これらの冊子の寄贈依頼が、県外からも海外からも来るようになった。そこで、今年は関孝和没後300年の年でもあり、記念に既刊の小冊子5冊分をまとめて1冊の本にして再版することを計画した。
幸いにも福武教育文化振興財団の文化活動助成を受け、『和算を語る—岡山算歌—』の書名で再版発行が実現した。
「岡山算歌」は岡山県和算研究会船倉武夫会長の名づけによる副題であるが、これは、教育文化の県、岡山への「岡山賛歌」でもあると思う。
成果
『和算を語る—岡山算歌—』は、既刊5冊の合本である。分冊はそれぞれ特長がある。
(一)「和算と岡山県の算額」:日本数学史のあらましと、岡山県ゆかりの算家と算額
(二)「遊歴算家と岡山の和算家たち」:幕末の備中を中心に、遊歴算家の旅日記引用
(三)「答曰(コタエテイワク)」:小野光右衛門と、その奉納算額における問題
(四)「岡山和算物語(続)」:見学可能な算額、美しい算額と備前の数学愛好者たち
(五)「算額にみる生涯学習」:算額から読みとれる江戸時代の生涯学習
これらは、いずれも50ページ前後の小冊子であり、それぞれ手軽に読める良さがあるが、まとめて背表紙のある本としておくのもそれなりの意義がある。
平成20年秋、浅口市立金光歴史民俗資料館特別展として「浅口の奇才小野光右衛門」展が開かれた。
小野光右衛門は、地方行政に手腕を発揮した政治家であるとともに、数学・天文・暦象の大家で、明治時代には門人たちが土地測量で大いに活躍をした。展覧会会場には、参考図書として『和算を語る』と『答曰』が置かれ見学者の理解を助けた。また、期間中の11月8日には講演会・パネルディスカッションが開催された。講演は金光和道金光図書館長の「小野光右衛門について」と、「郷土の和算家小野以正」と題して額田昭子が行った。パネルディスカッションは「浅口の伊能忠敬小野光右衛門」であり、今回の出版は時機を得たものであった。
今後の課題と問題点
郷土の和算研究は、地元の方の理解と協力が必要。日本の誇るべき伝統文化を守り伝えることの大切さを、多くの人に知ってもらい、次世代にも伝えること