小学校第6学年社会科で児童の「市民的資質」を育成するための指導法の研究
所在地:和気町 助成年度:2008年度 教育活動助成
研究の目的
成熟した社会を形成するために、権利や個性を尊重し、自律した個々人の意思に基づき社会参画する為の「市民的資質」の育成が今求められている。しかし、「市民的資質」の育成に大きな役割を果たす小学校社会科の学習において、その指導法は十分には確立していない。そこで、本研究では、小学校第6学年社会科の学習に焦点を当て、現行の学習内容を元にしながら「市民的資質」の基礎を育成する指導法について研究を行った。
研究の経過
本研究以前に過去2年間小学校6年生の社会科学習についてその指導法について研究を行った。初年度は歴史学習の中で社会的思考力の向上をねらった指導法について、次年度は歴史学習で公民的資質を育成する指導法について研究を進めてきた。本来、社会科では、学習内容を知識として獲得するだけにとどまらす、社会構造や民衆心理など現代社会を構成する様々な事柄を科学的に思考し自分の意思に基づき行動することができることを狙っていると私は考える。しかし、過去2年間では資料を読み取り、思考を促すための学習は実践してきたが、それらの読み取ったことや思考したことをもとにして、「自分だったらどうするか」、「なぜ、当時の人達はそのような行動をしたのか」などまで考えたり話し合うことはできなかった。そこで、本年度は、過去の研究の課題をふまえ、歴史の中の人々から自分達が社会を形成する市民としてどうあるべきかを歴史の中に身を置いて学習する授業実践を行った。
1小学校第6学年の段階での「市民的資質」の基礎を育成するとはどのようなものか
市民的資質を小学生で育てることはなかなか難しいことであると考えている。それは、複雑な社会構造を理解することの難しさや一つの事象に対して人々によって多くの考え方があるような多様な価値観が理解できにくいからである。そこで、本研究では、「『市民的資質』の基礎」として、歴史の中のいろいろな市民の姿を知り、資料の読解や学習課題に対しての話し合いの中で、事象の背後にある社会はどのようなものであったかを知り、自分達がその時代にいたとしたらどのような考えで行動したかを話し合い、学習の最後に自分ならどうするかを意思決定する学習を複数回取り入れることにした。学習の手法としては、ロールプレイを取り入れた。市民的資質を育成する最終目標は図1の段階3の「実際に行動を起こす」ではあるが、本実践では、段階1を市民的資質の基礎段階と考えて授業実践をおこなった。
2授業実践の実際
(1)江戸時代末「ペリー来航〜日本を開国するか戦うか〜」
「アメリカ」と言えば児童は強大で先進的なイメージを持っている。鎖国政策をとっている当時の日本にそのアメリカが開国してくる出来事がこの「ペリー来航」である。児童は現在のイメージだけを頼りにすると絶対ペリーに従い即刻開国することを選択するであろう。しかし、社会はそんなに単純なものではない。江戸時代の学習のはじめには、「なぜ江戸幕府が鎖国政策を行ったか」について学習した。児童は既習事項から、「ペリーが来ても従わず、開国しない。」という意見と、「開国する。」という意見が2分した。授業の中で、資料活用として、当時の東アジアの西洋列強の植民地地図を色分けしたり、ペリーが乗ってきた船と当時の日本の最大級の船との比較を行った。児童は既習事項と資料からの情報収集で開国派と鎖国派に立場を明らかにして話し合いを行った。児童は、なぜ自分が鎖国派なのか、また開国派なのかその理由を明らかにした上で話し合いを行った。
(2)昭和時代「15年続いた戦争〜戦争しないと日本は救えないのか〜」
日中戦争をはじめとする15年間続いた戦争の被害は児童は被害国の国民として空襲や原爆投下といった事実を知っている。しかし、そもそもなぜ戦争をしたのか、それを避けることはできなかったのかということは考えていない。また、被害国としての意識はあるが、加害国としての意識が低い現状であることは以前の研究で明らかになった。そこで、本実践では、満州事変が起きる頃の米価の変遷や国民の生活状況、世界の状況(世界恐慌)等の資料の読み取りから社会状況を知り、戦争をせずに日本の現状を打開する方法がないかを考えた。そこには、「日本国民を救うため」という信念を持って話し合いを行った。各班の話し合いの結果は写真2の通りである。児童の考えの中では、「日本の近代化の技術を東アジア諸国に提供するかわりに貿易をして利益をあげる」や「一つの国になる」、「互いの利益を考えて外国と話し合う。」など考えが出た。しかし、全員が納得する解決策は出なかった。6年生として経済学等の知識がない上に学習経験もないので難しいことであるが、自分の意思を明らかにして、複雑な社会状況をふまえながら様々な考えを知ることができた授業実践であった。
研究の成果
市民的資質の基礎育成の取り組みについて
市民的資質が高まったどうかの評価の方法が確立していないので、数値を使って客観的に研究の成果を見ることができにくい。そこで、実践2の授業後のアンケートの一部をグラフ1として提示し、児童が「戦争に対して防ぐことができるか」、「防ぐことができる立場は誰か」の結果を見てみる。すると、「戦争は防げる」と「強く思う」、「思う」と回答する児童が多かった。さらに、「国(政府)だけが防ぐ」と「思う」児童に対して「あまり思わない」児童の数が多かった。
一方、「国民にも戦争を防ぐことができる」に関しては、「思う」の方が「あまり思わない」を大きく上回った。これらに関して表1が回答の理由の代表的なものである。国民の力の強さや社会を構成しているのは国民であることを感じられたのは、状況を自分で判断し、分析し様々な価値観を知りながら自分が正しいと思う意思決定ができた(経験できた)ことの表れではないかと考えている。
表1児童の「国民にも戦争を防ぐことができる」理由
・国民は団結するとすごい力を発揮するから。物事は政府が決めているけど、政府に頼っていて、政府が崩れたときに何もできないというのは変だから。
・国民は一般の人であまり効果がないかもしれないけど、絶対に防ぐことができないとはいえない。政府がすると効果は大きいけど、国民でも思っていることがあるからそれを伝える(表現する)ことが大切。
今後の課題
市民的資質の育成とは児童がどのようになったらそれが達成できたといえるのか、研究を進めていても、まだはっきりとしていない。資料から情報を読み取り、当時の社会状況について考え、自分の価値観や友達の考えを参考に最終的に意思決定をする授業が本当に妥当なのか検証ができなかった。今後は、海外のシチズンシップ教育やグローバルシチズンシップ教育などを参考にして、具体的な資質獲得の児童像とはどのようなものかをスモールステップで明らかにしていきたい。それは、新学習指導要領の「習得・活用・探求」にもつながることなのかもしれない。